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教室を出たら 4
「あれー??!! マキちゃんと藤田じゃないかー?」
冷汗が背中をツーっと伝った。手を繋いでたの、見られたか?
「マ、マキちゃん言うなって――」
振り返ると、自転車にのった柿本が、ニヤニヤしながら俺たちを見ていた。
「ふーん。お前ら、そーいう関係だったんだ?」
完璧に見られたな――。
「なんだ、見られちゃったのか。そう、俺たちラブラブなんだよねー。ね、マキちゃん」
おい、藤田……。
色々思うところはあるものの、柿本に見られたショックで俺は何も言えずにいた。
「何か、マキちゃんはすごく恐い顔してるぜ、藤田?」
柿本が俺を見て、今にも吹き出しそうになりながら言った。
「だから、テメーがマキちゃんて呼ぶなって言ってんだろ!!」
恥ずかしさと、からかわれた事に対する苛立ちで、モヤモヤしたまま俺は柿本を睨んだ。
「そうそう、俺だけだぜ。牧野をマキちゃんて呼んでいいのは」
藤田は何を言われても動じないって感じで返した。多分、藤田の対応が正解なんだろう……。
「あのな……」
俺は、ひとりで慌てている自分が情けなかった――。
「はいはい、わかりました。ま、どうぞお幸せに。俺、人の恋路を邪魔するつもりなんて、これっぽっちもございませんから」
柿本はそう言い残すと、右手を振り「じゃな!」と言いながら去って行った。
「おー。俺たち、もっと幸せになったるでー」
藤田が無邪気に両手を振っていた。
「早く消えちまえ」
情けないことに、俺は悪態をつくのがやっとだった。
柿本が見えなくなった後も、しばらくの間、俺は口を聞くことが出来なかった。精神的にも肉体的にもメチャメチャ疲れた。
「ごめん、やっぱ、俺、帰る」
やっと言えた言葉がそれだった。
「えー、マキちゃん帰っちゃうの?」
藤田がメチャメチャ残念そうに言った。
「なんかさ、すっげー疲れた」
俺ってもしかしたら、結構繊細なのかもしれない……。
「じゃ、やっぱり俺の家で休んでから帰ればいいじゃん」
いやいや、それが疲れる原因になるんじゃないのか?
「ねー、牧野ぉ、怒ってんの?」
「ちょっとね」
「ごめん……。でも、俺、すっげー幸せだから、つい誰かに言いたくなっちゃってさ。大好きな牧野が俺のこと好きでいてくれたし、それから、お前のこと――」
「おい、それ以上言うなよ」
お前も俺のことが好きだっていうの聞いて、奇跡のように思えて心の中で浮かれてたよ。
でも、だからって……。俺の顔見て嬉しそうな顔している、可愛い可愛い藤田に、この俺が抱かれてしまったなんて……。
やっぱり、もう、色々疲れすぎて、俺は家に帰りたい。
「藤田の気持ちわかったけど、やっぱ今日は帰るわ」
俺がそう言うと、藤田が俺の身体を、ガバッと抱きしめて、俺の目を覗き込みながら悲しげな顔をした。
「牧野ぉ……」
「お、おい。ここ外だし」
「嫌だ、帰らないでよ」
なんだよ、そんなウルウル攻撃すんのかよ……。きたねーぞ!
「ね、ホントにゲームするだけだって。少しだけで良いから、俺と一緒にいてよ」
うー。その顔、ダメだ。ずるいぜ藤田。何度も惑わされる俺も俺なんだけど――。
「もー! わかったよ、何もすんなよ」
「うん、うん、ゲームだけってさっきから言ってるじゃん。さ、行こう」
藤田の悲しそうな顔が、一瞬で晴れた。そして、嬉しそうに俺の肩に手をまわすと、颯爽と歩き出した。
俺、めっちゃエスコートされてる……
おいおい、やっぱり、何か違うんだけど――。
おわり
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