36 / 36
大好きだから 6
「さて、家に入ろう」
無言で宮坂の背中を見送っている藤田に声をかけた。
「あ、そうだね」
少し驚いたように藤田が振り返った。
家の中に入ると、居間に居た母親と少し話をしてから、自分の部屋に藤田を連れて行った。
「わ、あぶな……」
部屋に入った途端、藤田が抱きついてきたので、俺はバランスを崩してしまった。
「あ、ごめん、ごめん……」
藤田の顔を見ると、少し悲しそうな表情をしていた。
「馨、どうした?」
俺が聞くと、藤田がちょっと口を尖らせてから下を向いた。
「なぁ、マキ、抱きしめて」
「え? あぁ……ちょっと荷物置かせてよ」
いつもと様子が違う藤田に少し戸惑いながら、俺は荷物を置き、カーペットの上に腰をおろした。
「はい。おいで馨」
俺は両手を広げて藤田を見た。珍しく自分が藤田をリードしているようで、ちょっと嬉しかった。
藤田は俺の腕の中に入り込んでくると、俺の胸に顔を押し付けた。
「どうかしたの?」
「ん? ホッとしてさ」
藤田がそう言ってから顔を上げ、ニッコリ笑った。
「え?」
「宮坂さん」
「あぁ……」
「牧野を取られるなんて、あるわけないと思っていたけど、やっぱり心配だったから」
藤田はそう言って俺の身体に腕を回し、ギュッと抱きしめた。
「ごめんな。心配させて」
俺がそう言うと藤田がため息をついた。
「ホントだよ......」
俺の胸にもう一度顔を埋めて藤田が呟いた。そんなに心配してたんだ?
「ゴメン。俺、馨がいるだけで幸せなんだよ」
「ホント? 俺もだよ! マキちゃん」
俺は、顔を上げて、目を輝かせている藤田の唇にキスをした。
まあ……2人の愛を再確認出来た感じのホワイトデーだったかな。
「なぁ、馨?」
「何?」
「なんて書いたの?」
「え?」
「宮坂にあげた煎餅にさ」
「んー? 良いじゃん。別に」
「気になるよなぁ」
「もう、いいから」
今度は、藤田が俺の唇を塞いできた。まぁ、良いか。幸せならば……。
俺は牧野を守り続けるよ
愛しているから
永遠に……
「大好きだよ、牧野」
「大好きだよ、馨」
二人でおでこをくっ付けて、囁きあった。
「おいおい……それはダメだってば」
「いいじゃん、手でさぁ……」
「ダメだって。我慢出来なくなるから……」
そう言って俺が藤田の手を押さえると、藤田は「へー。そうなんだ?」と言って、いたずらっ子のような顔をして笑った。
おわり
ともだちにシェアしよう!