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大好きだから 5

 電車を降りると、家に向って歩き始めた。  駅からわりと近いので、ゆっくり話しながら歩いてきたけれど、あっという間に家の近くまで来てしまった。  家の門が見えてきた頃、藤田が家の方を指さした。 「マキちゃん、あそこに居るの……」 「え?」  藤田の指さす方を見てみると、そこには、見覚えのある女の子が立っていた。その途端、楽しかった気持ちが消え去ってしまった。 「宮坂?」  俺が声をかけると、宮坂がこちらを向いた。 「あ、牧野先輩」  いつもの強気な声じゃなく、少し小さな声だった。 「……もしかして、ずっと待ってた、とか?」  弱気な姿を見ると、若干心配になってしまうが――。 「いえ、違います。今来た所です。牧野先輩に会えたら良いなって思って……でも、藤田先輩と一緒だったんだ……」  宮坂が藤田を見てガッカリしたような顔をした。 「俺たちデートして来たんだよ」  藤田がそう言うと、宮坂が不機嫌な顔をして藤田を睨み返した。 「一緒だった方が、都合が良いです」 「都合が良い? 一体何の話なの、宮坂さん?」  挑戦的な視線を向けてから、藤田が柔らかく微笑んだ。 「藤田先輩」 「何?」  宮坂が深呼吸してから一気に話し出した。 「牧野先輩を悲しませるような事は、絶対しないで下さいよ!」 「当たり前じゃん。だって、俺、マキの事――」  そこまで藤田が言うと、宮坂が手を前に出して「やめて下さい」と言った。 「それ以上言わないで良いです」  そう言った後、宮坂が俺の方に身体を向けた。 「それから、牧野先輩」 「俺? 何さ」 「藤田先輩は、あり得ないって言うと思うし、牧野先輩もそんな事無いって思ってるかも知れません。でも……もし……もし、牧野先輩が藤田先輩に飽きたりすることあったら、私の事も、真剣に考えてみて下さい。きっと私、今よりずっと大人になってます! 牧野先輩の事も、周りの人の事も、ちゃんと考えられるようになります。だから……」  宮坂が食い入るように俺のことを見ていた。でも、俺、君の気持ちには答えられない。どんな言葉を言われたとしてもね。 「あのさ宮坂、悪いけど、藤田とは別れないから、もう俺の事は、諦めろよ。俺なんかより良い奴いっぱいいるだろ?」  俺がそう言ったら、彼女は一瞬俯いてしまった。もしかしたら、泣いているのかも知れないと思った。 「そう言えば、そうですよね。私、頑張って、いい彼氏見つけます。牧野先輩が、私を振った事を後悔するくらい、いい女になりますから!」  宮坂が顔を上げ、藤田と俺のことを交互に見てから、言い放った。 「あぁ、頑張れよ」 「私、絶対負けないですから! さようなら!」  宮坂はクルっと向きを変えると、駅の方に向かって走って行った。 泣かれるよりは良かったのかも知れないけど、振り回された感が強くて、メチャメチャ疲れた。

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