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第11話

目が合うとつい、そらしてしまう。 恥ずかしくて。 互いの唇を啄んでるうちに昼間の疲れが襲ってきて、 乱れた浴衣もそのままに、俺は柚希に抱きしめられて眠っていた。 長い腕と脚に包まれるように寝ていて、 大きな犬に懐かれたような気分だった。 視界の隅で携帯が光っているのが見える。柚希を起こさないようになんとか手を伸ばして取ると、お父さんからだった。「変わりないか」とこちらの様子を気にしているメールが入っている。 特に変わりなく元気にしていると返そうとすると、柚希が、う〜んと声を上げる。 起こさないように手短に文章を打ち込んで返信した。「もう朝?」柚希が目をこすりながら呟く。 今の時刻は4時。もう少しだけ寝ていられる。 「いや、もうちょい寝てて大丈夫だけど…」 「じゃあ寝ようよぉ」俺を抱きまくらと思っているのか、ぎゅっと抱きしめてくる。 甘えるような声色に逆らえず、俺も抱きしめ返して二度寝した。 「お前ら、宿題とかあんの?」義明さんがふいにそういった。「あるにはありますけど、小学生の頃よりはずっと少ないです。観察日記とか、図画工作もないし…」「ふーん、そうなんだ。でもないわけじゃないんだろ?手伝ってくれるのは勿論すげーありがたいけど、自分たちのためにも時間使いな。ここに来てから遊んだりしてないだろ」言われてみればそうだ。初日から俺がぶっ倒れて、失態を取り戻そうと必死だった。一応事前に貰ったシフトにはちゃんと休みが組まれていたけど、俺はそれを返上してバイトすることを望んでいた。 「宿題の事忘れてた」隣で柚希がいっけね、みたいな顔をする。 「明日ってお前ら休みになってたよな。宿題とか遊びとか、色々やる時間にあてな」 義明さんはそう言って仕事場へ向かっていった。 宿題って何があったっけ、と思いながらシーツを畳んでいると、ちょん、と肩を突かれる。振り向くと、柚希がちゅう、とキスしてきた。 「真面目な顔かっこいいね」うふふ、と笑って裏側の棚に回る。 最近の俺の一番の悩みがこれだった。元々スキンシップというものが好きな柚希は、部屋以外でもこういう事をしてくるようになった。 嫌とかじゃない。正直人目のないところでイチャイチャするのは興奮する。 でも、限度というか我慢の限界というものが俺にもある。嫌でも思い出してしまうのだ。二人で互いの体に触れながらまどろんでいく、高校生が体験するにはあまりにも甘い夜の事。しかもほぼ毎日。今日は我慢した方がいいのかな、と思っていると柚希が俺の布団にそっと入ってくる。だめなの?と言いたげな目で見つめられることにめっぽう弱かった。そもそも、誘われて断るつもりなんてないけど、こんなにいい思いしていいのかなぁ、と思った。 俺も俺で進化していて、柚希の甘えたい気配みたいなものが分かるようになってきた。 風呂の掃除をしているとき、 その雰囲気を察して、俺は「あ、あっちで呼ばれたから」と嘘をついてその場を抜け出した。あぶねぇ、という気持よりも、やっぱすればよかったかなぁ、という後悔の念の方が大きかった。でも、一日中興奮しっぱなしではさすがに頭がどうにかなってしまう。悶々とした思いを振り払うように、俺は長い廊下を駆けていった。 その日の晩、俺も柚希もいつもより口数が少なかった。夕飯の後、いつもならどっちが先に風呂に入るかのじゃんけんをするところだった。 「先、入る?」尋ねると、「うん」と柚希が言う。あからさまにしょんぼりしている。今日柚希からのキスを何度かよけてしまったのだ。 当たり前か、と思った。傷つけたくてやったわけじゃないんだけど、物凄く罪悪感を感じる。 それでも、布団を並べて眠った。それが普通になってしまったのだ。 いつかはこの生活にも終わりが来てしまう。夏休みは永遠じゃない。 学校も始まる。考えた途端むなしくて仕方なくなる。 すると、俺の布団の中に、柚希の手が忍び込んでくる。 俺の手を探って、優しく握ってきた。 「…起きてる?」「…うん」「…今日は、なんにもしないの?」柚希の方を見ると、頬を染めて俺を見ている。 「なんで避けるの?」今にも泣いてしまいそうな顔だった。「嫌いになっちゃったの?」「ち、違う、そういう事じゃないんだよ…」 「なに?」 「嬉しいんだよ、凄く…その、キスするのも、してくれるのも、でも…」 「でも?」 「なんか…お前の事だけで頭一杯になると、俺単純だから仕事失敗しちゃいそうっていうか…」柚希の目から涙が引いていく。 「夜になったら、あんな事やこんな事沢山したいなって、それのために頑張ってるみたいなところがあるから…取っておきたいんだよ、楽しみとして…いやごめん、何言ってるか分かんないと思うんだけど、要するに…」 「うん…」 「抑えが利かなくなりそうで怖いんだよ、昼は昼、夜は夜、で分けとかないと、見境なくお前にエロい事しちゃいそうで…」 「俺はいいのに」 「駄目に決まってんだろッ、見た人がびっくりするだろッ」 「ご、ごめんなさい」 柚希は恥ずかしそうに、「じゃあ、俺とああいうことするのが嫌って訳じゃないんだね?」「う、うん…むしろ好き、好きです、凄く」 ほっとしたように微笑んで、よかった、と呟いた。 「じゃあして、我慢した分いっぱいして」 「…していいの」 「してくれないとやだ」 やだってなんだよ、と可愛い言い方に心を乱されながらも俺は布団をめくった。 柚希はにこっと笑って俺の布団の中に入ってくる。 えへへ、と可愛く微笑まれてはもう何も言えなかった。長い腕で包むように抱きしめられる。 こいつ、ハグするのが好きなのかな。 柚希から俺にキスしてきた。ちゅっ、と唇を優しく食むキスをされていると、脳みそがゆっくりとろけてしまう。 俺は恐る恐る舌を入れてみた。 「ん」柚希が分かりやすく動揺する。大胆なのかうぶなのか、どっちかにしてくれと思った。 俺もこういうキスのやり方はよく分かってない。 2次元の世界でなら何度も見た。しかし見たからと言って出来るとは限らない。柚希は怖くなってしまったのか、唇をきゅっと結んでしまった。 「…くち、あーんして」そう言うと素直にあーんと小さく口を開ける。こういう素直さが好きだと思った。その口を覆うように俺がキスすると、柚希は少しだけ震えた。 「俺も下手だけど、真似して」柚希が、うん、と頷く。熱くて柔い舌を、お互いにそっと舐めあった。 凄く気持ちがいい。 ぎこちないけど、ただ唇が合わさるだけに比べたら自分がしてることが凄くいやらしいことのように感じる。湿った音がするたびに、何かが崩れていくようだった。 「家でテレビ見てるときにさ、こういうシーンが流れたりしてさ」 「うん」 「違う番組にしたりしない?」 「する」 くすくすと笑みがこぼれた。 こうしているだけで、腰に重だるい感覚がたまる。 お互いに男だから、体の変化には嫌でも気づく。 でも恥ずかしくて言い出せなくて、黙っていた。 俺は下着の上から柚希の尻に触れた。 「ひゃ、」と柚希が声を上げる。「お、俺もおしり触っていい?」「ど、どうぞ…」 柚希の手が浴衣をそっとめくって、俺の尻をむに、と触る。 「おしりちっちゃいね…キュッとしてる」 「そ、そうすか…」むにむにと揉まれて、小っ恥ずかしい。お互い至近距離で見つめ合ったまま尻を触りあう、というよくわからない状況だけど、 気持ちがいい。柚希の指が俺の下着の縁にかかる。 「いや、ちょい待って」「やだ?」柚希は不安そうな顔で俺を見る。 「その、嫌っていうか…見られるのが恥ずかしいというか…」「だ、だよね…」 もう隠しようがないような状態なのに、何が恥ずかしいんだろう。 「お、俺も脱ぐから」柚希が顔を真っ赤にしながら言う。でも目が真剣だった。 「わ、笑わない?」「うん、稲雅も、笑わない?」 「う、うん」 二人してごくり、と生唾を飲んで、そっと下着に手をかけた。 外気にさらされてくすぐったいような、不思議な感覚だった。 人のを見るのは、ゲームでは見たことがあっても規制がされている。 でも俺が見てるのは、生身の人間の裸だった。 中途半端に下ろされた下着から覗く、自分と同じような性器。 恥ずかしくて仕方ないのに、お互い隠すこともせずただじっと見つめていた。 いやらしいものを見ているというより、人のってこんな感じなんだなぁ、みたいなしみじみとした気持ちになっていた。 「毛、薄いね」柚希が言う。「そ、そうなの…?」 「そ、そんな気がする…自分と比べると…」「それはどうも…」 「…触っていい?」そう切り出したのは柚希だった。「…嫌じゃないの」「うん、触りたい」 「い、いいよ…」柚希の指がそっと触れる。それだけで背中の産毛がぞくぞくした。壊れ物に触るような、優しい手つきだった。長い指に包まれて、 ゆっくりと動かされる。 「あ、出てきた…」「言わなくていい…」「ご、ごめん」 人差し指の頭で、滲んだ精液を柚希がそっと拭う。 それをきっかけに、どんどん滲み出す。 止め方が分からなくて焦ってしまって、なんだか泣きそうだった。柚希はそんな俺を凄く優しい眼差しで見つめている。 「なんか辛い…」「え、ごめん、痛い?」 「違くて、なんかこの…生殺しみたいな状態が辛い…」 いっそ全部吐き出したい。 「柚希のも触っていい、ですか…」「え、あ、うん、」腕が疲れてしまったから、横になって柚希と向き合う。俺はすでにもう限界みたいな状態だけど、まだ余裕がちょびっとだけありそうな柚希の性器に恐る恐る触った。 「あ、」たったそれだけで、ゲーム顔負けのいやらしい声を出す。 「そ、そんなエロい声出すなや…」「だって、」 柚希は耳まで真っ赤にして泣き出した。 綺麗な目からぽろぽろと涙がこぼれているところを見ていると、もっと泣けと思ってしまう。 柚希が俺の体を絡め取るように、脚をまとわりつかせる。 「ねぇ、チューして、」柚希が余裕のない声で囁く。 言われるがままキスをした。 ん、ん、と短く喘ぐ声を、全て自分のお腹の中に閉じ込めたい。どうしてこんなに可愛い声を出すんだろう。しかもこれがわざとでもなんでもなく、 本当に気持ちが良くて出てしまう、というような感じがするからたまらなかった。 息も声も奪うように与えるように、夢中でキスした。開いてる方の手で、お互いの体を抱きしめる。 ぴったりと胸が合わさった瞬間、 あぁ、乳首触ってみたいなぁ、とよこしまなことを考えた。粘着質な音が色んな所からする。 自分の手が柚希の精液で濡れていくところをずっと見ていたかった。自分で普段、どんなふうに抜いていたか思い出せない。 「もういきたい、」柚希がぐずぐずと泣きながら言う。その顔に訳がわからない程興奮する。 俺は柚希の背中を撫でていた手を離し、胸の先をきゅうっとつねってみた。 「あっ、あ!」柚希が凄く驚いた顔をして、腰を弓なりに反らせて果てていった。 とぷっと溢れて二、三度震える。俺もまたそんな様子を見て、びくっと震えていってしまった。 「びっくりした…」柚希はまだ泣いている。大きい声が出てしまったのが相当恥ずかしかったのか、口元を抑えてめそめそしている。今更だけど、誰かに聞かれていたらどうしよう。 「ご、ごめん…」「じゃあチューして」 キスすると、安心したのか少し泣き止んだ。 もう2人ともいったのに、離れようとしない。「お返ししてやる」えいっと言いながら柚希が俺の乳首をつまんだ。 「うおぃ、なんだ、」「あれ、何ともないの?」「い、今はなんとか…」 柚希は、なーんだ、と口をとがらせる。 「ねぇ、お風呂入ろうよ」「ん!?」「だってこのままじゃ寝れないよ」 汗もかいたし手は濡れてるし、確かにこのまま寝るわけにはいかない。 「い、一緒にはいんの…」「うん」「裸になって?」「もう裸見たじゃん」 中途半端にかろうじて服を着ているのと全裸とでは萌えの種類が違うだろうがと心の内で叫んだ。 「だめ?」柚希が首をかしげて言う。こうされてはもう、何も言えない。 裸って、見るのも見られるのも恥ずかしい。 さっきあんなところやそんなところを見たとはいえ、恥ずかしかった。 「背中洗いまーす」そんな俺をよそに、柚希は楽しそうだった。俺は煩悩と必死に戦いながら円周率を数え続ける。泡が流され、排水溝に吸い込まれていく。 柚希の指が俺のうなじに触れる。多分、やけどの跡を見ているんだろう。 「キモいでしょ」自分でも見るのも嫌だった。傷があることよりも、母親につけられたという事実が嫌で仕方なかった。 「怖かったよね」柚希が俺の背中に頬をつけたのが分かった。心臓があり得ないほどバクバクし始める。 「嫌だよね、人につけられる傷って」ぽつりとつぶやかれた言葉は、反響して俺の耳に届いてくる。 「…消せたらいいのになぁ」「本当に、そうだよね」 悲しい共通点は、俺と柚希を皮肉にも繋いでいる。柚希の肌が背中から離れていく。と思ったら、俺のうなじをあたたかい何かがなぞっていく。 舌だと思った。柚希が俺のうなじを舐めている。一瞬理解が出来なくて頭が真っ白になる。「なん、」言葉に詰まりながら振り向くと、柚希が顔を赤くしている。「嫌だった?」「いや、嫌じゃない、」「よかった」 柚希が腕を伸ばして抱きしめてくる。「一緒だね」「へ、」「見えるところも、見えないところも傷ついてるの、一緒だね」 切ない一言だった。「…片親なのも一緒だ」「そうだね」「その親を大事にしてるのも、一緒だ」「うん」 お湯で濡れた肌はしっとり吸い付いて、このままくっついてしまいそうだと思った。「キスするのが好きなのも、一緒」柚希が言う。 「うん」「…いやらしい事が好きなのも、一緒?」「…うん」 風呂場の床に座っていると、意外と尻が痛い。でもどうでもよかった。 柚希の胸元を手のひらに収めるように揉んだ。 「あ、」眉をひそめて小声で喘ぐ。柚希もそれを真似して、俺の胸をむに、と揉んでくる。 柚希が俺の体の上に乗ってきて、二人で一つのかたまりになるみたいに抱きしめ合った。「こういう格好で、するやりかたあるんでしょ」「…あるね」 「入れられるのって、そんなに気持ちいいのかな…」「どうなんだろう…」 「稲雅は、いれたい…?」どこになにを、なんて言われなくても分かる。 頷くと、柚希はほっとしたように笑う。「俺、いれてほしいと思ってたからよかった」こんなときにそんな可愛い事をいうな、と思った。 「正直したいけど、怖い」「それは俺もそうだよ」「だから、今はこれでいい、ですか…」 二人同じように上を向くそれを、まとめて握った。「うん、うん、」柚希が何度もうなずく。 お互いの胸をまさぐったり、尻を触ってみたり、さっきよりも開放的だからか大胆になっていた。 口の中を舐めるようにキスをして、湯船につかっていないはずの体の熱がどんどん上がっていくのを感じていた。 「すき、」柚希が言った。「俺も好き、」何度も好き、と言いあいながら性器をいじり続けた。 「いってもいい?」柚希が泣きながら言う。「いいよ、」 乱れた吐息が混ざり合って、風呂場の空気をさらに濃密にしていく。 あぁぁーっ、と柚希がひときわ感じ入った声をあげて果てていく。俺はその声の大きさに驚いて咄嗟に口をふさいだ。 「んむ、ん…」口の中に甘い声が注がれていく。俺もその声にやられて果ててしまった。 裸だから塗れようが何度いこうが構わない。 これも夜の楽しみに組み込まれたらどうしよう。俺に寄りかかってくる柚希の背中を撫でながら、そう思った。

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