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初対面、箱の中⑤
「かわいい。真っ赤だ」
「真っ……見えてない、だろ」
「んーん、見えるよ。俺、暗闇でも見える」
ハッタリかもしれない。けれど顔を隠したくてたまらない。
「もっかい。今度は加減してね」
再び唇が重ねられた。今度は舌を絡めるのではなく舌先で上顎を撫でられた。そんな場所、何がと思ったのも束の間。ゾクゾクとした感覚が体を駆け巡る。下半身が浮いて、何かに触れた。
「積極的じゃん」
そんな言葉と同時に感じる下肢の重み。よく考えたら、今までリュカが腰を上げていたようで下半身は特に抑えつけられていなかった。ジタバタと暴れれば嫌になって解放してくれていたかも、今になってそんなことを考える。でももう遅い。
「ンッ!? な、おま、え」
「はぁっ……ここまで、しなくていいかなって思ったけど……ちゃんと感じてたんじゃん。フィンのえっち」
すり、と擦り付けられているソレが何であるか分からないほど鈍くはない。リュカは体重を僕に預けると押し付けるように腰をくねらせる。
「あー……」
「これ、は。さすがに……ん、ぅ」
「もう素直になれば。フィンだって勃起してるのに」
「っ、言うな」
互いの息が荒くなるのがわかる。こんな狭い箱の中で、器用にも布越しに性器が擦れ合う。硬いし、熱い。襲われてあんなことされたら生理現象として反応するのは当たり前だ。
「ん、んん……こんなの、は、ぁ」
「すごいガチガチ。あは、ちょっと動きにくいね、やっぱり」
当たり前だ。こんな身動きの取れない狭い場所で。
「っ……あぁ、クソ」
腰を浮かせてもやっぱりその刺激は足りない。押し付け合うだけのソレじゃもどかしいままだ、なんて考えしまう。理性が溶けて、本能に傾いていく。
「あ!? 待て、それはやめろ!」
「だってこれじゃイけないでしょ。ズボンも汚れちゃうし」
スラックスのボタンに手を伸ばされる。もちろんその通りでもある、着替えなんてないし、汚したくはない。それならここで止めればいいだけだ。
でも本当にそれでいいのか? すっかり表に出てきた本能がそう問いかけてくる。
でもダメだ、見られるわけには、触られるわけにはいかない。僅かな理性が僕を制止する。
「いい! そこまで、しなくて。もう充分だろ」
「俺がしたいの。あは、ガチガチすぎて脱がしにくい」
「そうじゃない! 頼むから、そこは……」
「ん? 何コレ」
「うあ……だから、やめろと」
下着に手を突っ込まれて手遅れだと察した。本能が急速に顔を引っ込める、ゆるやかに熱を失っていく。それ程、そこに触れられたくなかった。
「ありゃ?」
「もういい、もうやめろ」
「コレ何? なんか、トゲみたいな……柔らかいけど」
形を確かめるように手で触れられてもうダメだと察した。カメレオンの獣人と関わったことがあったと言っていたが、さすがにこれは知らなかったのだろう。
「言っておくが病気じゃない……こういう、ものなんだ」
爬虫類の獣人の特徴と言ってもいい。ヘミペニス、という。柔らかいトゲのようなものが性器の根元にかけてついていて、本来は生殖器自体が2本あり交尾の最中に抜けにくいようトゲのようなものがついていたと言う。
獣人へと進化した過程で人と同じ形状に近づいたが、このトゲのような突起だけはまだ残っている。
「コレ、見た目と感触だけの問題?」
「かんしょっ……いやまぁ、そうだ。害はない」
何が楽しくて自分の生殖器について説明しなければならないのか。説明するのは初めてではない、恋人ができれば自ずとこの形状について話さなくてはならない。それもここ数年はその機会すらなかったけども。
「じゃあ問題ないね。続けよ」
「ぎゃっ! なにをっ、終わりだ! 終わり!」
頭も冷静さを取り戻してきていた。だと言うのに、リュカはすっかり萎えてしまった僕のそれを下着から取り出し触り始める。
「だって俺まだ萎えてないし、ほら」
太ももに押し付けられたのは未だ硬く主張するそれ。この状況でなぜまだ続けようと思えるのか。場は、冷めただろうに。
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