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初対面、箱の中④
「うーん、気が向いたら解いてあげる」
「こんな狭い箱の中で、縛られても縛られなくても身動きは取れない」
「じゃ、縛られててよ。ハイ、完成」
慣れた手つきで手の自由を奪われる。しかしこんな狭い箱の中だ。出来ることは限られているはず。僕に何かをしたいのなら、それこそベッドの柵や扉にでも縛り付けてしまえば良かった話だ。
わざわざセーフティボックスに誘導して、何が目的なのだろうか。
「体温低いね。蛇は変温動物でしょ?」
「っ……何が目的だ」
密着した体、その隙間。上半身の衣服の下に無理矢理手を差し込まれた。ぺたぺたと探るように腹を撫でられる。
「言ったでしょ、フィンのこと知りたいって」
「だからってボックスに二人で入ることになんの、意味が」
手がそのまま心臓のあたりへ伸ばされる。
「これがフィンの心臓。取り出せないけど、心臓は外側から触ってわかるのが好き」
「だからなんだ。僕を殺すつもりか?」
「まさか。フィンに興味があるだけだよ。じゃあそろそろ始めよっか?」
フワフワとした喋り方から一転、声のトーンが落ちる。遊びを邪魔をされて拗ねる子どものような、そんな切り替わり。
「ッおい」
爪先がかり、と胸の先端を引っ掻いた。意図的な動きだ。リュカは無言でそこを指の腹で撫でたり爪先で引っ掻いたりと感触を確かめるように触れてくる。
「いっ……」
「あれ? 感じない?」
「悪戯にしては、度が過ぎて、ひゃっ……ぁ」
首筋に吸いつかれて反射的に体が震えた。思わず顔を背けようとしたら押さえつけられて、高い鼻梁が首に触れる。
「へぇ、ココ弱いんだ」
「っ、ちが、う。やめろ、性犯罪者になりたくは、ないだろ」
「フィンの体のこと、調べてるだけだよ。エッチなことしてると思った?」
「屁理屈を、こねるな! ぁ、やめ」
ちゅ、じゅ、とわざと音を立てながらリュカは首筋に吸い付いてキスを繰り返す。
こんなことをされるなら、首を絞められた方が余程マシだ。
「っ、やめろ……、ひぃ」
「かわいくなぁい。どうせ外には聞こえないんだし、声だしてよ」
「そんなことできるか……ぁ」
どうすべきか、混乱しかけている頭で考える。力では恐らく叶わない。この垂れ耳のせいで、舌を伸ばして耳を攻撃するのも不可能。いや、この場合相手を怒らせる行動は逆効果だ。
「ここは?」
突如として吐息が耳を掠める。
まさか、と思った時にはもう手遅れだった。
「ひゃあああ!? んひ、ぃ、あ、んぅ、やだ、んっんん、たの、むから!」
「ココ? んふ、みつけた」
んちゅ、じゅる、と耳の形をなぞるように這う舌。はふ、と熱い吐息が漏れる。こんなのあんまりだ。どうしてこんな、辱めを受けなければならないのか。狭い空間で逃げ場もなくて、何が楽しくて抑えきれない自分の声を聞かなくてはならないのか。
「ぁ、ああ、やだ、やだ、んぅ、ぁ」
「かわいいね」
「そこで喋るな、やぁ、やめろ、あ、あぅ、んんッ」
「ヤダヤダばっかり。んじゃ、ちゅーしていい? ちゅーしていいなら耳はやめる。喉突くのはやめてよ」
「わか、ったから、ぁ」
耳を弄られ続けるより余程マシだと、窮地に陥った頭はそう考えてしまう。
「ん、イイコ」
「ンっ……」
唇がふれた。顔を押さえつけられて、唇の感触を確かめるように食まれている。ここで先程のように喉を突くのは簡単だがそれもこの場では無意味だ。
「んぅ」
口内を探る動きではない、明らかに情欲を抱えたそれに舌を絡め取られる。と言っても僕の舌の形状は多くの人のそれとは異なる。人より細く長いそれはいとも簡単に相手の舌に絡みつく。きゅ、と無意識でリュカの舌を絞めるとリュカの喉から「うぇ」と苦しそうな声が漏れ出た。
「あ……悪い、そんな、つもりじゃ」
思わず謝罪の言葉を述べてしまう。いやでも、怒らせるべきでは無いから謝るのは正しいのか。最早何が正解で間違いなのか、脳が思考を放棄し始めている。
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