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初対面、箱の中③

「ふーん……あ、そうだ。実はここに来た時にピアス落としちゃったんだ。バイオレットの宝石がついてるやつ」 「ピアス?」 「うん。俺、あんまり目がよくないから見つけられなくて。一緒に探してくれない?」 「構わないが……」   この殺風景な部屋のどこでピアスが無くなるのかは不思議であるが、案外ああいうアクセサリーは無くなりやすいと聞く。物陰に転がっていて、そこが自然と盲点になっていたり。   「セーフティボックスの中かなぁ? 蛇って夜目は効く?」 「その宝石が本物なら、場所をなんとなく感知できると思うが」   暗闇での視界はあまり良くない。むしろ悪い方だ。しかし熱を感知することは人間やほかの種族よりも長けている。小さなピアスについた石ならそれも働くかどうか怪しいが。 ともかく、リュカと通常のコミュニケーションに戻るのが先だ。好意的に、信頼関係を作りたい。   「俺もっかいベッドの方探すから、そっちお願い」 「わかった」   屈んでセーフティボックスの扉を開ける。昨今では人種に合わせてその大きさも様々だが、旧タイプのボックスは体の大きな種族に合わせて作られているものが多い。棺桶よりは深さもあるが、旧型の上蓋を持ち上げて中に入る作りは棺桶を連想させる。 簡易的なマットレスだけ、とリュカが言っていた通り中は多少クッション性のあるマットレスが四方に貼り付けられているだけだった。   「ありそうー?」 「探してみるが、どうかな」   宝石から発せられる熱は感知できない。マットレスの隙間を指で探っていく。しかし特に引っかかるものはない。ボックスへ入って探してみるが、それらしいものはない。 そういえば、人間には閉所恐怖症というものがあるらしい。獣人にはほとんどみられない症状だ。 そんな知識を振り返っていて、すっかり気が緩んでいた。   「んふ、引っかかった」 バタン、と音がして光が遮断される。それと同時にのしかかってきた重みによって押し込まれた。いや、閉じ込められた。それも一緒に。   「なんのつもりだ」   僕の目はあまり暗闇で機能しない。ただ目の前で2つの瞳がぎらぎらとしていることはわかる。そして両手を頭上で押さえつけられていることも。   「このボックス、ふたりで入れちゃうくらい大きくて良かったね」 「さすがに見過ごせないぞ、リュカ 」 「じゃ、どうする?そこからじゃ扉あけらんないでしょ」   上から飛び込んできたリュカによって、抑え込まれるようにボックスの底に倒れ込んだ。内側の取っ手を押さなければ扉は開かないだろう。脚を伸ばせば上にある扉を蹴りあげることはできるが、蹴ったところで脚を痛めるだけだ。 脚力に特化した獣人なら、扉を破壊するくらい訳もなかっただろうが。   「……僕が気に入らないなら、他のソーシャルワーカーを派遣しよう。悪かった」 やはり何かが癪に障ってしまったか。素を見せたのがよくなかったのかもしれない。無愛想で、高圧的だとよく言われた。ほんの一瞬の出来事でも印象というものは変化してしまう。 「んーん、逆だよ」 「逆?」 「あんた……フィンだっけ? 気に入った。だから、知りたい」 「は……おい!」   狭い箱の中。顔色はわからない。瞳だけが爛々としている。この場で僕に抵抗する手段はなく、できることと言えばリュカを説得することだけ。それも効くのかどうか。 鎖を繋いでおくべきだったと、後悔してももう遅い。ピアスを失くしたなんてのも嘘だったのだろう。初めから、これが目的で。   「このベルト、鎖つなぐやつでしょ?」   リュカがベルトをくい、と引っ張る。鎖を繋ぐ規則があると言われたからベルトだけは着用して職員と別れたあとで鎖だけを置いてきた。   「鎖は?」 「置いてきた。部屋の前に」 「んふふ、俺ね、気に入った人のことなんでも知りたいから。前にも職員とかカウンセラーとか……気に入った人、部屋の奥に引っ張ってた。そしたらなーんか、来る人みんな鎖で繋がれだしたわけ。あの鎖って短いんだ、ベッドの手前までしか来れないんだよ」   暗闇でリュカは流暢によく喋る。あの鎖は対保護対象者のためではなく、この男の為にあったのかと今更理解する。そんなことは聞かされていない。 「外すね」 「やめろ、今ならまだ許す」   器用にも片手でベルトを引き抜かれる。革製のベルトはいとも簡単に腰から外れてしまう。よく考えたらわかることだった。対保護対象者用の鎖を繋ぐベルトならこんなヤワな素材で作らないだろう。もっとしっかりとした、それこそベルトなんかじゃなく簡単に脱がすことの出来ないベストにでもするだろう。   「離せ」   押さえつけられている手をなんとかしようにも、ビクともしない。腕を引かれて口内を探られた時もそうだ、細いのに力だけは強い。   「じっとしてれば痛いことはしないよ」 「動かないから、縛るな」   ベルトを引き抜かれた時点でなんとなく察してはいた。手を縛られてはそれこそ抵抗する手段がなくなってしまう。 従順なフリをして、チャンスを伺うべきだ。

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