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第7章 カトレアの花(5)

 ガクガクと震える内股を労るように撫でられて、ラドラムは更にキツくプラチナを抱き締める。  胸板同士が合わさると、ラドラムの鼓動が酷く早鐘を打っているのが分かった。 「ラドラム……気持ちよかったですか?」  正体不明の涙を流し続けるラドラムの頬を、舐めながら訊く。人工味覚は、塩辛さを伝えてきた。これが、涙の味。  プラチナは、顎の先から眼球までを辿り、悦こびの味がする涙の粒を舐め取った。 「んっ、やめ、ろ」  閉ざされた長い金色の睫毛の上から眼球を舐めると、焦ったような言葉が上がる。 「何故ですか? ラドラムの眼球は美しい。塩辛い味も心地良いのに」 「馬鹿。また、したくなっちまうだろ……」 「お望みでしたら、何度でも」  疲労を知らないプラチナは、素手の指先で柔々とラドラムの勃ち上がっている胸の尖りを弄る。 「ばっ、やめろって!」 「したいのでは、ないのですか?」 「……」  目元を桜色に染めて、背に回していた腕をプラチナの項に回すと、ラドラムは初めて自分からキスをした。  幾分か慣れた様子で、薄く瞳を開けたまま、触れさせて睦み合う。七~八回繰り返して、濡れて光る唇を離すと、ラドラムは恥ずかしそうに説明した。 「人間は、セックスすると疲れんだよ。これ以上ヤったら、上手く歩けなくなっちまう。それに、あんまり待たせたら、外の連中が様子を見に来るかもしれないだろ」 「そうですか。気持ちよくなかった訳では、ないのですね」 「馬鹿……」  くそ真面目なプラチナの言葉に、ラドラムは耳の先まで赤くなった。 「そういう事は、訊くな」 「でもラドラム、私は貴方を心地良くしたい。独り善がりのセックスは、嫌われると聞きます」 「何処でそんな事訊いてくるんだよ、ムッツリスケベ……」 「アーダムの秘書を誘惑した酒場で、交わされていた会話です」    また返るくそ真面目な返答に、ラドラムが呆れたように笑った。 「人間は、気持ちよくなきゃイかねぇんだよ。それで分かれ」  プラチナも初めて、ホッとしたように頬を緩ませ微笑みを見せた。 「良かったです。気持ちよかったのですね。愛しています、ラドラム」 「ん……」  また口付けが降ってくる。情熱的に求められて、ラドラムもプラチナの黒髪に指を通し、互いの髪を乱し合いながら飽く事なく唇を食み合った。     *    *    * 「じゃあな。ワン、ツー、スリー、フォー。上手くやれよ」 「ああ」 「さよならだ」  ラドラムと同じ姿かたちをした男が四人、コールドスリープカプセルに入っていた。声をかけると、口々に同じ声音で返事を返す。  湿っぽいのが性に合わないのはオリジナルと同じようで、みな笑顔を見せていた。  やがて蓋がしまり、急速冷凍が始まると、瞳を閉じて眠りにつく。唇には、微かに笑みが残った。 「サンキュ、プロト。これで気がかりはなくなった」 「簡単な事だ。借りが少しでも返せて嬉しい」 「シーア、またいつか来る。あんたがどれくらい別嬪になるのか、見てみたいからな」 「まあ、ラドラムったら、口がお上手」  頬を染めるシーアと、その肩を抱くプロトに別れを告げて、五人は船上の人となったのだった。

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