39 / 40
第7章 カトレアの花(5)
ガクガクと震える内股を労るように撫でられて、ラドラムは更にキツくプラチナを抱き締める。
胸板同士が合わさると、ラドラムの鼓動が酷く早鐘を打っているのが分かった。
「ラドラム……気持ちよかったですか?」
正体不明の涙を流し続けるラドラムの頬を、舐めながら訊く。人工味覚は、塩辛さを伝えてきた。これが、涙の味。
プラチナは、顎の先から眼球までを辿り、悦こびの味がする涙の粒を舐め取った。
「んっ、やめ、ろ」
閉ざされた長い金色の睫毛の上から眼球を舐めると、焦ったような言葉が上がる。
「何故ですか? ラドラムの眼球は美しい。塩辛い味も心地良いのに」
「馬鹿。また、したくなっちまうだろ……」
「お望みでしたら、何度でも」
疲労を知らないプラチナは、素手の指先で柔々とラドラムの勃ち上がっている胸の尖りを弄る。
「ばっ、やめろって!」
「したいのでは、ないのですか?」
「……」
目元を桜色に染めて、背に回していた腕をプラチナの項に回すと、ラドラムは初めて自分からキスをした。
幾分か慣れた様子で、薄く瞳を開けたまま、触れさせて睦み合う。七~八回繰り返して、濡れて光る唇を離すと、ラドラムは恥ずかしそうに説明した。
「人間は、セックスすると疲れんだよ。これ以上ヤったら、上手く歩けなくなっちまう。それに、あんまり待たせたら、外の連中が様子を見に来るかもしれないだろ」
「そうですか。気持ちよくなかった訳では、ないのですね」
「馬鹿……」
くそ真面目なプラチナの言葉に、ラドラムは耳の先まで赤くなった。
「そういう事は、訊くな」
「でもラドラム、私は貴方を心地良くしたい。独り善がりのセックスは、嫌われると聞きます」
「何処でそんな事訊いてくるんだよ、ムッツリスケベ……」
「アーダムの秘書を誘惑した酒場で、交わされていた会話です」
また返るくそ真面目な返答に、ラドラムが呆れたように笑った。
「人間は、気持ちよくなきゃイかねぇんだよ。それで分かれ」
プラチナも初めて、ホッとしたように頬を緩ませ微笑みを見せた。
「良かったです。気持ちよかったのですね。愛しています、ラドラム」
「ん……」
また口付けが降ってくる。情熱的に求められて、ラドラムもプラチナの黒髪に指を通し、互いの髪を乱し合いながら飽く事なく唇を食み合った。
* * *
「じゃあな。ワン、ツー、スリー、フォー。上手くやれよ」
「ああ」
「さよならだ」
ラドラムと同じ姿かたちをした男が四人、コールドスリープカプセルに入っていた。声をかけると、口々に同じ声音で返事を返す。
湿っぽいのが性に合わないのはオリジナルと同じようで、みな笑顔を見せていた。
やがて蓋がしまり、急速冷凍が始まると、瞳を閉じて眠りにつく。唇には、微かに笑みが残った。
「サンキュ、プロト。これで気がかりはなくなった」
「簡単な事だ。借りが少しでも返せて嬉しい」
「シーア、またいつか来る。あんたがどれくらい別嬪になるのか、見てみたいからな」
「まあ、ラドラムったら、口がお上手」
頬を染めるシーアと、その肩を抱くプロトに別れを告げて、五人は船上の人となったのだった。
ともだちにシェアしよう!