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タンブルウィード~My hands are tied~ 第17話 | まさみの小説 - BL小説・漫画投稿サイトfujossy[フジョッシー]
目次
タンブルウィード~My h...
第17話
作者:
まさみ
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第17話
邪悪なる女王蜂
(
ネイキッドクインビー
)
。 それが数年前に世間を震撼させた集団ヒステリーの首謀者。 パレードに集った大衆を扇動し要人を殺害後、行方を晦ましていた。 「いや……知らねェな。アンタ、コイツをさがしてんのか」 「ああ。至急な」 スヴェンが写真を手に取ってじっくり見る。紳士は穏やかに応じて付け足す。 「彼女の能力は非常に危険じゃ、放置しておくわけにはいかん。一か月ほど前にこの近くの街で姿を目撃されたのを最後に消息を絶ったが、まだそう遠くには行っとらんはずじゃ」 「一か月前……ひょっとしてあの事件か?」 「なんだよ、知ってんの」 頭の上で会話されるのが気に食わない。 床に胡坐をかいたスワローが手首のストレッチをしながら聞く。 筋は傷めてない。痛みこそ激しいがどうやら怪我はないようだ。悔しいが、押さえどころを心得ている。 「よそ者は知らねェか……一か月前、北のヒースタウンで妙な事件があった。それまでよろしくやってた町の住民が、突然武器を持ち出して殺し合ったんだ。銃にナイフに包丁にロープに鍬、大通りでご近所と殺り合って大量の死人がでた。命からがら逃げ出したヤツの報告でウチの自警団が駆け付けてみりゃ、殆ど全滅したあとだった」 「手遅れだったのか。にしても派手にやったな、寝取り寝取られの痴情の縺れにしちゃ大規模な祭りだ」 「生き残りの証言だと突然みんなトチ狂ったんだそうだ」 「狭い町ん中じゃ人間関係ドロドロしてんだろ。積もり積もった鬱憤が爆発したんじゃねーか」 「変わったことと言えば変な蜂が飛んでた位か。その蜂に刺されて町の連中の様子がおかしくなったんだとさ……とは言っても、証言者の頭がおかしいからどこまで信用できるもんか。死体を検めたら何人か蜂に刺されてたから、まるっきりデマってわけでもなさそうだが」 「ブルってイカレちまったのか?」 「元から村八分も同然だった、アルコールで脳がやられちまったんだ。事件の当日も空き瓶抱いて寝込んでたんで難を逃れたそうだ」 不謹慎に茶化すスワローにスヴェンがこめかみを突く。 「生存者にもぜひ話を聞きたかったんじゃがね」 「残念、ちっとばかし遅かったな。事件のショックのせいだか知らんが、言うだけ言ったら心臓発作でぽっくり逝っちまった。あっけねえ最期だ、身寄りがねえから引き取り手もねー。遺体ならモルグにある」 「そちらは先に検めさせてもらったよ」 「用意周到だな」 スヴェンが恐れ入ったと肩を竦め、哀愁漂うまなざしを遠くへ投げる。 「……あーゆーの見ちまうと、やっぱ所帯は持っとくべきだと感じ入るぜ」 「家庭はよいぞ。帰る場所があるのは幸せなことじゃて」 スヴェンの哀悼を受け流し、外套の隠しから数枚の記事を取り出してテーブルに並べる老紳士。 「実をいうと同様の事件は各地で頻発しておる。場所がバラバラなせいで見過ごされがちじゃったが……」 都市部で発行されている新聞の切り抜きだろうか。 紳士が広げた記事には、ここ数年にわたり大陸中で起きた、奇妙な惨劇の顛末が報じられている。 発生区域はバラバラだが内容はどれも似たようなものだ。 町の住民の突然の集団自殺に集団失踪、そして殺し合い……酷いケースだと住民がまるごと蒸発している。 事の深刻さが伝わり、スヴェンが黙りがちになる。 眉を潜めた表情には真剣な色、スワローと乳繰り合っていた時とは別人のような生真面目さ。 「ネイキッドクインビー……思い出した」 軽快に指を弾き、スタジャンをあさってカードの束をとりだす。 昔熱中していたトレーディングカードだ。さすがにもうコレクションに躍起になる年じゃないが、犯罪者名鑑としても便利なので常に携帯している。 カードを手早く捲って、目的の一枚を引っこ抜く。 そこには紳士が翳した写真と同じ、黒と黄の長髪の幼女がいた。 スワローは淡々とカードの略歴を読み上げる。 「ネイキッド・クインビー、現在個体確認されている中で最年少7歳の指名手配犯。特異な能力で他者を洗脳し傀儡と化す、今世紀最大最悪の集団ヒステリー事件の黒幕。彼女の精神汚染で暴徒化した観衆が要人のパレードを襲撃、千単位に及ぶ死傷者をだした。賞金額は2800万ヘル、ヴィクテムは子宮、または卵子。ただし健康な状態でのみ有効……なんだこりゃ、悪趣味だな。3年前に7歳ってーと……今10歳か。小便くせーガキにゃ変わりねーけど、賞金2800万ヘルならかなりの大物だ」 「いや。見た目は大して変わっとらんはずじゃよ」 「あァん?」 「遺伝子操作で老化を抑えとるからの」 「ってことは……コイツもミュータントなのか?」 ミュータント。 それは目の前の紳士のような、動物の特徴を持った新人類のみをさす名称ではない。見た目は人間と変わらずとも、突然変異で|超能力《ESP》を発現し、災禍を巻き起こすものがいる。 大戦中軍の研究所で極秘裏に行われていた人体実験の産物とも、生物兵器によって撒き散らされたウィルスに感染した結果ともいわれる彼らの実数はよくわかっておらず、その脅威も一種の都市伝説として流布するのみだ。 「ミュータントへの差別とパニックを防ぐ為、隠蔽が推奨されておるがの……早急な対処が望まれる以上、現地の協力者に下手な隠し立ては禁物。正確な事実の共有が命運を分けるのじゃ」 「どーりで略歴があっさりしてるわけだ、政府の汚点を事細かに書けねーよな」 「なあお前、当たり前のよーにしれっと話にまざってっけどよ……この爺さんが用があるのは俺だけだ、部外者はとっとと出てけ!」 「今さらかよ。もう途中まで聞いちまったよ」 「おやワシとしたことが失敬、床と同化した君の存在を半ば忘れていたよ」 「痴呆が進んでやがるのか?」 悪気はないらしいが、天然で失礼だ。紳士は正面を向き、山高帽を胸にあて一礼する。 二足歩行の山羊の年齢はわかりにくいが、おそらくはかなりの高齢のはず。しかし背筋は凛と伸び、他を圧する威厳を備えている。 紳士は外套の懐から一枚のカードを取り出す。 賞金稼ぎの身分証明、しかも最上ランクのゴールドカードだ。 「申し遅れたね。ワシはジョヴァンニ・キマイライーター、女王蜂の暴走を止めるため派遣された|賞金稼ぎ《バウンティハンター》じゃ」 「あのキメラ狩りのジョヴァンニか!?」 スヴェンの語尾が跳ね上がる。スワローも驚いて胡坐を崩す。 キマイライーターは賞金稼ぎの世界において伝説的な存在だ。 その輝かしい功績でもって英雄視され、彼に憧れて賞金稼ぎをめざす若者は後を絶たないが、本人は注目されるのを嫌いマスコミの前に一切出ない。 山羊のミュータントであること、熱烈な愛妻家であること等を除けば虚実入り混じり誇張されたエピソードが一人歩きしているのみで、そのミステリアスな人物像がかえって人々の興味を惹き付けてやまないのだ。 「ホントにヤギなのか、デマだと思ってた」 スワローは口笛を吹き、目に露骨な好奇心を覗かせて身を乗り出す。 「キマイライーターっていや賞金首1万人を血祭りに上げた殺しのプロだろ?すげーじゃん爺さん、アンタをモデルにした連載読んでたぜ」 「それは汗顔の至り。あの話は随分と脚色されておったがね……事実と異なる箇所も多い。いくらワシでも自らの分身の精神体を生み出してバトルはできんよ」 「たまげたぜ、生きる伝説のキマイライーターとお近付きになれるたァ……キディに自慢してやろ、アイツも大ファンなんだ」 「なになに、山羊もおだてりゃ木にのぼるぞい」 にわかにはしゃぎだすスヴェンをスワローは生ぬるい目で眺め、キマイライーターはほっほっと鷹揚に笑い、そこで自らが派遣された目的をようやく思い出して咳払いをかます。 「閑話休題じゃ。して、写真の娘に心当たりはないと?」 「残念だがな。こんなけったいな髪と服装、見かけりゃ絶対覚えてるぜ」 「ふむ……ならばこのあたりに逃亡者が潜伏できそうな場所はないかね」 「街に入りゃ誰かが覚えてるはずだが……」 「待てよ、コイツは人の頭の中身をいじくれるんだろ?だったら会っても忘れてんじゃねーか」 スワローの横槍にスヴェンは顔を顰めるも、キマイライーターは眉を上げて感心する。 「鋭いのぅ少年。その可能性は否定できん……が、力には代償が付き物じゃ。クインビーの異能は脅威じゃが、無差別な濫用はフィードバックが激しい。そしておそらくじゃが、ネズミや猫など小動物なら比較的容易く操れるが、自我が確立した高等生物―たとえば人―ほど難しくなる。付け加えて、彼女は前の街でおいたがすぎた。体力と脳力が回復するまで、人だかりを避けてジッとしてるはずじゃ」 「隠れられそうな場所ったってなァ……」 「ばっちぃ、シッシッ」 スヴェンがガリガリと頭を掻き毟りフケがとぶ。 スワローがあからさまに身を引き、値踏みするよう目を細める。 「アンタ、情報屋?」 「キディに聞いてねーのか。ジゴロは副業、本業はタレコミ屋」 周知の事実と思っていたのか、スヴェンは苦笑いする。 どんなシケた街にも一人か二人情報屋がいる。 その多くは娼婦と関係が深く、愛人を通して客がもたらす新鮮なネタを集めている。中には不特定多数の娼婦を放し飼いし、手広くネタを仕入れるマメなヤツもいるそうだが、生憎とスヴェンにそこまでの甲斐性はないらしい。娼婦の顔役と懇ろな仲と聞いて予想はしていたが、さして興味もないので追及はせずにきた。スワローにとってはどうでもいいことだ。 一晩愉しませてくれればそれでいい。 「待てよ……すぐ戻る」 スヴェンが意味深に言葉を切り、足早に部屋を出ていく。 階段を下りる足音に続き、店の親爺と交渉する話し声と物音が途切れ途切れに届く。 扉が閉じる音がやけに大きく響き、キマイライーターと二人きりで取り残されたスワローは、ふいに呟く。 「……兄貴がアンタのファンなんだ」 「ほう?」 「おかげでこちとら耳タコ。いい迷惑だ」 「お兄さんとは仲がいいのかね」 ハンカチを巻いて隠した左腕をさすり、右腕の燕に目を転じる。 キマイライーターは体前で杖を突き、そんな彼の様子を興味深そうに観察している。 「……賞金稼ぎってさァ、楽しい?」 独り言に近い口調で尋ねる。山羊の目はまどやかに和み、表情が読みにくい。 キマイライーターはすぐには答えず、続きを促すようスワローとの距離を詰め…… 乱暴にドアが開き、荒々しい足音を伴いスヴェンが乗り込んでくる。 「これを見ろ」 テーブル上のゴミを薙ぎ払い、セピアに色褪せた地図をガサガサ広げる。 スワローとキマイライーターが机を取り囲む。 「下で借りてきた採石場の地図だ。もう何年も前の労働者の忘れもんだがとってあってよかったぜ、内部の道は変わってねーはずだ」 「ンだこりゃ、迷路かよ。地下に枝分かれして広がってやがる」 「あそこは錫とラジウムの産出地で、見た目よかずっと深くて広ェ。崖の下に入口がある、そこから入るんだ」 「言われてみりゃ蜂の巣みてーに穴だらけだったな」 採石場の模擬戦を回想する。 一家が寝泊まりする採石場はだだっ広いが、赤茶けた地面には無数の穴があった。工事が行われていた頃の名残らしい。 スヴェンが地図を手で押さえ、ペンを握って赤丸を付けていく。 「出入口は他にも何か所かある。こことこことここ……ここだ」 「崖の反対側からも入れんのか」 「とっくに封鎖されてっけど関係ねェ。バリケードったって板を打ち付けただけのお粗末なモノだ、夜闇に乗じてブチ破りゃ楽勝だ」 「地図もねーのに炭鉱に入るなんざ自殺行為だろ、有毒ガスが沸いてっかもわかんねーのに」 「いや……彼女なら大丈夫、女王蜂の権能で下僕に道案内を頼むのじゃ。動物は感覚が優れておる。嗅覚、視覚、聴覚、触覚……空気の流れを読めば無事に出るのは十分可能じゃ」 「ちょっと前、崖の反対側の山道で馬車が襲われたんだ。コヨーテの仕業だって話だが、そこで食料かっぱらったのかもな。近くに入り口がある」 「今から行けるかね」 「きびしいな。道は険しいしこっからじゃ結構かかる」 「採石場から調べるのが効率的じゃね」 スワローは思い当たる。 コヨーテアグリーにはコヨーテがいなかった。 夜になるとどこからかこもった遠吠えが聞こえたが、終ぞ姿は見かけなかった。 「彼女自身は大層非力じゃ、同年代の子供と同程度の身体能力しか持たぬ。ガイドを兼任するボディガードを欲したはずじゃよ」 もしコヨーテの群れが坑道にいたら? 邪悪な女王蜂に率いられ、迷宮の奥深く息をひそめていたとしたら…… 兄と母が危ない。 ぐしゃりと地図を握り潰す。スヴェンが声を荒げる。 「邪魔すんなよスワロ……」 「その殺人鬼ってなァ採石場にいるんだな」 「ワシの推測が当たっていればね」 スワローが取り乱した原因に遅ればせながら気付いたスヴェンが息をのみ、机を叩いて怒号する。 「とっとと行くぞ、いや待てその前に自警団に声かけてくる、人海戦術で採石場を包囲するんだ!入口の前に人おいて出てきたトコを召し取りゃ」 「下手に刺激するのはまずい。クインビーは危険に敏感じゃ、自警団が動けばすぐ勘付く。彼女の力を甘く見てはいかん、最悪住人同士の殺し合いが起きる」 「じゃあどうすんだよ、コイツはもう1000人以上殺ってんだろ、怪我人は万単位だ!」 「急いては事を仕損じる、まずは少数精鋭の偵察が望ましい。彼女が潜伏している確たる証拠を掴むのじゃ」 心臓の鼓動が速い。 会話が虚しく素通りしていく。 さっき別れたばかりだった。誤解が重なった末の最悪の喧嘩別れだ。 ピジョンは無事か?母さんは?俺は悪くない、一方的に勘違いして怒鳴り散らしたアイツが悪い…… 『一体何があったんだ、何で怒ってるんだよ?母さんにナイフを抜くなんてお前らしくない、今まで喧嘩しても手は出さなかったろ。俺に対してはホント酷いけど、母さんや女のひとを無闇やたらと刃物で脅す卑怯者じゃない。お前はホントはいい奴で』 うるせえ。 『でたらめだ、嘘っぱちだ!』 うるせえうるせえうるせえ! 何も知らねーくせに好き勝手ぬかしやがって、アイツらがどうなろうが知ったことか、ピジョンも母さんも二人仲良くコヨーテに食われちまえ!! でも、ピジョンは最後まで庇ったじゃないか。信じようとしたじゃないか。最後まで聞かず振り切って飛び出して、俺はどうしてここにいるんだ?決まってる、いいヤツになりたくなかったからだ。ピジョンにとって都合のいいヤツになりさがるのだけは死んでもごめんだ。 最悪の未来が脳裏に像を結ぶ。 クインビーに操られたピジョンと母が、互いに包丁と銃を持って、虚ろな目で殺し合いを繰り広げる― 「……いかねェ」 「はァ!?」 「あそこはもう俺んちじゃねェ。いまさらどんなツラさげて帰りゃいいんだ」 母さんにはピジョンがいればいい。 ピジョンには母さんがいればいい。 どっちにも俺はいなくていい。 スワローがいない方がきっとなにもかも上手くいく、物事が単純に回る。俺が毎度めちゃくちゃにひっかきまわすからピジョンは尻拭いと後始末に奔走し、母さんはぐったり寝込んで、俺が賞金稼ぎになる為に出ていくって言ってもアイツはお得意ののらくらでずるずる先延ばして、結局最後には母さんを選ぶのだ。 俺は邪魔者だ。 ピジョンと母さんは親子水入らずで仲良くやりたいんだ。 今すぐ飛んで帰りたい衝動と居残りたい意地とが火花を散らしてせめぎあい、無意識に胸元をまさぐって愕然。ドッグタグがない?おいてきた?嘘だろオイ俺は馬鹿か― 「ではこうしよう」 聴衆を従えるのに慣れた太いバリトンが、場の空気を引き締める。 「これからワシは偵察へ赴く。スヴェン氏には同行と連絡係を頼みたい」 「俺かよ!?」 「報酬は弾むぞい」 「任せろ」 「そして君」 杖の切っ先がスワローの胸に固定される。 「どうやら採石場にゆかりが深いと見える。一つガイドを受けてはくれんか」 「はァ?やなこった」 「街が滅んでも?」 けっして大袈裟な物言いでなければ脅しでもない、キマイライーターはただ事実を告げたのみだ。クインビーを放置すればいずれ災厄が降りかかる、そしてこの街は滅亡する。ピジョンと母を巻き添えにして。 恩を受けたキディや、男に殴られて顔を腫らした娼婦の顔が胸中を過ぎる。 不機嫌に押し黙るスワローと向き合い、キマイライーターは立派な髭をしごきながら勝手に話を進める。 「ナイフの扱いもなかなかじゃ、露払い程度はできるじゃろうて。たまたま此処に居合わせたのも数奇な縁じゃ。まあ怖いというなら無理強いはせんが」 「怖い?この俺が?」 「無理しなくてよいぞい、当然怖いじゃろうて飢えたコヨーテの群れに飛びこむのは。しかも相手は有名な殺人鬼、いかに幼く愛くるしい外見をしていても怯えてしかり。多少腕に覚えがある程度では躊躇するじゃろうよ、それとて付け焼刃の我流にすぎんのじゃから臆病を恥じず慎重を期すのが賢い。普通の人間なら夜半に死地に赴くなど発狂せんばかりに取り乱してしかりじゃ、今この場で失禁したとて誰も責められん、それが胆力で劣る普通の人間の限界じゃからな、修羅場を知らず井の中で自惚れている子供には酷な話じゃ。ところで下着の替えはあるのかね。持ち合わせがないならワシの抜け毛で編んだパンツを施すが……ウール100%とはいかんが、山羊毛のパンツの履き心地もなかなかに乙じゃよ」 「なに俺が失禁した前提で話進めてくれちゃってんの??こちとらトランクス一筋なんだよ」 揶揄か挑発か、温和な微笑は絶やさぬまま毒舌を並べ立てるキマイライーター。 懇切丁寧に地雷ワードを強調し、いやというほど神経を逆なでする。 決定打は次の一言だ。 山羊の細面に老獪な微笑が広がる。巻き角の賢者の顔。 「報酬は弾むぞい」 「上等」 ナイフをテーブルの真ん中に突き刺す。 地図を貫いたナイフを片手で引き抜き、反対側の中指を立てる。 「ただのガキじゃねぇって思い知らせてやる」
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まさみ
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