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第29話
「わっ、スワローちょっすわわっ」
暴れるピジョンをベッドに放り出す。
「……怪我人なんだからもう少し丁重に扱えよ」
「デリバリーしてやったのに文句言うな」
「母さんたちは?」
「下で話してる。人払いしてっから当分だれもこねーよ、おかげでお前はぐっすりおねんねできたってわけだ。夢も見なかったろ?」
「幸いにね」
スワローはさっさと服を脱いで派手な柄のトランクス一丁になる。
均整とれた美しい裸身に見とれる。
色気滴る首筋、左右対称の鎖骨の窪みにうねるタグの鎖、過不足ない厚みの胸板と引き締まった腹筋と細腰。
ピジョンより背が高く、のびやかな四肢に上質な筋肉を纏っている。
猫科の獣を思わせる野蛮さと優雅さが共存する、稀有なる美だ。
輝かしいイエローゴールドの髪と切れ長の赤錆の瞳の取り合わせもさることながら、幼い頃は性差が曖昧になる愛くるしさだった風貌が年齢を重ねるごとシャープに研ぎ澄まされ、目鼻立ちに精悍さが増してきた。
口も手癖も足癖も悪いが、容姿だけは美しい。
スワローはピジョンと全然似てない。
そして母よりも美しい。
母の資質を受け継いで、それをさらに昇華している。
自由奔放、傍若無人、大胆不敵。
母のように庇護したくなる儚さやあどけなさこそないが、自分の魅力を利用して周囲を出し抜くクレバーな立ち居振る舞いは、プライドの高さとしたたかな本能を感じさせる。
ピジョンには時々スワローがナイフに見える。
ダイヤモンドから削り出した、世界一美しいナイフ。
でもペニスにダイヤモンドほどの硬度はないはずだ……多分。
「お前もキズだらけだね」
「兄貴とおそろいだろ?」
「その……大丈夫なの?」
「セックスしてもって意味か」
「怪我人に激しい運動は禁物だろ」
「どこも折れてねえしこの通りピンピンしてる。コイツはヤブのせい、やること大袈裟なんだよ。母さんが目ェうるうるさせて大丈夫か死にゃしねえか聞くもんだからきょどっちまってさ、包帯を増量サービスしてくれたってわけ。診療代ぼったくろうってハラならお生憎様、全額爺さん持ちだ。太っ腹だよな、巻き込んだ詫びと手柄を上げた礼だと」
「俺も寝てるあいだに診てくれたのか」
「パンツの中以外な。スヴェンとキディご推薦の町医者だ、ヘンなマネはしねーだろ」
そばで見張ってたし、と小声で呟く弟にあきれる。
「警戒するとこが間違ってるよ……」
スワローが小癪に鼻を鳴らす。あちこちに巻かれた包帯と絆創膏が痛々しいが、深手は負ってないらしく安堵。擦り傷生傷が絶えないのはお互い様だ、自分の体のことはよく知っている。
ピジョンは全裸だ。体を拭く暇もろくすっぽ与えられなかったのでびしょぬれ、髪からも鼻の先端からも雫が滴っている。
「全身に打撲と裂傷、ただし命に別状なし。コヨーテに噛まれた痕は消毒済み、破傷風の心配もねェ」
「至れり尽くせりだね」
「ルームサービスも付いてる」
「ここどこさ」
「ロータスタウンの宿屋の二階、キディとスヴェンが住んでる隣。聞いて喜べ、宿賃はタダだと。なんたって地元を救ったヒーロー様だ、優待特権が付くぜ」
「トレーラーハウスは……」
「表に停まってる。あそこに寝かせとけねーだろ」
ごもっとも。トレーラーハウスの固いベッドは、筋肉痛のせいか節々が痛む今のピジョンには辛い。
「母さんにバレるか気にしねーですむから好都合だろ。以上でおしまい」
「待てよまだ聞きたいことがある。ビーは、スヴェンさんは」
「ストップ。聞こえなかったか?続きはまたあとで、質問タイムは打ち切り。ガバガバ引き延ばし戦法はウンザリだ」
もう待ちきれない様子でのしかかり、ピジョンの顔を手挟んでしっかり前を向けさせる。至近距離の正面に端正な顔が迫る。視線が絡み合う数瞬の沈黙。スワローが興奮に乾いた唇を舐め、低い声で聞く。
「……マジでいいの?」
長かった。この時をずっと待っていた。三年前の約束が今まさに果たされようとしている。一方で躊躇もある。兄を犯すのは簡単だ、力ずくで押し倒してぶちこめばいい。でもそれじゃあ納得しない、カラダだけしか満足しない。スワローはずっと辛抱してきた、寝てる兄にイタズラしたことは数あれど最後までいかず寸止めに耐えてきた。
「一回はじめちまえば待ったはきかねーぞ」
くどいほど念入りに兄の意志を確かめる。一線をこえてしまえば、自分を止める自信がスワローにはない。ずぶずぶにのめりこんでわけがわからなくなってしまう、ピジョンを貪るのに夢中で加減がきかなくなる。コイツを抱きたい、めちゃくちゃに抱き潰したい。欲望、願望、渇望。三年だ。三年待った。いよいよ願いが叶うのだ。夢にまで見た瞬間が訪れて、喜びと恐れで正気を失うのが怖い。
常になく切羽詰まった表情の弟に手をのばし、ピジョンは呟く。
「………正直怖い。けど、いやじゃない」
三年前の約束はちゃんと覚えている、忘れられるもんか。忘れたフリで流せたらどんなにラクかと考えたこともあった。でもそれはフェアじゃない、俺はフェアにいきたい。
ズルをしたくない。
少なくともスワローとは対等でいたい。
|50:《フィフティー》|50《フィフティー》の|真っ向勝負《フェアプレイ》で挑みたい。
三年間、コイツは耐え抜いた。俺との約束を守って、ぎりぎりのところで踏みこたえた。就寝中にしめしめとイタズラすることはあっても最後までヤらず寸止めでセーブした、快楽主義のスワローには見上げた自制心だ。
「男同士だぞ」
「うん」
「兄弟だぞ」
「……うん」
「本当にいいんだな?」
思い詰めて畳みかけるスワローが愛おしい。
何重にもタブーを犯す自覚はある。食前には必ず祈りを捧げる、信心深いピジョンには辛いことだ。もう二度と神様に許してもらえないんじゃないか、天国への切符を取り上げられるんじゃないかと思うと、パニックになりそうな位怖い。
でも、コイツを失うほうがもっと怖い。
スワローの髪に指を通し、やさしく梳る。
綺麗な首筋にもう片方の手を添え、同じ色の目をじっと覗きこむ。
「ご褒美をやるよ」
真っ暗な坑道で全裸の俺を見付け、真っ先に駆け寄ってきたスワロー。喧嘩別れして飛び出していく後ろ姿に、髪を括ってパンケーキを焼く背中が重なる。模擬戦で殴り合った生々しい記憶、力ずくで毟り取った鎖の感触が洪水の如く押し寄せて激情をかきたてる。俺を呼ぶコイツの声がコイツを呼ぶ俺の声と錯綜し、鼓膜の裏側に殷々と響き渡る。
「俺の処女、くれてやる」
レイプじゃない。合意の上だ。自ら体と心を開いてスワローを受け入れる。
世界一愛おしくて面倒くさい弟。
嫌気がさすときもあるけれど決して突き放せないのは血に呪縛されてるせいだけじゃない。
コイツと俺はぴったりハマる。コイツが脅し役、俺が宥め役。生まれた時から凸凹コンビだ。
ピジョンの微笑みは子どもを抱きしめる時の母に似ていた。萎えるかと思ったがそうでもない。
スワローが切なげに顔を歪め、ピジョンの髪の隙間の地肌にキスをする。
頭皮は性感帯の一種で刺激に弱くできている。兄の髪をかきまぜて吐息を逃がし、うっとりと目を瞑る。
「兄貴の髪、綺麗なシャンパンゴールドだ。太陽に透かしたピンクドンペリの色」
「そんな高級な酒飲んだことないだろ」
「嗅ぎすぎて酔っ払いちまいそうだ」
「お前の髪は……ジンジャエールかな」
「もうちょいマシなたとえねえのか」
「綺麗な金色で……匂いを嗅ぐと、瞼の裏で炭酸みたいにパチパチ光が弾けるんだ」
「意味わかんねェ」
じゃれあいの延長のキス。求めてくる弟に応じ、唇で首から鎖骨にかけてをなぞる。
包帯が邪魔だ。ひっぺがしたい。吐息が地肌にあたってくすぐったい。舌が顔へ移動し、瞼の上でちろちろ踊る。どちらからともなく口同士が自然に重なり、積極的に舌が絡んでいく。
「ん……っ」
最初から深いのがクる。もう抵抗は感じない。兄弟でキスなんて間違ってると叫ぶ理性は都合よく封印し、快楽に身を委ねきる。
たっぷりと唾液を分け合い、舌の表裏をまさぐり、頬の内側や上顎の粘膜をこねまわす。
口の中を切ったのだろうか、少し血の味がする。
スワローの味だ。
ピジョンは弟の見えない部分のキズを癒そうと、舌でくりかえしなめあげる。
「っは……」
こそばゆい。まどろっこしい。じれったい。
傷に唾液がしみたのか、スワローがほんのわずか顔を顰めて呻き、嗜虐心をそそる。
お留守な手をスワローが掴み、自分の股間へ導く。
ピジョンはびくりとする。
最初は拒むも重ねて促され、トランクスにテントを張ったモノをしごきだす。スワローも心得たもので、兄の股間へ手をやると既に半勃ちのペニスをしごきだす。
似てない兄弟が互いのモノを夢中でまさぐりながら濃厚なキスをかわす。
「んっ、んく」
「あふ、ふぁあァ」
巻き付き、搾り、擦り立て、時に袋へ手を伸ばしやわやわと揉んで、第二関節で包むように愛撫する。
鈴口から滴るカウパーがシーツをしとどに濡らし、トランクスの中心が盛り上がっていく。
「スワロー、っあ、もっとゆっくり、じゃないともたな、い」
「先にイッちまっても別にいいぜ」
「くっ……」
主導権を奪い合い、優劣を競い合い、上の口は大忙しで舌をねじ伏せ、カウパーでぬめるペニスをやすりがける。お互いのいいところは、どうかするとお互い以上に知り抜いている。
「は……兄貴のペニス、すっげドロドロ。口ん中と一緒……だ」
「お前のだってグチャグチャだ……下品な音聞こえるだろ」
「テメェの下半身から聞こえてくんのと一緒だろ」
手は休めず、何かに取り憑かれたように互いを貪る。
ディープキスと手淫の同時進行で快感は二倍にはねあがり、下半身をいじる手が交代し、相手のカウパーに濡れた指で自分のペニスを擦り、裏筋を擦り合わせ、また交代し、相手のペニスに絡んでいく。
「!っあ、ぅあっああっ」
スワローのペニスに伸ばしかけた手を掴まれ、自分の股ぐらへと返される。
そこにすかさずスワローの手が重なって、ピジョンのペニスをいじめにかかる。
「兄貴のヤリ方じゃ一日たってもイけねえ。手伝ってやるよ」
正しいフォークの握り方を教えるようにピジョンの手を操作し、激しさを増して上下に擦り立てる。
容赦ない刺激にピジョンは慄き、「あッあぅッあぅあああッ!」と仰け反る。
くちゅくちゅとねぶり、さんざんにほぐしては蕩かされ、朦朧とした様子で二人分の汗と唾液を交わらせる。
マーキングのようなキス。
マウンティングのようなセックス。
「もういい、こっちだ」
名残惜しげに透明の糸引く唇をはなす。ピジョンはまだ物足りない。しどけなく放心し、ねだるように潤んだ目で行為を中断した弟を仰ぐ。射精の一歩手前でお預けをくらったペニスは先走りに塗れてそそりたち、外気にさえはしたなく感じる始末だ。
「こっちって……」
「|69《シックスティーナイン》」
知ってる。雑誌や母の情事で見たことある。スワローはとっとと逆さになり、ピジョンもおどおどと体の位置を入れ替える。勃起したペニスを目の前に突き付けられ、喉が引き攣る。
まじまじとそれを見て、自分と違う形に感じ入る。
「お前の……デカいな」
「兄貴のは長い。スラッとしてカタチもいいから女が喜ぶぜ。ああ、そっちは未使用かワリィワリィ」
「コレ……入るかな、サイズ的に。裂けない?」
「口に入ったんだから大丈夫だろ」
至近距離でペニスを凝視する機会など、この手の行為に及ばなければそうそうない。
スワローと風呂に入ったことや、真っ裸で水遊びした経験はたくさんあるが、思春期に突入以降はとんと絶えていた。いや、ピジョンが自衛して避けてきたのだ。
このキレイな顔の下にこんなグロテスクなものがぶらさがってるなんて、詐欺だ。
赤黒く勃起したペニスを両手で掴んで逡巡する兄をよそに、スワローは嬉々としてしゃぶりついていく。
兄のペニスを両手に持ち、先端を咥え、舌を絡め、わざと下品な音をたてる。
「うァちょ、待っいきなり、心の準備が!?」
「さっさとやれよ、ほったらかしは萎えちまう」
「フライングはずるいぞ、インターバルをくれよ……!」
「目の前にごちそうあるのにお預けか?腹減ってんだよ俺」
スワローはフェラチオが達者だ。兄の股間に顔を埋め、根元を手コキ、ずっぽり咥えて抜き差しする。
ピジョンのペニスは美味い。独特の生臭い塩気は汗と先走りが交じったもので、羞恥心が濃縮された味がする。
重点的にペニスを責めながら、脚の付け根や内腿をなめ、指を滑らしくすぐって、飽きがこないよう刺激の質を変えるのも忘れない。
内腿からストロベリーの残り香がする。ペニスもだ。ピジョンの体内でドロドロに溶けた飴が滴り、内腿をピンクの汁が伝う残像に興奮する。あの場で犯したくなるのを耐えるのに自制心を総動員した。
「兄貴のここ……ストロベリー風味だ。ほんのり甘ェ」
「うあッ!?」
内腿の皮膚を軽く噛んで引っ張る。甘噛みに微電流が走り、ピジョンが叫ぶ。甘い匂いを遡って舌を遊ばせ、ペニスをベチャベチャとしゃぶる。
ピジョンが漸く動きだし、弟のモノを遠慮がちに含む。
ぎくしゃくと引っ込み思案な舌遣いから、自分を犠牲にしてパートナーに尽くす切実なまでのいじらしさが伝わってくる。
「は……、」
弟をイかせたい、悦ばせたい一心で素人くさい口淫を施す。
てんでなっちゃない、スワローのテクニックとは比較にならないウブさがそそる。
剥き出しの股間に顔を埋めピチャピチャと先走りを啜る、じれったく捏ね回す、震える両手で根元を持って先端におっかなびっくりキスをする、ぐりぐりと唇に押し付けて中へ導く。
だんだんノッてきた。
スワローのフェラチオは大胆さを増し、ピジョンもほんの少しコツを掴んで上手くなる。
全身全霊で前戯に集中、ペニスを過激に可愛がる。
「お前のペニス……っは、口ン中でどんどん育ってら。喉の奥に届いてンのわかるか」
「んあ、ふァ、しゃべるな……今余裕ない……っし、吐息が変なとこあたってむずがゆい……噛まれそうで怖い……」
「じっとしてろよ、暴れると歯が当たる」
顔が見えないのがせめてもの救いだ、じゃないと恥ずかしくて死にそうだ。
スワローのペニスが目の前にある。
完全に皮が剥け、亀頭が横に張り、先走りをてからせ、赤黒く勃起したペニス。
ピジョンはそれを丁寧にあやす。苦い唾液にむせて、くれぐれも歯を立てないよう用心し、先端から半ばまで含んでおしゃぶりする。スワローのモノをしゃぶってると思うと興奮する、俺は立派に変態だ。母さんごめんなさい。いけないことをしてるのにイキたくてたまらない、それしか考えられない。スワローが褒めてくれるならなんでもする、気持ちいいならなんでもする……
「お前のっ、も、苦し……喉にあたって息できない……かふ」
「ふッあ……兄貴のでか……すっかり節操なくしてんじゃん、ベトベトだ。俺の口、そんな気持ちいい?」
「あったかくて……変な感じ、だ。お前の中……息遣いと舌遣いが交互して腰がふやけてく」
スワローもだんだん余裕を失っていくのが声でわかる。互いの股ぐらに顔を突っ込み、ピジョンは覚えたての基礎に忠実に、スワローは磨き抜いた技巧を駆使して容赦なく責めまくる。
ピジョンの足がもどかしげにシーツを蹴り、スワローもそれに合わせる。
「ふあっ、あぅッくゥ」
「んッんむッあゥ」
ピジョン如きとなめてかかっていたが、意外にあなどれない。もう少しでイきそうだ。くりかえしシーツを蹴り、抜いた拍子に喘ぎ声を高め、咥えっぱなしでくぐもらせ、こみ上げる射精欲を辛うじてやり過ごし、スワローは爪先で行儀悪くピジョンを押しやり、ピジョンは女々しい内股で腰を捩らせ、互いに意地を張り合ってギリギリまで引き延ばす。
ぐっと根元を押さえてためこみ、先端を唇にひっかける。
「あああァああッあァああああああ!!」
「ぅぐう!」
射精に至るのは同時。口の中で爆ぜた大量の白濁が喉の奥にまではねとぶ。まずいのを我慢してゴクンと飲み干し、口の端から滴る一筋を手の甲で拭く。兄の精液を搾り取ったスワローはご満悦だ。一方のピジョンは顔射を受け、ぐったりとシーツに突っ伏している。顔面に飛び散った精液が卑猥だ。
「飲まなかったのか」
「まずいからいやだ……吐き気がする」
「で、69初体験のご感想は」
「顔が見えないぶんまだマシ」
俺のもたくさんでたな。ピジョンの顔を見て素朴な感慨を抱く。スワローは兄に覆い被さり、細い手首を掴んでぺちゃちゃと顔をなめる。困憊して指一本動かすのも億劫なピジョンの代わりに、自分の出したものの始末をする。
熱い舌が睫毛に絡んだザーメンをなめとり、鼻の頭にじゃれ頬に筋を引く。
指の股に指をかけ、固く組み、仰け反る首筋から鎖骨へと火照りを帯びた唇を移す。
艶めかしいピンクの突起を唇ではんで転がし、人さし指と親指で強弱つけ揉みしぼる。
「ぁふ……ふあ、あぅあっ。スワローそこ、やめ……」
「芯が立ってコリコリしてきた。敏感なクリ乳首……プックリ腫れて誘ってやがる。母乳もだせんじゃね?」
「前世はホルスタインかよ……」
「ミルクタンクヘヴンで雇ってもらえよ」
体中ジンジン疼く。
抗う口とは裏腹に正直な反応が可愛く、ヂュウッと音たて乳首からエキスを吸いだす。
「ふぁッひゃうッ?!」
ピジョンが一際甲高く喘ぎ、スワローは兄を押さえこむ手の力を増す。
わななく膝を強引に割り開き、射精してすぐ力を取り戻しはじめた股間を暴く。
スワローは我知らず生唾を呑み、腹から声を出す。
「挿れるぞ」
長かった。待ちくたびれた。ずっとこの時を待っていた。
三年間死ぬほど抱きたくて気が狂いそうだった、一人でマスかく時はコイツを抱く光景を想像した、隣で安らかな寝息をたてるコイツにイタズラしても虚しくなるだけで持て余した熱のやり場がなかった。この三年間だれと寝ても抱かれてもコイツの顔にすりかわって、そんな自分にウンザリ嫌気がさして、できるだけ夜遊びを長引かせて、トレーラーハウスに寝に帰るのも億劫になった。
ピジョンは俺の兄貴で、俺が大事に思える数少ない一人だ。俺達は半分血が繋がっていて、お互い親父の顔は知らなくて、でも母さんがいてくれたから問題ない。
コイツを抱きたいとか犯したいとか、なんでそんな風に思うのか俺自身もわからねェ。手放したくないから、一生縛り付けておきたいから、てっとりばやく快楽浸けを選んだんだろうか。
そんな小難しいゴタクはぬきに、一番気持ちよくなれる相手が本能でわかっていたんだろうか。
血は水より濃い。俺達はとびきりだ。
ビーのエセフェロモンなんてメじゃねェ、俺の体液は一滴残らずコイツの為に誂えた媚薬だ。
コイツの吐く息も出す汁もなにもかも、俺をおかしくさせるトリガーだ。コイツの存在が俺の媚薬だ。
互いの胸でタグが揺れる。
ピジョンはキツく目を閉じ、気怠い射精の余韻に浸る。
縋るように切迫した弟の眼差しの残像が、閉じた瞼の裏に焼き付く。
「……OK」
押しの一手に根負け、吐息を荒げて降参。
劣情と激情に滾る赤錆の瞳と、奥に怯えを秘めた赤錆の瞳が直線で絡み合い、ピジョンがおもむろに手を伸ばす。
スワローの首の後ろで指を組み、ぶらさがるような格好で見返して、ずれた前髪の間から弟をまねた精一杯ふてぶてしい笑みを拵える。
「俺のこと死ぬほど気持ちよくしろ」
しぶとく、ずぶとく、したたかに。
その三箇条を体現する、とんでもなくタフでふしだらな笑顔。
ピジョンもまた母や弟と同じく、とめどなく淫らな性質が受け継がれていると実感させずにおかない表情。
悪戯っぽく目を眇めて不敵に笑む兄に、スワローの理性が焼き切れる。兄の挑発を上等と受けて立ち乱暴に押し倒すや、猛烈な征服欲に駆り立てられて宣言する。
「ぶっ壊れるまでイかせまくってやる」
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