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第3話
爽やかな風が吹く、よく晴れた日。
アレンシカはフィルニース王立学園に入学した。
さすがに全国の子息達が集まる故に社交界で見知った顔は何人かいる。
友人関係ではそれほど不安なことはないだろう。
有難くも長い教師代表からの挨拶を聞きながら、アレンシカはさりげなく周囲を見回した。
平民の人間もアレンシカの見える範囲では数人はいるだろうということも分かる。
貴族の生徒と平民の生徒は制服が少し違うのでわかりやすい。
教師の話が終わった後は、ウィンノルが真っ直ぐに壇上に向かって歩いて行く姿が見える。
いつもは学園長と代表教師の挨拶で終わるらしいのだが、今回は第二王子も入学するということでウィンノルが生徒代表として挨拶をが予定に含まれていた。
深い青をなびかせながら堂々とした美しいその姿に、アレンシカはほうとため息を吐いた。
周囲の生徒達も一様にウィンノルに羨望と憧憬の眼差しを向けていた。
「偉大なる神に見守られ、今日私達は入学しました。」
凛とした深い声に熱い視線が更に増えた気がした。
ウィンノルは昔から社交界の華で、一度パーティーに赴けば一言でも言葉を交わしたいとたちまち周りに人々が集まる。
昨日アレンシカに冷たい目を向けていた婚約者はそこには居らず、皆の憧れの美しい第二王子がそこにいる。
これはウィンノルとの一方的な約束なんてなくとも、在学中にウィンノルに近づけるのは良くて数回程しかないだろうな、とアレンシカは寂しくなった。
入学式が終わった後、アレンシカはクラブ棟に行く為に中庭を進んでいた。
王立学園には創立当時からある由緒正しい園芸クラブがあり、今は亡きアレンシカの母親もかつてそのクラブに在籍していた。その為自分も学園に入学した暁には是非ともそのクラブに入りたいと思っていたからだ。
正式な加入は一週間後だが今日も活動していると教師から聞き、それなら今日のクラブ活動を見てみたいと思っていた。
アレンシカはクラブ棟に向かう間、先程の様子を思い出す。
ウィンノルは案の定、子息達に囲まれていた。
次から次へと話しかけられるというのに、嫌な顔ひとつ見せることもなくアレンシカが相手の時とは全く違う優しげな笑顔を浮かべて穏やかに会話を楽しんでいた。
自分は婚約者なのだし婚約者はこの国の第二王子なのだから、それくらいのことは大きく構えなければならない。けれどどうしてもチクチクと棘が刺さる心を気にしないようにして賑やかな声から逃げるように足早にその場を後にしたのだ。
中庭はさすが王立学園の管理に置かれているだけあって薔薇を始め色とりどりの美しい花が咲いている。
花だけでなくどの花壇も美しく整備されていて道にも少しの汚れも無い。
母が好きだったからだけではなく、花が大好きなアレンシカはその色とりどりの花が元気を与えてくれる気がして、少し歩調を緩めた。
目の前には透き通る青い花が咲いている。
その青にせっかく忘れられそうだった先程の婚約者の青を蘇りそうにななってしまい、慌てて頭を軽く振ると早く行こうとその青い花から離れようとした時だった。
「…あの、あの!」
「えっ。」
涼し気だが可愛らしい声を掛けられた。
突然話しかけられ、驚いたアレンシカは反射的に振り返る。
振り返った先には。
(……あ。)
爽やかな風に輝き、花のように可愛らしい、柔らかいカシスゴールドの髪の人がいた。
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