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第7話

アレンシカは馬車に乗り、学園への道を行く。 優秀な執事と、家の者によく懐いた馬、しっかりした馬車のおかげでほとんど揺れることなく走っている。 もうすぐ学園にに着くところで窓の外に目をやると、前方によく知っているキラキラした深い青を見つけてしまった。 (あっ……。) すれ違う間に見た顔は、やはり婚約者のウィンノルでありすぐそばに二人の子息を侍らして、決してアレンシカには見せない笑顔で何かを話しているようだった。ただの登校風景にも見えず、どこかで登校前に遊んでいたのかもしれない。 その横をアレンシカの馬車が通る。見る人が見れば、ましてや彼なら絶対に分かる婚約者の馬車が横切ったとしてもそちらには少しも視線を向けることはない。 そのまま通り過ぎ停車場に馬車を止めると、アレンシカは執事の手を取り馬車から降りる。 お礼を言ってから教室棟に向かうと、先程より増えた子息達に足を止められたのかウィンノルは教室棟にはまだ入らずに笑顔で取り巻きの相手をしていた。 ここで普通だったら婚約者として、少しの牽制も含ませながらウィンノルの側に行って笑顔に挨拶をして一緒に教室棟に入るのだろう。 しかし学園に入る前から、他の人達に向ける顔とは全く逆の冷たい目でアレンシカとの関わりを禁じたウィンノルの側には行く勇気など、その後に向けられる目をを考えるとアレンシカには出来なかった。 きゃいきゃいわやわや聞こえる声。 明るく優しく受け答える婚約者。 遠くでただ見つめる自分。 ふわりと風が白銀の髪の間を通り過ぎ慰めるように撫でていくが、それもアレンシカにとってはただ悲しさを増長させるだけでしかなく、ただ楽しそうなウィンノルを羨ましく見つめるだけしかない。 「……アレン様。アレン様!」 「!」 ただウィンノルを見つめることだけに気を取られていたからだろうか、全く気が付かなかったが、いきなり目の前にエイリークが現れた。 「おはようございます、アレン様。」 「……おはよう、エイリ。」 「はい、アレン様。ずっとボク呼んでたのにアレン様全然気づいてなかったです。心ここにあらずーってこういうことなのかなって知りましたよ。」 「あ……はは。」 「どうかしたんですか?朝からちょっとどんよりって感じですね。」 「……ううん、なんでもないよ。」 「あは、もしかして今日が楽しみとかだったとかですか?ボクもなんです。」 「そうなの?」 「はい!明日から毎日アレン様と会えるんだーって寝られなくてちょっと寝不足なんですよ僕。」 「……ふふふ。何それ。」 昨日の今日なのにまた冗談で笑わせるエイリークに釣られてアレンシカも笑う。まだ友達を始めて少ししか経っていないのに、友情を大切にするエイリークの存在が嬉しかった。 そのままエイリークが歩き出したので、アレンシカは一緒に歩き始める。 教室棟に入る前に少しだけ見るともうそこに婚約者の姿はなかった。 「あー、午前だけでもう疲れましたアレン様ー。」 学業が始まるとさすが王立学園の授業ともあり真面目でピリッとした空気が漂う。 少しも教師の言葉を漏らさないようにどの生徒も一言一句気をつけて聞いているからだ。 まだ始まったばかりとはいえ、そんなまだ慣れない授業が終わった瞬間、隣りに座っていたエイリークは机に突っ伏した。 「うへー。ちゃんと入学前から勉強はしてましたけど、やっぱ大変ですよ……。レベル高いんですよ……。」 「でもエイリすごく集中してたよ。」 「ちゃんと勉強はしなきゃーですからね。」 少しの間ぐでっとしていたエイリークはアレンシカが苦笑しながら心配そうに見ていたのに気づくとハッとして体を起こし、シャキッと姿勢を正した。 その様子が少し面白かったアレンシカはクスクス笑った。 まだ一日しか経っていないのに、もう当たり前かのように二人で食堂に向かう。 今日もエイリークは弁当だったが、今回は席に着かずにアレンシカと一緒に食事を取りに来た。なんだか落ち着いて一人でいられないほど食堂が賑やかだったからだ。昨日は無かった特に賑やかな一角があった。 騒がしい声につられてアレンシカが目を向けると、その中心には予想に漏れず婚約者がいて、周りに子息達を侍らし昼食を楽しんでいるようだ。 食堂は当然自由席だが、ウィンノルは王子なので万が一がないように、王子専用のスペースが設けられている。誰にも見えないように護衛がいるはずだ。 だというのに子息達が王子であるウィンノルに近づけて周りが何も言わないのは、ウィンノルが許可しているからだろう。 もちろんこの学園には生徒はみな友人であるという校則があるがそれだけではないことは笑顔の婚約者を見れば分かる。 婚約者だというのに、校則だってあるのに、アレンシカだけがウィンノルと関わることをウィンノル自身に禁じられている。 (自分は関われないというのに、今日はよくウィンノル様を見るなあ。) もしも気づかれたらまたウィンノルから冷たい目を向けられるのだろう。 それなのについ遠くからならいいのではないかと見ることを止められなかった。 ここがどこかも忘れてただ楽しそうな婚約者を見ているとアレンシカの肘につんと何かが当たり、それが何度か繰り返されると意識が戻ってそちらに向いた。 当たった方を見てみると、いつの間にかアレンシカが持っていたプレートがエイリークに渡っておりそれが当たっていたようだった。 アレンシカはプレートを辿ってエイリークを見ると、視線に気づいたエイリークはにっこり笑った。 「アレン様アレン様。今日はポテトのキッシュがあるんですって。美味しそうですよ。」 「あ、ええ、そうだね、美味しそう。」 「ボクお弁当だからなあ……。ちょっと羨ましいかもです。」 「よかったら半分にする?」 「……え!いいんですか!やった!」 行きましょう!とエイリークに促されて食事を受け取った後、賑やかな一団とは離れた暖かい日向の席に座った。ここではちょうど柱もあってウィンノルの姿は見えない。 それにアレンシカはホッとすると、キッシュを切り分け始めた。 その姿を見てエイリークは笑った。

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