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第10話

園芸はアレンシカにとって、何も考えなくて良い上に心が穏やかに休められる趣味だった。 幼少期に花が好きだった母と一緒に花を育てて花を学び、楽しい時を過ごした。花と共に成長する自分をとても喜んでくれた。 母が亡くなってからは花を見ては母を思い出して悲しい時もあったが、それでも母が大好きな花だから、自分もこれからも花と共に日々を過ごそうと思ったのだ。 (あの時、母が亡くなった時に、ウィンノル様が側にいてくれたんだよね…。) ウィンノルと婚約してしばらくした頃、母の持病が悪化して帰らぬ人となった。 母の葬式が終わって何日か経ってもずっとべそべそ泣いていたアレンシカだったが、婚約を結んでから談笑するひとつすることもなかったウィンノルが泣き過ごすアレンシカの側にただただ一緒にいてくれた。 やっと泣かずにいられるようになってからはいつの間にかまた元の寂しい距離に戻ってしまったが。 あの時からアレンシカは恋をしている。 アレンシカは薔薇の剪定をしながら昔を思った。 今日は園芸クラブの活動日で、学園の薔薇園の剪定作業をしている。 いつもならただ目の前の花に向き合うだけだが、今日に限ってこんなことを考えているのは、先程薔薇園からウィンノルが出てきたのを見たからだろう。愛も変わらず、自分には少しも見せたことがない優しい笑顔で周りに子息を侍らしていた。 学園の薔薇園は素晴らしく、生徒達の間でもちょっとしたデートスポットと化している。おそらくウィンノルもデートの為に来ていたのだ。 アレンシカは心の中に悲しい気持ちが積もっていくのを感じた。 「皆さん、今日はここまでで良いですよ。続きはまた明後日にしましょう。」 顧問の先生の合図で生徒達は片付け始める。 もうすっかり夕方だった。 「あっ、アレン様。お疲れ様です。」 少しだけ外でぼーっとした後、荷物を取りにクラスへ戻ると、もうとっくに寮に帰ったと思っていたエイリークが座っていた。 目の前にはいくつかのノートと本が散らばっている。 「エイリ、どうしたの?もう夕方なのに。」 「あはは、どうしても分からないとこがあって、ここで勉強してたのです。」 クラスには図書館のように膨大ではないがいくつか本棚があり、過去の教科書や資料が納められている。 その為クラスで勉強してから帰る生徒も珍しくはない。 とはいえ皆はもうとっくに帰る時間であるし、実際にクラスにはエイリーク以外の生徒は一人もいなかった。 「資料は持ち帰ることも出来るから、寮に帰ったほうが落ち着いて出来そうなのに。」 そう言うとエイリークは少しだけバツの悪い顔をした。 「……勉強、したかったのは、まあ本当なのですけど、それだけが本当ではないんです。」 「……え?」 「アレン様を待ちたかった。最後に会ってから寮に帰りたかった。それが一番なんです。」 エイリークはアレンシカの目を真っ直ぐ見た。エイリークの目は輝いている。 「アレンシカ様の側にいたかったんです。」 アレンシカをじっと見た後照れたように笑う。 エイリークは目の前の本を片付け始める。 (……あれ?) アレンシカはいつの間にか心の中の悲しさがなくなっていることに気づいた。 「あっ。」 「……ん?」 いつの間にか本を片付け終わったエイリークはアレンシカを見ていた。 「アレン様の髪、夕陽で僕と同じ色。」 アレンシカと同じ色のエイリークはふんわりと笑った。

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