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第2話
たくさんの陽を浴びる。
たくさんの水を飲む。
たくさんの、眠りが降り注いだ。
毎日が無気力。
一日がいつから始まっていつ終わってるかも分からない。
気づいたら眠っていて気づいたら家の布団の上に転がされてる。
「ん」
「ああ、起きた?」
眩しい。
太陽なんかよりもずっとずっと。
温もりが触れる。
暖かい
俺の太陽
その男のおかげで俺はヒトになれる。
人でいられる。
人でいたいなんて思ったことない。
そんなことを考える頭は持ち合わせてないし
お気楽ではないが慎重さも心配するなんて性分もない。
ただ、俺の手を取ってくれるから
人として産まれたことも
まあ、悪くないんだろうなって思える。
、
「今日は駅前に落ちてたよ」
「落ちてたって言うなよ」
「俺が拾ってあげたんだから落ちてたで正しいでしょ」
俺は生まれてくる種を間違えた。
男は人間として正しくある筈なのに
どこか欠けているような発言をたまにする。
「アリアにお礼言っときなね」
「ん」
アリアは賢く、美人で、とても優しい。
俺の事を弟のように思っているらしく
根気強く、じっと隣で俺を見ていてくれる。
「アリア」
一言呼ぶとピクリと耳を動かして
まん丸く大きな栗色が混じる瞳でこちらを見つめる。
俺が起きているのを視認するとぱたりぱたりとスラリと伸びたしっぽを揺らし、大きい体を起こして俺の元へ飛びつきたい思いを抑えながら足を跳ねさせてこちらに近寄ってくる。
まるでスキップしているようなそれは
思慮深く聡明な彼女なりの喜びの証
寝そべる俺が手を伸ばすと擦り寄りふすっと鼻を鳴らして
控えめに大きなベロで手を舐められた。
「ふっ、擽ったい。」
思わず零れた声にアリアは気分を良くしたのか
先程よりも幾分か激しくしっぽを揺らした。
「アーリィ、そろそろ風呂入れるからちょっと待ってね」
アリアの影から大きい手のひらがぬっと出てきたと思うと柔らかいであろうその毛並みにそれは埋まり、頭を撫でた。
アリアは気持ちよさそうに目を瞑ってパタパタとしっぽを振ると、言われた通り先程まで目を瞑って俺の起床を待っていた大きなクッションの上に戻って行った。
「まだお礼言ってない」
「彼女には伝わったみたいだよ」
「……」
男をじっと見つめる。
俺の視線に気づいてか気づいてないのか
俺の体を抱き上げるように脇の下に腕を入れられた。
「ヨウ、動かすよ」
「コーキ」
「ん?」
ふに、と唇に触れた柔らかい感触
ぴたりと動きが止まった煌己
俺は俺を抱える腕に体を預けて肩口に額をを擦り付けた。
熱が伝わり心臓の音が伝染する。
じんじん、どくどく
わふ。
少し離れたところで呆れたようにアリアが鳴く声が聞こえた。
「よう、ふいうちは、よくない」
「お礼言ってなかったから」
「確信犯」
「さあ?」
動揺しているのはわかる。
その様子が楽しくてカラカラと喉を鳴らすと
不貞腐れたようにそっぽを向く。
耳が赤く染まっており、隠しきれていないそれにまた心を躍らせた。
この男、もとい、佐藤煌己は俺の生命線だ。
俺が息をする上で必要なものの一つ。
植物で言う太陽と同じ。
なくてはならないもの。
「運んでもらわなくても、もう動ける。」
「でも眠いでしょ?」
「今はへいきだ」
「でも風呂入ってる途中に眠くなるかもよ」
正論で返されると何も言えなくなる。
「……」
「もー不貞腐れない」
「てない。」
「いやいや、不貞腐れてるじゃん、怒んないで」
苦笑を零しながらポンポンと背中を撫でる温もりが心地よい。
無意識に煌己の首に回していた腕に力が籠った。
気分を良くした煌己は鼻歌交じりに風呂場へ俺を連れていく
トントントンと廊下を歩く度に伝わる振動が
揺籃のようで再び俺は眠りの世界へと誘われる。
今度のは、気持ちのいい、眠りだ。
「ちょ、ヨウ?まだ寝ないで?ね?」
「ンー」
「もう少し!もう少し待って!!」
俺にとって眠りは自由なものではなく
何よりも不自由なものだ。
そして、俺にとっての眠りは二種類ある。
気持ちのいいものか、そうでないもの。
普段、後者の一択に限るが
煌己が隣にいる眠りはまた別だった。
「わふっ」
「アリア?どうしたの」
抗議の声が聞こえたと思うとカツカツと伸びてしまっていたのか、硬い爪が床を叩く音がする。
何とか瞳を上げて視線を下すと少し不満げな顔をしたアリアが煌己の足元をするりするりと行ったり来たりしていた。
「ごめんごめん…もちろん、アリアもだよ」
「ふすっ」
俺がそう口にするとアリアは満足気に瞳を閉じて脱衣所の前で丸まった。
まるで早く風呂に入れと言われてる気分だ。
「また二人で会話してたの?」
「そうかも」
一人置いてけぼりの煌己が首を傾げる。
超能力とかそんなもの持ち合わせていない。
俺も、アリアも
ずっと一緒だったから何となくわかるだけだ。
「ふーん」
「今度はコーキが拗ねるのな」
「そんなんじゃないよ。ほら、ヨウ」
「ん」
されるがまま。
脱衣所で床に下ろされフラフラとする俺の服を手慣れたように剥がして風呂に突っ込まれる。
煌己は一緒に入るわけじゃないから
湯船の外から俺が眠ってしまわないかを眺めている。
やばくなったらアリアが居るから
コーキはリビング寛いでいていい、と前に提案してみた所
『俺が楽しくてやってるんだからいい』
って一点張りだった。
俺には何が楽しいのかまるで分からないけれど
煌己が楽しそうだから、まあ、いいか。
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