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第5話 ※

ふれる、ふれる、ふれる。 熱が降り注ぐ。 触れて、離れて、触れて 繰り返されるその行為にただ体を震わせた。 「っ、は……ぁ、ッ」 「ね、気持ちいね。」 気持ちがいい、のか、これは。 もう、どこに煌己の手のひらが触れているのかわからない。 舌が薄い腹の皮膚の上を滑る。 ざらりとした舌の感触に過ぎた快楽を拾う。 ふつふつと粟立つ肌 漏れる声は嬌声 ただ、その名前をつけることは、 些か自分にとって辱めの様なものに感じる。 依然、俺はソファーの上に転がされ 立てさせられた膝の間に煌己は顔を埋めていた。 与えられる快楽に条件反射で上向く自身の性器は まるで期待しているかのように鈴口を震わせて蜜を垂らす。 潤滑剤代わりにそれを掬い取る煌己の指先は、 待ちきれないと自分でもわかるほど収縮を繰り返す秘部の縁を何度もなぞったりと直接ナカを満たすことはない。 時折、凝る筋肉を柔くほぐす様に足の付け根を撫で俺の快感を高めていく。 「こ、うき……おま、え……ンっ!…も、ッ」 「俺はいいの」 「なっ、ぁ、あっ!!やだッ、や、ぁ…だっ…!」 お礼だの、褒美だのというなんらかの形にするのならば 道具のように扱われた方がまだマシだ。 得体の知れない快楽に浸され、髪の先から足の指の先まで どこまでもどこまでも逃れられない一方的な快楽を与えられ続け 思考なんてとっくの昔にまともじゃなくなっている。 ただその中でも、どうにかして煌己に何かを返したい返さなくてはという気持ちは消えることはないようで 必死に訴えかけたとしても煌己は俺を淫らに染めるばかりで 俺で気持ちよくなってくれようとはしない。 「はっ、あ、あ、っ…だめ、ぁ、う…ンン、」 「ん、ふっ…ンンー」 「しゃべ、っな、ぁっ……!」 煌己の指の腹が熱く熟れた菊穴に触れた。 自ら迎え入れるように口を開ける後孔へ待ち望んだ刺激が与えられた。 それだけでも十分すぎるというのに、その快感に加え 煌己の薄い唇とは対照的な厚い舌が快楽に落ち着きを失っていた性器に這わせられ あまりにも唐突なその強すぎる快感に背をのけぞらせる。 声が漏れぬよう塞いでいた手のひらはその役目を放棄し、 耐えるよう無意識に手を伸ばしたソファーの背もたれに爪を立てるばかり。 「ヨウ、きもちいね」 「からッ…や、だっ、」 「俺もね、きもちいよ」 ちゅ、と煌己は俺の性器に口づけて呟いた。 なんて最低で卑猥な光景なのだろう。 煌己は俺に触れているだけだ。 けれどその視線が、表情が語っていた。 乱れた俺を見つめる煌己の視線は恍惚に染まり、 その瞳の奥に雄々しい感情を散らしている。 その視線に射抜かれ、腹の底から湧き上がる感情に比例するよう菊穴は引き締まり 煌己のゴツゴツとした骨張った指を咥え込む。 「ぁ、え、なんで、」 「ヨウ?」 「だめ、み、んんっ、ぅ…なっ」 沸々と湧き上がるそれは紛れもなく快楽だった。 とめどなく溢れるそれにまるで感電したかのようにビクリ、ビクリと全身を震わせ欲に果てた。 「ぁ、はっ…は、ふ、ぁ……」 「もしかしてイっちゃった?」 「ッ」 覚えのある脱力感とさらに敏感になった熱い体に 手放したはずの理性が顔を出し、羞恥に染まった心からは言葉は生まれない。 挿入されていた指が引き抜かれ、その刺激にまた腰を跳ねさせる。 「ぅ、あ」 「うーわ、やらし」 「ッ!!」 「あ、ごめん、声に出てた。」 思わず漏れた声に、これでも我慢してたんだよ?と全く悪びれる様子もなく 煌己は笑みをたたえた。 「もう、いい」 「ごめんて、ね、ヨウ、ご飯食べよ?」 こんな調子で食べられるわけがないだろう。 力がまるで入らない体では脱がされた下着を取ることも ましてや立ち上がるなんてこともできず 近くに畳まれたブランケットをひったくって体に被せ、なんとも間抜けな格好でふて寝することにした。 体がベタベタして気持ちが悪い。 風呂に入った意味とはなんだったのか。 「寝る」 「よーおー」 「寝る!」 背もたれの方に体を横にして目を瞑る。 少しして、ギジリと床がなり煌己が立ち上がった気配がした。 しばらく、近くに気配はなく遠くで鳴る物音だけが耳に入っていた。 寝たフリの予定が本当に眠ってしまいそうになり ウトウトしていると突然身体に被せていたブランケットが剥がされる。 「っ、おい」 「ベタベタして気持ち悪いでしょ」 「寝てていいよ」 されるがままに、 温い濡れたタオルで余す所なく体を拭われる。 「っん」 時折漏れる声は仕方がない。 少し時間が経ったとはいえ、先ほどの熱の余韻は多分に残っている。 熱に浮かされぬよう意識をほかにやろうと思考を巡らせていると 先ほどの恍惚に染まった煌己の表情を思い出してしまった。 『俺、あんな不意打ちのお礼じゃ満足しないよ。』 煌己が用意した部屋着を着せられながら 先刻の行為に耽る前の言葉を思い出した。 「きもち、よかった…のか」 「ん?」 「…」 顔は見れない。 煌己はすこし考える素振りを見せたあと 思い当たる節をみつけたのか「ああ」と一つ、相槌なのか意味は無いのか声を零した。 「うん、よかったよ、すっごく」 「……あっそ」 その声は甘く響いて 「おしまい。ベット行く?」 「…」 「ヨウ?」 俺の意地を解くには簡単だった。 「食べる。」 「…!」 「腹、減ったから」 「うん、まかせて」 嬉しそうに笑みを深める煌己に、俺は大丈夫だと自分に言い聞かせる。 与えられたものを、どうやって返せばいいのか俺は未だ分からない。 満たせられたのか、あんなので? そんなはずない。 でも、 キッチンへ消えた煌己の背を思い出しながら 俺は一人思考の海に溺れそうになっていた。

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