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マーカス2
神生類のライブが始まった。
まずは歌なしのインストゥルメンタルな曲。打ち込みのドラムトラックをベースに、カグラがシンセサイザーのキーボードでメロディーを奏でる。独特のグルーヴ感。そこにいきなりショウの爆音ギターが被さり、何とも言えない世界を作り出す。
次の曲では、カグラの澄んでいるのにパンチの効いた歌声が加わり、そこにはしっかりとルイの存在も感じ取れた。ルイにしか書けない歌詞が、カグラの歌声とショウのギターに乗って昇華されて行く。
あぁ、これはやられたな。軽音部で持て余されたショウのギターが最大限に生きている。
ルイが言う通り、この二人だからお互いの音に食われないんだ。強烈な個性と個性だが、双子故にか妙にしっくり来ている。
ちょっと悔しい。
俺も叔父のナオさんの影響でドラムをやっているんだが、もしもこのステージに一緒に立ったなら、完全に二人の音に食われてしまうのが分かる・・・
あっという間に神生類のライブが終わり、MAGが始まる。
一気に空気が変わった。
相変わらずのジュンさんの圧倒的存在感にクラクラする。この人はマジで人外だよな。魔王だ魔王。
ジュンさんの色気とオーラに当てられ、カイさんの元祖爆音ギターに突き動かされる。ショウもヤバかったけど、元祖はヤバさのレベルが違う。
そしてその二人をベースのヒロさんとドラムのナオさんのリズム隊と、もう一人のギターのアキさんがしっかりと支える。
どれだけベテランになろうとMAGはMAGだった。
子どもの頃から憧れ続けたバンド。
そんなMAGと同じステージに立ったショウとカグラ。
双子に軽い嫉妬を覚えながら、俺はしばらく踊り狂った。
あっという間にMAGのライブも終わり、軽く放心状態の俺。
「お疲れ様。神生類もMAGもカッコ良かったね。」
振り向くとジャックがいた。
「・・ルイは?」
「あっちでショウといるよ?打ち上げに行くみたいだ。マーカスは行かないの?」
あっ、そうか。俺、マーカスって呼ばれてるんだった。聞き慣れない名前にちょっと照れながら返事をする。
「ん~今日はやめとこうかな?ちょっとショウとカグラに会いたくねぇかも。俺もドラムやってんだけど、何か何歩も出遅れた気分なんだ。」
初対面の外国人相手に何言ってんだ俺?
「ふうん?・・・マーカスはティムと同い年って事は二十歳過ぎてるよね?これからオレと飲みに行かない?」
一瞬考えるも、このまま一人で帰るよりは数倍いい気がした。
「ジャックと?う~ん、それも有りかな?!いいぜ、行こう。」
こうして俺は、ジャックと二人で飲みに行くことになったんだ。
「じゃあ、カンパ~イ!!」
よくあるチェーン店の居酒屋で俺はビール、ジャックはハイボールのジョッキを掲げてから、一気に喉に流し込む。
女の子と行くなら小洒落た店にするけど、相手は男だしな・・あっ、開演前に話してたお姉さんの事忘れてた・・・くそうっ!いけそうだったのに!!
「どうしたの?」
「いやぁ~、開演前にいい感じで喋ってたお姉さんに声をかけるの忘れてたなって、今気付いて。惜しい事したな~ヤレそうだったのにw」
「・・マーカスは女の子が好きなんだ?」
「そりゃ、好きだよぉ~俺、自分で言うのもなんだけど、見た目はそこそこいいだろ?ナンパの成功率は高いんだよ。そこからヤレる率も。けど、付き合ってもなかなか続かないんだよなぁ・・・」
「付き合った後もちゃんと可愛がってあげてる?」
「ん~俺、甘えられるのちょっと苦手なんだよね。だからいつも、自立してそうな、逆に俺を甘やかしてくれそうな年上のお姉さんを狙ってるんだけどさ~付き合うと甘えて来るんだよね、彼女たち。
あ~今日のお姉さんは良さそうだったんだけどな~」
ちょっと酔った俺はいつになく饒舌で、ジャックに自分の好みを語った。
「・・マーカスはさ、男に愛される方が向いてるんじゃない?」
「ブホッ!!ビール吹いたわ。無理無理!そりゃ、周りにもゲイは多いし偏見はないけどさ。俺には無理だな~。男相手に勃つ気がしねぇし、突っ込まれるのも無理だわ。」
「本当に勃たない?」
「勃たないって!!」
「じゃあさ、一度試してみようよ?オレ相手に勃たなかったらマーカスの勝ち。何でも言う事を聞いてあげる。そうだな・・マーカスを甘やかしてくれる綺麗なお姉さんを紹介するってのはどう?
けど、もし勃ったらオレと付き合ってよ。」
「はっ??!ジャック相手にって・・それって・・・」
「そう。これからホテルに行こうよ。そこで勃たなかったらマーカスの理想にピッタリなお姉さんを紹介するから。
だって男相手には勃たないんでしょ?なら、マーカスにとっては悪い条件じゃないよね?出来なかったらカラオケとかゲームして遊べばいいし。」
この時の俺は冷静な判断が出来なった。そこまで酔ってるわけじゃないのに・・いや、ジャックに酔ってたのかもしれない。
その賭けをノリで了承して、ジャックとホテルに行ってしまったんだ。
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