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幕間5:クリアデータ7 00:59
「はぁっ!?何よ!この馬鹿高い物価は!?」
上白垣栞は、画面に映し出された道具屋の価格設定にカッと目を剥いた。なにせ、初期の回復アイテムですら、一つ千五百ヴァイスと明記されているのだ!
「これ、絶対にぼったくられてる!ありえない!」
栞は画面に表示される道具屋のエルフの台詞に対し、眉間に深い皺を刻んだ。一旦会話を終了させ、栞は自身のステータス画面へと戻る。
ここは、所持金と物価の見極めがカギになる。見誤ってはいけない。
「……きたきた。ゲットーで事前に聞いてたけど、クリプラント本国の人間への差別がここまで明け透けだとは思わなかったわぁ」
そう、栞は事前に知っていたのだ。
クリプラントの植民地でもあり、外界の狭間に位置する人間達の住処、ゲットー。そこに住まう人々から、栞はそりゃあもう耳にタコが出来るほど聞いていた。
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【ゲットーの役人】
ここを出てエルフの街に行く?悪い事は言わねぇ。やめときな。ぼったくられて露頭に迷うのが関の山だ。
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「……そう言われましてもねぇ」
物語と言うのは、往々にして街や村から飛び出す事でしか、ストーリーは進行しない。それは、人生でもゲームでも同じことだ。同じ世界に閉じこもっていては、何も始まらない。
「外に出ない訳にはいかないのよ。なにせ、私の男が待ってんだから」
それに、栞はシリーズを通してこの【セブンスナイト】はプレイしているので、人間への圧倒的差別心がエルフ側にあるのは知っていたつもりだった。
「さて、どうしたもんかしらね」
けれど、知識として“知っている”のと、実感を持って“体験する”のでは、そこには大きくて深い隔たりがある。今の栞がまさに、その状態を如実に表していた。
「ゲームシステムが完全に書き換えられた、このイーサのルート。これだと、今までの他のルートみたいに、クリアデータによるアドバンテージが殆ど生かせない。ただ、唯一引継ぎデータで、優位性が残っているは……」
栞は画面上のステータス画面の一点を見つめ、その目をキラリと輝かせた。
「“お金”だけっ……!」
栞は深く呼吸を吸い込むと、ゲームの画面の右下にある所持金の数字を見て、その目を一際キラリと輝かせた。
「私の選択は、間違ってなかった!!」
栞は、このクリプラントで初めて訪れたこの街で、全ての店やNPCに話しかけ、ありとあらゆる場所のチェックを終えた。
そして出した結論は、この値段で、アイテムや装備品を揃えるしかないということ。
「あの時、言語習得イベントで、一千万ヴァイス支払わなくて本当に良かった!」
そう、そうなのだ。
もし、あの時の言語習得イベントで、栞がクリアデータで引き継いだ、唯一アドバンテージである“お金”を使い切ってしまっていたら、もうここでは何の買い物も出来なかった筈なのだ。
「ひとまず、残高には余裕がある。あとは、私が買いモノの仕方さえ間違わなきゃ、この後の戦闘もどうにか凌げるハズ!」
栞は再び道具屋のエルフへと話しかけた。
NPCはこう言う。
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【道具屋オープンシーの店員】
いらっしゃい……って何だよ人間か。お前らみたいな短命に売るモンなんかねぇよ。……まぁ、出すモンだしゃ、考えてやらなくもないがな。
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「ったく、短命短命ムカツクわねぇ……」
栞は道具屋の言動にヒクリと眉を顰める。そうなのだ。イーサ編に入ってからというもの「短命ご苦労さん」だの「もう寿命か?」だの、ともかく寿命の事を盾に馬鹿にされ続けてきた。
「いや、ほんと。短命ご苦労さんって何よ?私は一体何に対して上から目線で労われてんの?わけわかんない」
選択して、購入。また選択して、購入。
その繰り返しの動作に、栞は再び、自分のステータスの中でも最も強力な力を発揮する資金の残高にホッと胸を撫で下ろした。
「ホント良かった……また一からモンスターを倒して金策なんかしてたら、絶対に今日中にクリアなんて出来なかったわ……私、英断!」
RPGゲームにおける序盤の難所は“レベル上げ”と“金策”である。
スキルが無いが故に、戦闘において自身を回復させる術を持たない。もちろん所持金も、あって無いようなモノである為、回復アイテムも買えない。
回復が出来ない。たったそれだけの事で、戦闘における難易度が各段に上がるのだ。
そうなれば、物語を進める為に、地道なモンスターとの戦闘によるレベル上げと、金策を余儀なくされる。
「よしよし、今のところ私の判断に狂いはないっ!あそこで一千万ヴァイスを支払った皆様。地道な金策ルートによる、モンスター図鑑の完成は貴方方にお任せします!私は、まずはストーリークリアを目指しますので!」
しかし、別に栞が仮に“あの時”一千万ヴァイスを支払っていたとしても、別にクリアが出来なくなるような後戻りの出来ないミスではないのだ。
時間を食う。ただ、それだけ。
しかし、栞にとってそれは死活問題。なにせ彼女は明日から、美しいオフィスレディへの皮と猫をがっつり被りながら、社会生活を営まねばならないのだ。
「さてさて!私はこのままストーリーを全速前進で進めるわよ!仕事なんかに、私のゲームプレイの邪魔をさせたりしないっ!」
栞は最後のアイテムを購入し終えると、購入後のNPCからの台詞に「ふむ」と、小さく頷いた。
案外、的を射た事を言うではないか。
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【道具屋オープンシーの店員】
オイ、短命。あの世に道具は持って行けねぇ。どんな時でも、道具はちゃんと使い切って死ねよ。
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「……その通りね。戦闘では出し惜しみせずにいかなきゃ。短命は……うん。全然関係ないけど」
栞はNPCのさりげない台詞からも、このゲーム全体の本質的な教訓を得ると、道具屋を後にし、そのままエルフの街を駆け抜けたのであった。
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