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第二章・4

 昼食後の要は、宇実のことについて聞きたがった。 「家族は? 君は、地元の人間かい?」 「うん。生まれも育ちも、ここだよ」  地方都市、と言うには少し小さな街。  適度に都会で、適度に田舎。  海も山もある、恵まれた風土で、宇実は育った。 「こう見えても、僕だって社長の息子なんだよ」 「何を扱っている企業かな」 「真珠。清水真珠、って知ってる?」  宇実の家では、代々真珠を商いにしていた。  養殖から販売まで、一貫して手掛けている。  祖父の代には好景気も手伝って、首都に店舗を出すまでに成長した。 「今では、その店も撤退しちゃって。父さんは、僕が高校一年生の時に亡くなったんだ」 「そうだったのか……」  仕事に忙しかった宇実の父。  気付いた時にはがんが進行し、手の施しようがないくらい転移していた。 「父さんは、死ぬ間際まで仕事をしてたよ。父さんが守った会社を、今度は僕が守るんだ」 「立派だね、清水くんは。会社は今、誰が回してるの?」 「伯父さんが、社長代理になってくれてる。僕が高校を卒業したら、引き継ぐことになってるよ」 「大学には、進学しないのかい?」 「うん。僕は、早く一人前になりたいんだ」

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