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瑞に触れる 4
彼の足は塩辛い。
けれど、その奥に感じる甘さは蠱惑的だ。
「んっ」
内太腿を舌でなぞると、翠也は出そうになる声を押さえるために慌てて両手で口を塞いだ。
そうすると支えを失った体は自然と投げ出されるように俺の前に広がって……
彼の上に乗り、体を隠す着物を掴む。
「や なにっ、堪忍し、 やぁっ」
鼻に抜ける甘い声で懇願が繰り返されて、赤みに染まる顔が指の隙間から垣間見えた。
突然のことに逃げることを忘れた彼は、微かに嗚咽を漏らしながらただ俺の暴挙に耐えている。
「……ぅ、ふぅ 」
彼の足をすべて露わにするともう小さな懇願の声も漏れなくなった。
何をやっているんだと頭の片隅では思いながらも翠也の太腿に吸いつき、跳ねる脚を押さえつけ、褌に覆われた尻臀を掴む。
────女の、
多恵のものとは違う固い感触。
ふっと現実と言う名の正気が意識の隙間に入り込んできた。
「 悪戯が、過ぎたね」
そう言うと、ほとほとと涙を零していた目が睫毛を震わせながら薄く開かれる。
滲む水滴に覆われた双眸が探るようにこちらに動き、ふるりと震えて……
細い指が一本ずつ剥がれ、大きく開けてしまった着物の襟元を掻き寄せた。
そしてにじるようにわずかに後ずさる。
「いた……ずら?」
「……すまなかった」
利休鼠の着物の裾を直してやると、どちらともなく口を噤んだ。
じり じり とした夏の熱気が室内を満たしていたのに気づき、流れ出したこめかみの汗を乱暴に拭う。
「……悪戯、ですか」
俺が舐め汚した脚を着物にしまい、彼は俯く横顔を髪で隠しながら呟いた。
「すまなかった」
そう繰り返すと、翠也は紅潮したままの顔でふるりと首を振る。
「 っ」
その拍子に零れた涙が床の滲みになる前に、翠也は何も言わずに工房から飛び出して行った。
「…………」
ばたばたと響く音にかける言葉もなく、彼らしからぬ乱暴さで閉じられた戸の震えをただただ見守るしかできない。
視界の端に、行方を迷うようにわずかずつ床に沁み込む水の玉が震える。
彼の残した痕跡に消えて欲しくなくてそれを掬ってみるが、あっと言う間に体の熱に吸われて無くなってしまって……
かすかに残る塩気は、汗のそれよりも甘いのだろうか?
膠を水に浸し、その冷たさにほっとする。
夏の熱気のせいで体中が腫れあがったように感じ、不愉快なことこの上ない。
時折思い出したように窓から入り込む風だけでは涼が十分とは言えなくて、せめてもう少し風が吹いてくれればと肩を落とす。
室内よりもまだ外の木陰の方が涼しいかと手拭いを水に浸して首にかけ、写生帳を持って縁側へと向かった。
日差しの当たるところは勘弁してくれと言いたくなるほどの暑さであったから、急いで日向から逃げるように木の影へと駆けこんだ。
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