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濡羽と黄金 14
るりは何も言わずに抱き締めてくれる。
「るり、膝の上に来てくれないか?」
「うん? いいよ」
客と男娼と言う間だからか、それとも玄上から紹介された俺だからか、体を起こした俺の膝の上に素直に腰を下ろしてくる。
そのまま、硝子でできたかのような体を撫でた。
爪先、
足首、
ふくらはぎ、
膝、
太腿、
項垂れた股間を触り、腹を触る。
るりはさながら人形のようにされるがままで、何も言わない。
「俺は さ」
ゆるゆると若い体を弄びながら、言葉がぽろりと零れる。
「 俺は、妾の子なんだよ」
その独白に相槌は返らない。
ぱちりと一度、人形のような目を瞬かせただけだ。
「いや、妾なんていいものじゃなかったな」
透明感のある薔薇色の胸の尖りに触れた時だけ、るりの体はぴくりと反応した。
「奉公に上がってた母が、その家の奴に手籠められて孕んだ挙句、放り出されたんだと」
「うん」
声は、お茶でも飲もうか? と問いかけた返事のように軽い。
「産まれを報せた時に『卯太朗』と書いた手紙だけが寄越されて、……それきりだったそうだ」
唇に指先が触れると、伸び上がって軽く口づけてくる。
それに応えて舌を吸いながら、つい笑いが漏れた。
「それで律儀に卯太朗って名付けて、……後ろ指さされながら苦労して俺を育てたんだ」
縁の薄い祖父母に会った時、さっさと堕ろすか養子にやってしまえばよかったのにと母を責める声を聞いた。
苦労で窶れて小さな母は、それでもしっかりと首を横に振っていて……
「だから、大成して楽をさせてやりたかったんだが」
背中を撫でながら腰へと移り、湿り気のある隙間に指を滑らせた。
「ぁ っ」
「結局、過労で亡くなってしまったよ」
小さく草臥れた母と、峯子の暮らしぶりとの雲泥の差に嘲笑が漏れる。
……最期まで、母を手籠めた相手は連絡をしてこなかった。
だから、妾と言うような立場ですらなかったのかもしれない。
ただ欲情したその場に居た穴と言うだけで……
では、その結果できてしまった俺は……何だろうか?
「卯太朗、またしたい?」
ぼんやりとした視界一面に蒼い玻璃が見えた瞬間、舌の感触が唇を割り開いて侵入してきたことに気が付いた。
「ふふ、好きなんだねぇ」
水晶と、冴え冴えとした冬の蒼。
何の感情も映さない透明な……美しい双眸。
「ああ、るりが好きだよ」
るりを讃える言葉を探していたはずなのに、どうしてだか口から零れたのは好意を伝える言葉だった。
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