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真新しい画布 5
社交的でない自身に家を任されるのは苦だが、用なしだと告げられたのも心に引っ掛かる、そんな顔だ。
「…………僕が後ろ盾にならないと分かって、残念ですか?」
「……え?」
一瞬、意味を掴み損ねたその言葉に、言い知れぬ怒りが湧いたのを御しきれなかった。
「それはっ」
思わず口を突いて出た大声に、翠也ははっと怯んだ。
「それは俺が っ」
どうして翠也は突然そんなことを言ったのか?
そのものの言い方ではまるで、将来は翠也に後援者になって欲しいがために関係を持ったと言いたげに聞こえる。
他の誰から言われても構わなかったが、翠也の口からそう言われるのは耐えられない。
「俺が、打算で君に関係を迫ったと……思っている口ぶりだね?」
「そ、そんな……」
きゅっと噛まれた唇は、それ以上言葉を紡がない。
「苦しいと言ったのも、君を求めたのも……」
そんなことは考えたこともない。
ただ欲しくて、ただ手に入れたかった。
翠也の持つ才能を愛でることのできる唯一になりたかった。
それ以外、何も思わなかった。
「すべて、本心からだったんだが 」
こうして口に出たと言うことは、翠也の中で常にそう考えてしまう部分があったと言うことか。
翠也を不安にさせてしまったことに対しては申し訳ないと思う、けれどこれだけははっきりと言える。
彼以外を求めて抱いたのではないと。
お互いにそうだと思っていた。
だがどうやらそれは独りよがりだったらしい。
世の中はまだ暑さを纏っているはずなのに、胸の内が凍えるように冷たかった。
血の気のない白い顔はこちらを向かない。
胸に溜まるじりじりとした苛立ちを彼にぶつける前に、逃げるようにその場から飛び出した。
怒鳴りつけて喚いて済ませることができるのならばそうしていたが、翠也が下心ありきで近づいたと思っているのであればそれもすべて無駄だ。
震えながらも俺を受け入れてくれたのは、憎からず思っていてくれたからではなかったのか?
ただ舐める行為の先にある快感を追っただけの、ただそれだけの関係だったのか?
生産性のない不毛な行いは、ただ肉体の快楽を求めただけだと言いたいのか?
体を包む悪寒が拳を震わせる。
どうして?
絵は描きたい。
描き続けたい。
だから、自由気ままに描けなくても、しがらみが生まれたとしても後援を受け入れた。
人生の先に、不安がないわけではない。
玄上のように画家として名が通り始めているわけでも、翠也のように才能が豊かなわけでもない。
暗い先に足を向ける恐怖は常にある。
それでも、それに明かりを灯すために翠也を欲したのではない。
寄り添える相手だと思い、寄り添う相手だと思っていた。
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