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真新しい画布 6

 それが、あんなふうに思われていたとは……  裏切られたと言うような、軽い気分ではなかった。  そう……これは…… 「  絶望 か」  消え入るように出た自分の言葉に驚いた。  それと同時に、小さく笑いが漏れる。  自分一人浮かれていたのが滑稽で…… 「俺が……」  たった独りで……  ふらりと陽炎のように歩き出す。  頭蓋内で、翠也の言った言葉がわんわんと幾度も幾度も鳴り響いて。  それを振り払えるどこかを求めて足を動かし続けた。  歪に傾いた戸の前に立つと、中でごとごとと音が響いている。  気配があることにほっとしながら戸を開けると、綺麗とはいい難い男の尻が見えた。 「    」  それが、滑稽な動きで上下に動き、その度に押し出されるように喘ぐ声がする。  目の前の光景が、るりが組み敷かれている姿だと分かったのは、射精したらしい男がこちらを見て飛び上がったからだった。 「……あぁ、すまないな」  口角に泡をつけながら怒鳴り散らす男に、ぽつんと返して外に出ると背後から罵声とそれを宥める声が重なって聞こえてくる。  目の前を、きゃあきゃあと言いながら泥だらけの子供が駆け抜けて……  昇る七輪の煙と、  喧騒と井戸端の声、  それらをぼんやりと眺めていると、戸がぴしゃりと開いて薄汚れた男が飛び出してきた。  俺をぎょろと睨むと、足元に唾を吐き捨てていってしまう。 「  卯太朗」  乱れた着物を胸の前で掻き合わせたるりに呼ばれて、返事の代わりの家の中へと足を向けた。  情交跡を示す青臭い臭い。  頬を張られたらしい、赤い痕。 「それは……」 「なんでもないよ! ごめんね、まだ仕事前だったんだけど……近所の人で、断れなくて……」  るりは座るように言うと、布を濡らして手早く体を拭いて先程の男との痕跡を消す。  それを横目に見ながら座り、改めてるりの生活の糧を目の当たりにした衝撃を逃がそうと努めた。  るりを男娼として買ったこともある。  なのになぜか、そうだと今の今まで実感がなかった。 「久しぶりなのに待たせてごめん」  肩に触れる髪を紐で縛り、るりは華やかな笑顔で俺の前に座る。 「  あぁ」 「機嫌、悪くした?」 「……いや、なんだか  」  不思議な心持ちだった。 「ちゃんと生活してるんだなって」 「はぁ?」  るりはわからないと言いたげに首をこてんと傾げる。 「いや、なんでもないよ」 「それで? 今日は?」  そう尋ねながらるりは俺の膝の上に乗り上げ、肉の薄い尻をもぞもぞと落ち着けて、腕を首に絡めてきた。 「どうしたい?」  薄い玻璃色の目が見上げる。 「  見ていたい」 「へ?」 「るりの、その目」  花が咲くような、見たこともない色味が湛える感情の移ろいを……

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