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宍の襲 6
るりが言った、できることをすればいいと言う言葉に後を押されて、覚悟を決めて離れへと入る。
ここに入ると必ず匂ってくる油絵の具の臭いを感じながら、翠也の自室の戸を叩いた。
問いかけるように鳴らしてはみたが、やはり言葉が返ることはない。
「翠也」
声をかけてみても、部屋の戸は翠也の心のようにぴったりと閉じられたまま開く気配を見せなかった。
「開けてくれないか?」
精一杯の勇気で絞り出した言葉にも、やはり戸は開かない。
もう一度だけ叩き、すっと一度だけ深く息を吸い込んで戸に手をかける。
「すまない、開けるよ」
言葉と同時に戸を引くと、柔らかく鼻をくすぐる翠也の香の匂いに胸が詰まった。
けれど、そんな俺とは正反対に翠也は暴挙にさっと顔色を変え、身を翻そうとする。
「翠也っ」
擦り抜けて逃げて行こうとした腕を掴み、こちらに引き寄せると一際香の香りが強く香った。
「やめ……っ止めてくださいっ!」
払われ、掴む。
また払われて……
それでも負けじと腕を掴むと、逃げられないと悟ったのか翠也は顔を背けてしまった。
「無理矢理入ってくるなんてっ」
「話がしたいんだっ」
そう訴えるのにこちらを見ない態度に焦れて、しかたなく顎を掴んで覗き込んだ。
「君に、謝罪がしたくて」
「しゃざ……」
「手酷く抱いてしまったろ? 君の体のことも考えず無体をしてしまった。君を……翠也をどうしても繋ぎとめたくて……」
ひく と腕の中の体が小さく跳ねる。
「君にするようなことじゃなかった」
「 っ……触らないでください 謝罪は受け入れます、ですから触らないで」
絞り出した精一杯の低い言葉が俺を威嚇する。
「お願いですから触らないで……さ…………」
繰り返された言葉は弱々しくなり、観念したのか抵抗する力を抜いた。
「君に触らないと苦しいんだ。助けておくれ」
腰を抱き、縋るように体を擦りつけると翠也は再び身を捩り始める。
「僕は……苦しいままです、だからもう……」
「俺と触れ合うことの、何が苦しいのか教えてくれないか?」
懇願するように、細い手を掴んで指先を口に含む。
変わらない、微かな塩気と甘味。
「っ! ぁ、やっ」
一際抵抗が激しくなった瞬間、ぱしん と衝撃が頬を打つ。
「もう……お願いですから……」
睨み上げる宝石のような漆黒の目に水が満ちて行く。
大きな光が涙で小さな光に散らされて、水滴で縁を彩られた両目はどんな装飾品よりも美しかった。
縁に留まり、光を吸って震えるそれを舌で舐める。
「やっ 」
「君が欲しいんだ。君だけがこの飢えを満たせるんだ」
「 っ」
ぼろりと、とうとう決壊した涙が零れ落ちた。
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