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宍の襲 7

「口先の……嘘ばかり要りません」  堪えるためか、翠也の唇は噛み締められて赤みを増して艶やかだ。 「嘘?」 「僕じゃなくても、いいのでしょう?」  何を と問いかける前に、限界を迎えたように翠也の体は床へと崩れた。 「  お願いです。これ以上、僕を苦しめないでください」  覆った顔の隙間から、苦悩に震える声が床を這うように溢れる。 「どうして苦しい?」 「…………」  翠也は答える代わりに首を横に振った。  拒絶を、覆すことはもうできないのだろうか?  翠也の心は疾うに俺から離れてしまい、欠片も残っていないのか?  もう一片も触れることすら許されないのか?  そんな事実を覆したくて、伏す翠也を抱き締める。   「君が欲しい」  痴人のように繰り返す。 「  僕は、そうじゃない」  拒絶を呟きながらも、翠也は腕の中から逃げなかった。 「どこが気に入らないか教えてくれないか? 君に好かれるためならなんだってしてみせるから」  俺の言葉に弾かれるように顔を上げ、けれど言葉を発する前に萎れるように俯いて首を振る。 「卯太朗さんに、できることなんて何もありませんっ」 「それは……」  もう、一分の隙も無いと言うことだろうか?  血の気が引いたせいで冷たい指先を握り込んだ。  腕の中の温もりに縋るのに、胸の内から体はどんどんと冷えていくようで…… 「翠也」 「  っ」 「本当に? 俺にできることは何もないのか?」  声に反応するように小さなしゃくりが上がり、引き裂くようなか細い泣き声が上がる。 「貴男はっ……貴男は、僕が幾ら欲しがっても、貴男は僕だけを欲しがってくれないでしょう?」  嗚咽を堪えるかのように噛み締められた唇は、まるで血のような赤色だ。  悲痛な声を上げて泣く翠也の姿は胸を刺すほど壮絶だと言うのに、どうしてだかじんわりと先程の言葉が胸を温める。 「……俺を、欲しがってくれるのか?」 「  っ」  俺だけを映す、濡れた黒い瞳に吸い込まれるようにして唇を重ね合わせた。   柔らかな天鵞絨の唇は、拒むことなく俺を受け入れ誘うように緩やかに綻ぶ。  くちゅ と小さな水音が耳を打つ。  すっかり俺の癖を飲み込んだ舌の動きが、合わせるように蠢いては深く貪ろうとする。 「  ぁ」  縋りつく腕は微かに押し返そうとするもそれだけだ。 「翠也、俺は君を苦しめている?」 「  はぃ」  涙と共に出された肯定にぐっと言葉が詰まった。  それでも腕の中から逃げ出さない翠也の態度が答えだと、そろりと口を開く。 「それは、君が……俺のことを好いていてくれているからだろう?」  自惚れと一笑に伏されるのかと息を詰める。  

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