126 / 192

宍の襲 9

 初めて南川の屋敷に来た時、峯子を美しいと思った記憶がある。  整った相貌に、しなやかな後姿は欲をそそり、触れるとあっさり陥落しそうな危うさは男心を惹きつけるには十分だ。  けれど、峯子はそれだけだ。  翠也に対するように、周りが見えなくなるほどに惹かれることはない。  以前に峯子の肩を持つような発言をしたのも関係があるのか、そう考えれば翠也が自分ではなく彼を通して母親を見ていると思っても無理はないのかも知れない。 「だから、僕に興味を持ってくれたんでしょう?」  泣き崩れた顔で問いかけてくる。 「僕が、母によく似てるから……」  何を馬鹿なことを と言いかけ、母親と似ていると言ったのは俺自身だったことを思い出して唇を噛む。 「でなければ、卯太朗さんが僕に興味を持つなんて……」  区切る言葉の奥の苦悩に、けれどどうしてだか不思議と不快感はない。  何を思い込みで勝手なことを考えていたのだと怒りも湧いたが、それがくすぐったく思えてしまう。  なんて自分勝手な思い込み。  なんて酷い言いがかりだろう。  けれど、そうやって思いつめてしまうくらい翠也は俺のことを…… 「翠也、考えてごらん」 「? ……っや! 話はまだ」  するりと着物の中に手を差し込んで下腹部をとんとんと叩いた。 「奥様にはこんなものついてないだろう?」  布の上から擦ってやると、意志とは関係のなく細い腰が揺らぐ。 「あた……っ当たり前ですっ」 「俺はこれが愛しくて堪らないんだ」  慣れた体は素直に反応を返し、膝を擦り合わせて気持ちを逃そうとしている。  その動きがたまらなく愛らしくて、褌を掻い潜って刺激に喜ぶそこに触れた。 「やめ……っ触れないでっ」 「どうして? 俺が何よりも好ましいと思っているものなのに」 「  っ」  さっと真っ赤になった顔を伏せて、翠也は「だって」と繰り返す。 「俺は奥様に気はないよ、信じられない?」 「……でも」 「でも?」  他に疑われるようなことをしたかと思いを巡らせるも、別段おかしいと思えるほど峯子と親しくした記憶はない。  細々としたやり取りはみつ子を介して出し、二人きりで会うこともない。  それは共に暮らしている翠也が一番わかっていることだろうに。 「母、以外にも……」  腕の中できゅっと固くなってしまった体は再び心を閉ざしてしまう前兆に思えて、慌てて伏せた顔を覗き込んだ。  どっと心臓が脈打ったのは、散々るりと陸み合っていたからで…… 「貴男の過去に悋気を感じてもしようのないことだとは、分かっているんです」  翠也の噛み締められた唇にほっと胸を撫で下ろし、黒髪に唇を寄せる。

ともだちにシェアしよう!