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宍の襲 12
「ぅ、ぁっ翠也っ」
一際締めつけが強まり、苛んでいた翠也の牡が手の内で一際膨れ上がった。
熱い生命の源が駆け上がる感触が掌を震えるようにくすぐる。
終わってしまうことを惜しむかのように翠也の体に力が籠り、腕の中から逃げるようにずり上がって行く。
暗い部屋の中だと言うのに、白く浮かび上がる体はそんなことで逃げ切れるわけもないのに。
白磁のような透明感のある肌は、赤い花も似合うだろうし名前の通り透けるような緑の葉も映えるだろう。
この体に絵を描くことを考えると、ぞくぞくとした怖気にも似たような興奮に体が震える。
「綺麗だ、翠也、っ……愛してる」
「────あぁっ」
達する瞬間の短い悲鳴にも似た声を聞きながら、俺も翠也の奥深くに精を吐き出した。
体を綺麗にしなくてはと思いながらも、情事後の気怠さに負けて起き上がることができずに転がる。
翠也も同じなのか、湯浴みに行くこともせずに腕の中でぼんやりとしていた。
つぃ と翠也の指先が俺の鎖骨を撫でる。
「一つ、お聞きしても?」
「うん?」
気怠さと鼻をくすぐる翠也の匂いにうとうとと眠気を誘われ、何を聞かれるのか深く考えずに曖昧に返す。
「今日は……どちらに」
黒田の屋敷にと言うには帰りが遅すぎた。
冷水を浴びた心地ではっと体を起こすと、感情の読めない黒真珠のような瞳がひたとこちらを見て……
橋田がぽろりと言った「これ」のことを言っているのは確実だろう。
「 玄上に、会いに」
「は、橋田は……っ」
泣きそうな顔は悋気に昂る顔なのか。
さきほどまでのとろりとした蜜のような空気を名残惜しく思いながら、座りが悪くもぞもぞと尻を動かす。
「小指は、女性なのでしょう?」
さて、と頭を悩ませる。
何と言い訳するべきか?
「そ、の方と何を……していたか……」
「知りたいのかい?」
「 っ!」
泣きそうに歪む顔が煽情的でもう少し見ていたいとも思ったが、また再び心を閉ざされてもたまらない。
「君に捧げた以上のことは何もしてないよ」
狡い答え方だと承知で告げる。
それ以上言葉を紡ごうとしない俺を見上げて、戸惑いを見せながら頷いた。
「……はい」
るりの顔を思い浮かべると痛むものもあったが、何かを勘づきながら俺の言葉を飲み込もうとする翠也がたまらなく愛おしかった。
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