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葬儀 5
「……風呂に?」
「え? あぁ、るりだけ」
思うところのある癖で、翠也は俯いたままだ。
「 行きますか?」
「え?」
「僕と」
影になったせいで光を灯さない瞳がちらりと見上げた。
普段は俺が脱がさないと肌を見せない翠也が、目の前でするりと着物を落とす。
「翠也?」
「卯太朗さんも 」
そう言うと服の釦に手を伸ばしてくる。
「ど……」
どうしたんだ? と言う言葉がお互いの口の間で押し潰されて消え、ぎこちない手が首に絡む。
珍しく翠也から伸ばされた舌が俺の唇の上をくすぐるように這う。
「ん……っ……」
体の奥の熱いものを誘うかのような動きに応えるように、舌を出して絡める。
ちゅくちゅくとわざとらしいほどの水音と、粘度を増した唾液が絡む。
繰り返し繰り返し角度を変えて深く貪ると、互いの舌の先から頼りなげな銀糸が伸びた。
「翠也?」
呼びかけると、ぷつりと繋がりが切れて冷たい感触だけが唇の上に残る。
名残惜し気に俺の唇の上に留まる雫を舐め取る翠也をあやすように、そっと艶のある黒髪を梳く。
「いきなり飛び出して悪かったね」
「いえ……」
「もっと話をしてから行くべきだったのに……動転してしまっていたらしい」
頷きながら翠也は体を摺り寄せ、せがむように接吻を繰り返す。
「 っ、んっ。それは、お二人の仲を考えればしかたのないことですから……」
性急に求めてくる翠也の動きを制するために、腕を掴んで名前を呼んだ。
「翠也」
甘やかさのない言葉に気づいたんだろう、白い喉がひくりと震える。
「……どうした?」
「いけませんか?」
問いを問いで返される居心地の悪さを感じながら、そんなことはないと緩く首を振った。
翠也に求められて悪いはずがない。
事実、触れ合っている下半身は起立し、擦れる度に緩やかな痺れが走っている状態だ。
「先に、話をさせてくれないか?」
「いやですっ」
驚くほどはっきりとした拒絶に言葉が出ずに黙り込む。
「お願いです、お願いですから……いつものように、情けをください」
煌めく金剛石のような涙を溜めた目がこちらを見上げた。
「どうして泣くんだ?」
まるでそう言った本能でもあるかのように、縁に溜まった美しい涙を啜る。
馴染んだ甘味に胸が締めつけられ、それに応えるかのように翠也をきつく抱き締めた。
「 苦しくて」
普段の翠也らしからぬ行動も言葉も、何が原因かはわかっている。
「……すまない。るりのことだろう?」
「…………」
是と言わない代わりに涙を一筋落とす。
「なぜ不安になる?」
「だって……」
そう言い出したきり、翠也は視線を逸らした。
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