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葬儀 7

 時季はもう秋と言ってもおかしくない頃で、画材類のみが置いてあるがらんとしたここは思った以上に温もりらしいものを感じない。  足元が板なこともあるのか、余計に冷えて感じる。 「まぁ、しかたないことだな」  るりの身の振りが決まるまでの我慢だし、明日になれば布団を揃えることもできるだろう。  せめてもの足しにと埃避けにかける布を尻の下に敷き、赤い写生帳を手に取る。 「ふぅ……」  壁に凭れて窓を見ると、心細げな三日月が微かな光を放つ。  これからのことを、どうしてくれようかと考えながら使い込まれた赤い表紙を指先でなぞった。  ざりざりとした粗い感触は、どこか玄上の豪快さを思い起こさせるようで……   「いい写生帳だ」  ふ と笑いを零しながら、俺に宛てられた手紙を広げた。  いくら読んでも文面は変わるはずはないし、玄上が戻ってくるわけではないのに、繰り返し下手くそな字をなぞる。  またいつでも会えると思って、つっけんどんな態度のまま別れてしまった。  あれが、今生の別れになるなんて思ってもみなかった…… 「お前は、あれが俺達の別れだって知っていたのか?」  最後に見た玄上の顔を思い出しながら、るりのことを頼むと書かれた手紙を見る。  あれだけ緻密な絵を描くと言うのに、地図はあり得ないくらい簡潔で……  運が良ければ辿り着けただろう。  これは、るりを残して逝かなくてならなかった玄上の悪足掻きなのだと思う。  玄上は俺と同じようにるりの才能を閉じ込めて、独り占めしたかったのかもしれない。  けれど独り残して逝くのも気がかりで、運を天に任せるようにこんな地図を残したのだろう。   「……るりを日の当たる場所にと思う俺は、間違っているか?」  るりのことは、捨て置こうと思えばそうできた。  そうできなかったのはるりに対する負い目と、玄上のこの手紙、そして蒐集欲をくすぐるような特異な外見のせいだ。  日に透ければ今宵の月のような光を見せる髪と、西洋人形そのままの硝子の双眸。  まるで、大理石で作くられたかのような……  閉じ込めて、自分だけのものにしたかった玄上の気持ちも良くわかる。 「玄上、厄介なものを遺してくれたな」  うつら と忍び寄る睡魔に負けて閉じた瞼の裏に、豪快に笑う玄上の姿が思い浮かんだ。  腕の中にぽっと温もりが灯る。  皮膚から染み入る寒さが骨にまで達し、痛みを訴えようとしていたのが和らいだ。 「……ん」 「起こしてしまいましたか?」  眠さで開けられないために視界ではわからなかったが、鼻腔をくすぐる香の匂いに安堵する。 「  翠也?」 「こうしていれば、少しは温かいでしょう?」  かけられた布団と翠也の温もりに窮地を救われた心地で縋った。  

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