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埋火の欠片 6

「卯太朗っちょうちょ!」 「ああ、じょうずだな」  紙の上にひらりと舞う蝶に視線を落とし、その出来に頷く。    せっつくようにして教えるよりも、褒めた方が呑み込みがいいと分かってからのるりの上達は目を見張るものがあった。  その分つきっきりにならなくてはいけなかったが、玄上の遺作展までの時間を考えるとわずかな時間でもおしい。 「このまま練習を続けてくれ、少し席を外す」 「  なら、もう今日はやめる」  翠也の方にも作品の進み具合を見に行きたかったが、その度にこうして駄々をこね始めるのにはほとほと困り果てていた。  昼間顔を見に行けない日が多くなる毎に翠也の気が塞いでいくことが多くなり、「気にしないでください」と言われてはいてもこちらはこちらで気がかりだった。  早く何とかしなくてはと、方々にるりのことを打診もしたが、やはりその特異さからか断られることばかりで……  京山先生にも心当たりはないか尋ねてみたが、難しいだろうと返された。 「おれは卯太朗におしえてもらいたい」  師を探しあぐねている俺にそう言うが、翠也の落ち込みようを考えるとそうはいかない。  真摯にこちらに向こうとする姿は好ましかったが、それでも優先順位を間違えることはできないと言うことはわかっている。 「俺が教えてやれるのは基本だけだから」  そう返すもるりは頑なだった。 「そんなにあいつの方がいいのか?」 「いいとか悪いじゃない」  宥めるもるりは頬を膨らませたままそっぽを向いてしまった。  しかたなくご機嫌取りに頭を撫でてはみるものの、火に油を注いだのか俯いて肩を震わせる。  怒り出すかと覚悟をしてみたけれど、るりはしゅんと肩を落としただけだった。   「じゃ……じゃあさ、昼間だけでも一緒にいてくれる?」  かつて体を重ねた者として、震えるほどきつく服を掴む手を振り払うことはできなくて……  縋られては無下に振り払うこともできなかった。  本当ならるりの言葉を拒否するべきなのだろうが、まっすぐにこちらを見上げてくる玻璃の瞳に飲み込まれて渋々ながら頷く。 「夜は邪魔するなよ?」 「ん、……わかってるよ。……よかった」    その必死な様子がふと気にかからなかったわけではなかったが、日々の制作と指導の忙しさにそのことはすっかり忘れてしまっていた。

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