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金木犀 2

 浮かべた涙の甘さに勝るものなど何もない。 「そんなもの、どうだっていい」  自らの持つ技を拒絶されたからか、きゅっとるりの顔が歪んだ。  人形が人間らしい生気を持ったかのような違和感を覚えた途端、るりはくるりと鼠のような素早さで身を翻して庭の木々の方へと駆け出した。  るり と、叫ぶことも憚られて……  溜息と共に俯いて立ち尽くす。  るりを好ましいかどうかで言うならば、好ましいとしか言えない。  肉体面だけであれば組み敷くことも十分に可能だ。  そう、ただ可能なだけ。  翠也のようにその才能を独り占めしたいとは思わない。  手の内に入れれば宝を手に入れたような気にもなるが、それは唯一無二と言う思いを抱かせるものではなかった。  身を焦がして焼き尽くすような、翠也に対する気持ちとは違う。  そのことを、るりになんと伝えればいいのか……  身近にいる絵を志す者同士、仲良く出来ればいいが……元凶となっているのはこの身なのだから、如何ともし難かった。 「あれ? るりは行っちまったのかぃ?」 「あ、少し拗ねさせちゃって」  綺麗に剥かれた柿の入った碗を受け取り、礼を言ってるりの消えた方へと歩き出す。  かさりかさりと、うら寂しい色合いの葉が頭上で鳴り渡る。 「る  」  その物悲しい枯れ葉の合唱は、遮る物を嫌うかのように感じさせた。  名を呼ぼうとした口を閉ざし、るりが拗ねて隠れることができそうな木の影を覗く。  足の下でしゃり と力尽きた葉が悲鳴を上げて砕け散る。  がさり、  がさ、  がさり、  がさ、  足音に被る微かな葉を乱す音にるりの気配を感じた。  鼻につく金木犀の甘ったるい臭いが濃くなる方へと足を向ける。 「    っ  」    しゃくりだった。  俺の物言いで泣かしてしまったのかと、謝ろうとしたところで男の声が耳に入った。 「  ────そう言う仕事をしてたんだろう?」  ざっと血の引く音と、ぐっぐっと悲鳴を喉で押し留められた声がする。  聞こえていた声がしゃくりではなく押し留められた悲鳴だと分かったのは、橋田がるりを押さえつけているのが見えた瞬間だった。 「ほら、あの野郎のも咥え込んでいるんだろう?」  暴れるるりの足が枯れ葉を蹴散らし、がさがさと騒がしく鳴る。  必死に橋田を突っぱねる腕に酷い擦り傷が見えた時、その朱色がちりっと脳の奥を焼いた。 「何をしているんだっ!」  腹の底から出た怒声が辺りの音を根こそぎ奪う。 「  ひっ」  着物の前を開けさせた橋田が、どすんと尻もちをついて後退る。 「橋田さんっ! 貴男  っ」  俺に大きな声を出されたからか顔色を青くさせた橋田が慌てて着物の前を搔き集めた。

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