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金木犀 3
「あ、あんただって、このためにこいつを連れてきたんだろ? 客引いてるのを見たことがあるんだ!」
「……だから?」
「俺にもおこぼれを……」
へへ と俺を見上げる橋田に反吐が出そうだった。
「この子はそう言うことから足を洗ったんだ、もう客は取らない!」
「へぇぇ。じゃあ最後に一回くらいいい思いをさせ……ひぃっ」
元々気が強くないのか、掴みかかろうとすると悲鳴を上げて転ぶように駆け出す。
追って殴ることも考えたが、倒れたままのるりの傍を離れたくなかった。
「……るり」
子供に投げ捨てられた人形のように四肢を投げ出するりに声をかけると、わずかに指先が動く。
白い肌はあちこち擦りむけて血を流し、亜麻色の髪は枯れ葉が絡んでもつれていた。
口に詰められた薄汚い手拭いを取り除いてやると、殴られたのか切れた唇から血が滲んで……
小さく咳き込むるりの目が、こちらを見て焦点を合わせた。
「るり?」
「 ぅ、た……」
土で汚れた頬に涙が伝う。
「ぁ……あ、……っぅう 」
ぼろぼろと泣き出したるりを腕の中に引き寄せると、頼りない存在が身を縮めて悲鳴を上げるように泣き出す。
「ぅ、あ……っぅ」
「るり、るり、怪我を見せて」
「やっ……ぅ、っ っ」
触れようとした俺の手を払う掌にも赤い筋が幾本も見えた。
「怖かったな? もう大丈夫だから、大丈夫。もう追い払ったから、怖い思いはもうしなくていい」
髪に絡んだ葉を取り除きながら宥めるも、涙は止まる気配を見せない。
いつも気丈に見える姿を小さく竦めて涙を零す。
「 ご、ごめ……」
「怪我は手足だけか?」
「ぅ、……っ……ぅ」
答えないるりに、しかたなく乱れた着物を開いて確認する。
細い手足に擦過傷。
切れた唇。
そして、手荒く擦られたらしい柔らかな皮膚が赤く染まっていた。
「っ……殴っておけばよかった」
奥歯をぎりぎりと鳴らしながら橋田が消えた方を睨んでも、もうどうしようもない。
それに今は自分自身の怒りよりも、乱暴をされて恐怖を味わったるりの方が先決だった。
背中を撫でながら応急処置にと、そぅっと掌の傷を舐めてやるとひくりとるりの肩が跳ねる。
「痛むか?」
「……ぅ……へいき」
そうは言うも、涙の滲んだ瞳は平気そうには見えない。
掌を舐め終えて、腕の傷に舌を這わせる。
「 ふ、 ぅんっ……」
堪えるように小さく上がった声は痛がるものではなくて……
こちらを見上げたるりの目元に、泣いたため以外の赤みを見つけて微笑んだ。
「もう大丈夫だな?」
問う俺に、目を伏せて首を振る。
「ここも……傷ができてる」
示されたのは、俺とは形の違うすらりと伸びた足で……
俺は示されるままにそこにある赤い筋を舐めた。
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