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聴の頬 3

「お願いします。まだ、僕の傍に居て下さるなら」  ほとほとと涙を流しながら、なぜそんなことを言えるのか……  ただ流された俺のせいで、どんな思いでその覚悟をしたのか、推し量ることすらできない。  ただ、ただ、自責の念を抱きながら、掠れた声で応えるしかできなかった。 「……質の、悪い嘘を 言って、悪かったね  」  ぐっと唇を引き結んで何かを飲み下した翠也が頷き、何事もなかったかのように「はい」と答えて俺の胸に頬をつける。  服越しに伝わる高い体温に、翠也の体のことを思い出して慌てて布団へと寝かせた。 「ぁ……」 「大丈夫。ずっと傍にいるから横になるんだ」    ちらりと過った表情は、不安なのか……それとも不信なのか。  未だひくりひくりと体を震わす翠也に布団をかける。 「移してしまっては申し訳ありませんから……」 「遺作展に出す分は仕上げてあるし、他は急がない。風邪を貰ったところで困りはしないさ」  そう言って額にかかる髪を払って熱を測った。  額を出すと幾分幼く見える顔は、泣いたせいもあり赤みを増して……  申し訳なさにただ項垂れるしかできない。  不甲斐ない自分をそれでも突き放さない翠也の慈悲を痛感しながら、眠りやすいようにと部屋の明かりを落とす。 「  翠也」  愛しさを込めて名を呼ぶ資格が俺にあるのか分からなかったが、それでも込めることのできる気持ちをすべて詰め込んで口にする。  その足元に跪く気持ちでいると、翠也は微かな笑みを返して目を閉じた。 「どこ行くの?」  朝から写生帳と鉛筆を持って部屋を出て行こうとした俺に、るりが不安そうに声をかける。 「……あいつのとこ? 風邪なんだろ? うつったらどうするんだよ」 「るり」  硬く咎めるような声音で名を呼ぶと、はっと身を引いた。 「すまないな、どうしてもついててやりたいんだ」 「……あいつがきたら、どうしたらいい?」 「  は?」  るりの不安そうな態度に、昨日の橋田の顔が浮かんだ。 「昨日の今日でさすがに……」 「だって、あいつずっとおれのこと狙ってたんだ。見つかったくらいであきらめるなんて思えないよ」  噛み締められた唇に、この屋敷に来て以来るりが必要以上に俺にまとわりついていたことを思い出す。 「ずっと、だったのか?」 「……ん」  最初は話しかけてくるだけだったが、すぐに襟を執拗に見るようになり、体に触れてくるようになるにはそう時間はかからなかったのだと、ぽつりぽつりと告げる。  昨日のような強硬な手段は初めてだったが、俺のいないところでは胸や尻を触られていたと。

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