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血 4

「るり! 退くんだ!」 「いやだっおれのそばにいてよっ!」 「部屋に戻るんだ」 「いやだ……っあいつのところに行くのは、援助されてるからか?」  は? と声が出た。  以前にやっとの思いで解決した話を蒸し返され、苛々とした感情が表情を険しくさせていく。 「おれのこと、好きだって言っただろっ! なのになんであいつのところに行くんだよ! 援助されてるからしかたなくだろ⁉︎」  るりの声が廊下に響いた。 「でなきゃ! おれのこと好きなのにあいつのところに行くわけがない! 絵が描けなくなるからきげんを取りに行ってるんだろ⁉」  一瞬、白硝子の頬は叩くと割れるのだろうかとそんなことを思った。  実際は乾いた音がしただけで、るりの頬が砕けることはなく……  弾けるように涙が散っただけだった。 「退け」 「────っ」  短い言葉に圧されてるりは俺の上から退き、しくしくと泣きながら俯いて部屋の中へと消えていく。  しんと音が鳴りそうな廊下に、罪悪感が生まれなかったわけではない。  けれどるりを追いかけることはしないまま、向かいの部屋の戸をいつものように鳴らした。 「翠也くん」  声をかけると同時に戸が引かれ、青い顔の翠也が顔を見せる。 「    」    いつものように笑顔で迎え入れてくれるわけでもない様子に、先程のやり取りが薄い戸を通して聞こえないはずがないことに気づいた。 「さ……さっきのは……」  真一文字の唇と、震える拳。   「その、るりが言ったのはそう言った意味の好ましいではないんだ、だから……」 「わ、かってます。ですから、以前言ったように、……嘘と  っ」  崩れ落ちた翠也の両手を掴む。 「っ……嘘と  言ってもらえた……ら  」  堪え泣く姿に喉が鳴る。    俺のことで感情を揺さぶられて乱れる姿が、翠也の俺への気持ちを語っているのだと思うと心の昏い部分がくすぐられるようだった。   「機嫌を損ねてしまったのはわかるんだ、でも  」 「  っ」  細い手が、藻掻くように胸を叩く。 「僕の機嫌なんてっどうでもいいんですっ」 「何を……」 「そんなことより、お願いですから嘘と言ってください! それとも……貴男が、僕に触れなくなったのは……」    翠也が口に出した内容に、はっと体が強張るのがわかった。  その一瞬に、翠也が何を読み取ってしまったのかはわからない。  けれど、翠也に触れなくなったことについて、後ろ暗い思いがあることを見透かすには十分すぎた。 「  っ、嘘と……言ってくれないんですか?」  ぽつんと自問自答のように零された言葉は、どこか俺の愛情が遠退いてしまったのだと諦めているようにすら見える。

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