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血 3
「卯太朗、おれのこと好きだって言った! おれも卯太朗のこと好きだよ? だから、おれをどこかにやらないで」
ゆらりゆらりと揺れ、やがてぽとんと雫を落とす。
「それは、俺以外に寄る辺がないからだ。そう思い込んでいるだけだ、これから世界が広がれば勘違いだって気づく」
溢れる涙を拭い、困って項垂れるしかなかった。
「違う! だって、おれは卯太朗があいつといると嫌だっ! あいつとやってるのを見るといらいらする! 卯太朗のことが好きだからだ!」
「覗くなと言っただろう」
つんと尖った形のいい鼻を摘まむ。
「おれだって、卯太朗と……やりたい。自分でするのはさびしいよ」
「何を言って……」
「卯太朗とできないなら、自分でするしかないだろ!」
至極当然と言う顔で開き直ったるりに、呆れるやら感心するやらで怒る気力を削がれてやれやれと後ろ手を突いた。
自慰行為の告白で微かに赤い目元に苦笑が漏れる。
どのような気持ちでるりが自身を慰めていたのか。
それを思うと申し訳ない思いと、憐れな気持ちが入り混じって……
その姿を愛らしいと思うのは翠也への裏切りなのだと分かっていても、なんとか慰めたくてたまらなくなる。
「泣いてくれるな?」
赤い目元を拭い、指先に滲んだ涙を口に含むと背徳の苦い味がした。
いや……
本当の背徳こそが甘いのだと、翠也の涙の味を思い出すと喉が鳴る。
甘い体、
蜜とも、
糖とも、
どれとも違う甘い味。
あれが禁忌の味なのだとしたら……
「卯太朗?」
俺の目に滲んだ感情を読み取ったのか、るりは小さく照れるようにはにかんで首に腕を絡ませてくる。
「さぁ、もう寝るんだ」
それを躱して身を離すと、すっかりるりの部屋となった場所へと押しやった。
「まだ早いのに……あいつのところに行くから?」
「ああ」
「……やりに行くわけじゃないんだから、ここにいてよ」
頬を膨らませるように言われた言葉に胸の内がひやりとする。
あの日、翠也が弟だと知って以来変わってしまった夜の時間を突きつけられるようで……
「毎日するものでもないだろう? だから、今日からは覗くなよ?」
「いやだ!」
「いやって……お前はそんな趣味があるのか?」
触れることに対する後ろ暗さを誤魔化すように精一杯茶化す声を上げた。
「見たくて見てるわけじゃない! おれは……だって……っ行かないで!」
引き戸に手をかけた俺の腹を目掛けて飛び込んでくる。
とっさに受け止めるも散々玄上に言われた細腰では堪え切れず……
もつれるようにして廊下へ倒れ込む。
「いっ……」
強かに打った尻の痛みに呻きながら、覆い被さるるりを離そうと着物の襟を掴んだ。
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