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白昼夢 1

宝の宮歌劇団に入団して5年目。 入団して3年目まである新人公演からも卒業した年 トップスターの翔さんの相手役に抜擢された。 理由は・・・ 相手役の薫さんが次の公演で退団されるから。 翔さんは団員なら誰もが憧れるトップスター。 そんな翔さんの相手役が僕なんかでいいのかな? そればっかり考える毎日が続いていた。 そんなこんなな日々が過ぎ 薫さん退団公演の稽古初日 翔さんが僕にかけてくれた言葉は・・・ 『おい、起きてるか?』 なんでこんな事言われたかって? それは・・・ 何でだろう・・・? 僕にとっては何時もの事だからよく解らない・・・・ 僕はどうやら筋金入りのボーッとくんらしい・・・ 劇団の演出家のからも 『深い顔して何か考えてるのかな?と思ってたら  ただボーッとしてるだけなんだな・・・』 なんて言われた事もあった・・・・ 当の本人である僕はこれが日常だからよく解んない・・・・ そんなに僕ってボーッとしてるんだろうか? 考え事・・・・してる・・・はず・・・なんだけど・・・ 自分でもよく・・・解んないや。 まあ、演出家も言ってた様に 感覚派っていう事にしておこう・・・うん。 で、何の話してたっけ? あ、そうそう・・・ 翔さんの言葉だった・・・・ 「おい、起きてるか?」 稽古場でそう声をかけられた。 どうやら僕は稽古が終わったのに 一点を見つめたまま座っていたらしい。 それで心配して声をかけてきてくれたみたいだ。 「起きてます・・・・」 「・・・あ、それなら良いけど・・・・  もう、稽古終わったけど・・・」 「は・・い・・・」 「・・・もしかして・・・寝てたとか?  目あけたまま・・・・」 「そんな技、いくら僕でも出来ません!」 「そう・・だよな・・・お疲れさん。  じゃ、また明日な・・・・!」 「はい、お疲れ様でした・・・・」 バツ悪そうな表情で そのまま稽古場を後にする彼の後ろ姿に一礼をする。 上下関係が厳しい劇団。 翔さんが気付くはずもないって分かってて も 僕は暫く頭を下げていた。 「さあ、帰ろうかな・・・・」 そう思って顔をあげたら突然の眩暈・・・ 「あ・・れ・・・?」 その後の記憶はない・・・ 気が付いたらソファーに横になっていた。 僕の倒れた音に気付いて 翔さんが慌てて戻って来てくれたらしい・・・ 「あ・・・れ?  翔・・さ・・ん・・・?」 「あ・・・気が付いたか?」 「・・・?」 「稽古場出たら音がして・・・  戻ってみたらお前倒れてるから・・・・  お前さ・・・ちゃんと食ってるか?」 「・・は・・い・・・・」 「さっき、リフトした時、めちゃくちゃ軽かったから・・・」 「え?」 「少し楽になったら、飯でも食いに行くか?」 「・・え・・・・?」 「本当にお前って何だかな・・・・・  薫は退団して次はお前が相手役なんだし  もうちょっとさ・・・上級生の俺を頼ってくれる?」 そう言って笑いながら僕の頭をくしゃくしゃと撫でる翔さん。 これじゃ、まるで子供扱いだ! ・・・情けない・・・ 窓の外はもうすっかり暗くなっていた。 何時間ぐらい眠ってたんだろう・・・ もしかしてその間、翔さんはずっと僕の傍にいてくれた? 翔さんはトップスターで僕なんかとは違って 時間がいくらあっても足りないはずなのに・・・ 舞台の事になると厳しい人だけど ホントは優しい人なのかもしれない・・・ 僕はぼんやりとそんな事を考えていた。 「・・ほら、また・・・お前、起きてる?」 また、言われてしまった。 考え事してただけなのに・・・ でも・・・ま、良いか・・・・! こんな時間まで僕の事心配で傍にいてくれたんだし・・・・ ボーッとしてるって言われるのは日常茶飯事だしな・・・・ 「もう、大丈夫です・・・・あの、すみませんでした」 「良いって!  相手役を心配するのも男役の役目だからな・・・・  じゃあ、飯食いに行くか!」 「はい!」 何だろう? 翔さんの言葉が少し胸に引っかかった。 それから翔さんお勧めの焼肉屋で食事をした。 「ほら、もっと食えって!」 「・・・もう、お腹いっぱいです・・・・」 「遠慮するなよ、役者は体力勝負だからな!」 「遠慮なんてしてません。  ホント、もう入りません・・・」 「お前、痩せてるもんな・・・・  そんなんで大丈夫か・・・?」 「はい?」 「今日みたいなのは・・・  もうごめんだからな・・・」 「はい・・・」 「よし!・・・じゃあ、食え!」 「え?」 「トップスター命令だ!」 あれ? まただ・・・胸が痛い・・・ 翔さんの言葉が胸に引っかかる・・・ 何でだろう・・・? 「もう・・入りません・・・」 「そうか・・・なら、そろそろ出るか・・・」 「はい」 翔さんは僕を先に店から出した。 会計を見せないのは下級生の僕への心遣いだろう。 「ご馳走さまでした!」 お礼を言う僕に笑顔だけで答える翔さん。 「・・・ほら、まだ寒いから風邪ひくなよ・・・・」 「はい、翔さんも・・・」 「じゃあ、また明日稽古場でな!」 「はい、また明日もよろしくお願いします。」 翔さんと別れた後、僕は急にさみしくなった・・・

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