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白昼夢 2

『また明日な!』か・・・ 俺は南と別れた後 胸に穴が空いたような寂しさを感じた。 ・・・引き返して抱きしめたい・・・ そんな事が出来る訳が無いのにと足が止まってしまった。 振り向くと遠くに南の背中が見えた。 俺は南が入団してきた日 緊張からか顔を歪ませて笑顔を作り 『ご指導お願いします』と言う南に恋をしてしまった。 何て云えば良い? あの頼りない笑顔に心を持っていかれたのか? ・・・守ってやりたい・・・ そんな感情が芽生えた。 それからと言うもの稽古場でも舞台でも 気付けばあいつを目で追ってしまう。 ドジってないか? 今の演出家の話、分かってたか? 舞台の準備はちゃんと出来てるか? ・・・心配しだしたらキリがない程・・・ 俺の心と視線の先を占めていくあいつ。 だから正直・・・ 南が相手役に抜擢された時、困惑した。 嬉しくないのか?・・・そうじゃない。 嬉しいけど・・・困る。 演技とは言え恋人同士の役をやるとなると 何時かこの気持ちがバレてしまいそうで・・・ 自分の想いだけでは どうする事もできない事はわかっている筈なのに。 どうした俺! しっかりしろ! だいたい、劇団内恋愛禁止だろうが! トップスターとして皆を引っ張って行く立場にある俺が こんな感情に現を抜かしててどうするよ! 南にとっては気にかけてくれる相手役の上級生でしかない。 考えるは止めだ! 辛くなるだけだしな・・・ 部屋に帰るとスマホが鳴った。 『もしもし』 『南・・・か?』 『はい、今日はありがとうございました』 『大丈夫か?気分はどうだ?』 『もう、大丈夫です』 『そっか・・・』 言葉が続かない・・・困った。 『また、飯食いに行こうな』 『はい、何時でも誘って下さい』 『えっ、良いのか?』 『もちろんです!』 耳元で嬉しそうな南の声が・・・ ん?嬉しいのか? 『おやすみ、ゆっくり寝ろよ』 俺の持ち味であるこの低音の美声で囁いた。 『翔さん、もう一度言ってもらえますか?』 『何でだ?』 『・・・ううん、いいや・・・おやすみなさい』 そう言ったかと思うと南から切られてしまった。 俺はベッドに入り今日の事を思い出していた。 倒れた南をこの手で抱き上げ、ソファーに寝かせるが 名を呼んでも返事が無い。 俺は脈を取り息をしているのを確認した後 そのままそっとソファーに南を横にしておいた。 青白い顔の南が痛々しい。 急な相手役抜擢だったから 色んなとこに引っ張り出されてたからなぁ・・・ 今までとは違った対応に追われて疲れてたと思う。 ・・・可哀想に・・・ その夜はなかなか寝つけず時計を見ると3時を回っていた。 寝なければと、思えば思うほど眠れず 寝不足のまま稽古場入りすると梨花が俺の顔をジッと見てくる。 「何?」 「翔さん、目の下に隈が・・・」 「あぁ、寝れなくてさ」 「どうしたんですか?  劇団命の翔さんなのに・・・大丈夫です?」 「ん・・・疲れてるだけ」 「それだけかなぁ・・・」 梨花は下級生なのにズケズケと物を云ってくる。 こいつが入団してきた当初は注意もしたが一向に直らず 俺も根負けして今に至る。 ま、これがこいつの持ち味で それが舞台に活かせるならそれもいいかって。 それにこの人懐っこい所が人気のもとでもあるらしいし。 俺がストレッチを始めると南が俺を見つけ 嬉しそうに声をかけてきた。 「翔さん、昨日はありがとうございました」 俺はその笑顔に眩暈がした。 ・・・お前の笑顔は俺には毒だ・・・ 「どうしたんですか?隈が出来てる」 お前のせいだって!と思っていたら 俺の代わりに梨花が答えた。 「寝不足なんだってさ!」 「梨花!」 「え・・・どうしてです?  あれから帰ったんですよ・・・ね?」 「ああ・・・」 だ~か~ら~、お前のせいだって!と言いそうになる。 すると、また梨花が先に口を挟んだ。 「何?昨日一緒だったの?」 「僕が貧血で倒れて翔さんに迷惑かけちゃって」 「そうなんだ。  ふ~ん、翔さん・・・そういう事なんだ」 「え?どう言う事?」 「何でもないよ!南は分らなくっていいから!」 ・・・梨花は変なとこで感がいいから・・・ 誤魔化してもバレちまうだろうな~。 南は梨花の言葉に首をかしげている。 「南は翔さんに優しくしてもらったんだよね?」 「うん、優しかったよ!」 おいおい、そんな事ここで言うか? 「良かったですね、翔さん!」 「梨花、もういいって!」 「わかりましたよ!邪魔しませんから~~!」 それが一言多いってんだよ! それから稽古の間ずっと 俺は梨花の視線を気にしながら過ごした。

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