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白昼夢 4

お喋りな梨花の口を塞ぐと南の顔色が変わる。。 「もう良いよ・・・」 南はそう言い残して行ってしまった。 え? 何、怒ってんだ? 「あ~あ、怒らせちゃった」 「何で?何で南は怒ってんだ?」 「分かってないなぁ・・・翔さんも南と同じだね~!」 何が何だか訳が分からなかった。 ・・・厄日なのか?・・・ 梨花は俺の顔をみてニヤニヤと笑ってるが 俺は背を向けて行ってしまった南が気になって仕方が無かった。 その後の稽古は薫に 「僕の退団公演なんだよ・・・しっかりして!」 そう叱られるぐらいグダグダで。 休憩時間に南が他の公演の話で呼ばれた事も 全く気付かない俺。 稽古場に戻って来た南は俺の方に視線を向け 一瞬、泣き出しそうな瞳で見つめたかと思うと項垂れた。 ・・・だから、何なんだよっ!・・・ そう独りで悶々としていたら稽古場がザワツキ始める。 昨年のサブ劇場での再演で 又、南が潤の相手役を演じる事になったらしい。 抜擢されていた新人が体調不良による休演から もしかしたら南がその役になるかも?とは聞いていたが・・・ 俺の次期相手役に決まった事だし 大丈夫だろうと勝手に思っていた俺は 先程の南と同じくガックリと項垂れてしまった。 「本当なのか?」 「本当らしいよ。  さっき、潤と南が呼ばれて直接言われたらしいし・・・」 「梨花、俺・・・・・」 また見なくてはいけないのか? 南の真っ直ぐに潤を見つめる瞳を・・・! あれは演技なんだと分かってはいても苦しかった。 頭を抱えている俺の背中を梨花が擦ってくれた。 「梨花、俺どうにかなっちまいそう・・・  俺の時期相手役だろ?  なんで・・・だよ・・・・・」 「そーだね・・・  でも、あの公演の二人・・・本当に恋人みたいに見えたって。  花苑 南の娘役としての魅力を風馬 潤が開花させたか?って記事もあったもんね・・・  翔さん・・・前途多難って感じだね?」 「お前・・・面白がってるだろ・・・」 振り返ると梨花は満面の笑みで俺を見つめていた。 こう言う時の梨花は悪戯っ子みたいに目がキラキラとしている。 「翔さん、分かってるとは思うけど・・・  その舞台稽古が始まったら南は潤の・・・」 「分かってるよ・・・分かってるって・・・」 他の劇団員と公演の話をしているのか 潤が南の腰に手を回しているのを見た俺は 正気ではいられなくなっていた。 「翔さん!何処に行くの?」 俺は南の横を通り屋上へと駆け上がって行った。 すれ違いざまに見た南の顔が悲しげだったのは俺の見間違いか? ドアを開けると小雨が降っていた。 俺は熱を冷ます様にその雨の中に入って行った。 ・・・どうしたんだよ、俺・・・ 何で涙が出るんだ? 南の悲しげな顔が俺を翻弄する。 どこまで俺を苦しめる気だよ。 ・・・秋の雨は俺の心を冷ますには少し冷た過ぎる・・・ 「翔さん」 振り向くと潤がドアの前に立っていた。 「何の用だ?」 「南の様子がおかしかったから・・・」 「それで俺にどうしろと?」 「分かりません・・・」 何が言いたいんだよ? 俺にどうしろって言うんだ! 「梨花が翔さんに聞いたらって・・・」 「俺にも分からない。  次期相手役だと言われてもまだ先の話だ。  この舞台が終わればお前の・・・・・」 「そうです・・・でも、今の南の心が掴めない・・・・・」 「だから、どうしろって言うんだ?」 「分からないんですか?  ずっと南が貴方の事ばかり見てるのを!!」 俺は潤の言葉に驚いた。 何を言い出すんだ! お前は・・・ 「本人もまだその事に確信は無い様だけど時間の問題だと思います」 「え?」 「この公演が終われば直ぐに稽古が始まります。  それからは南には俺だけを見て欲しい・・・」 「公演の為に・・・か・・・?」 「私生活も俺と・・・」 「それはお前と南の問題だ。  だいたい、劇団内は恋愛禁止だろ?  それが分かった上でお前は俺に口出しして欲しいのか?」 そう言うと潤の顔つきが変わる。 「そうですか・・・翔さんの考えはよく分かりました。  では遠慮なくやらせて貰います」 潤はそう吐き捨てる様に言ってのけた。 俺はその言葉にただ潤の顔を睨む事しか出来無かった。

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