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第1話  早速の死亡

「うっ……」 部屋の扉を盗み見ながら、俺は三本の指の第二関節を埋め込んだ。中指を頂点にして人差し指から薬指を左右に開けば、ぐちゅと粘膜が音を立てる。 部屋には鍵が付いていない。親が階段を上がってきたらすぐに誤魔化せるよう、ズボンも下着も膝下に巻き付いたままだ。下からはテレビの声が僅かに聞こえて来る。 母さんが寝てからやればいいものを、我慢できずにこうなっているわけだから、男子高校生の性欲というのは恐ろしい――いや男子高校生の中でも後ろの穴に指突っ込んでるのは少数派だってことぐらい知ってますけどね? 枕に顔を押し付けて目を伏せれば、瞼の裏側に端正な顔が浮かぶ。正面から見たことはあまりない。恥ずかしいし。クソイケメンに見据えられたら確実に後ろが疼くに決まっている。後ろだけならまだしも、前は確実にバレる。隠せない。 瞼の中に飼っている、言葉少ななイケメンがつと流し目を寄越した。 「――あっ、ん、うぅ……う~」 (天野……) 教室窓側寄り、周囲の話にインターバル長めの相槌を打つ姿。大口を開けず、口角を微かに上げて笑う姿。タイプを訊かれる姿。「お前は?」「……かわいくて大胆な子」 意外な返答に、反対の扉側で友人と話しながら聞き耳を立てていた俺の頭が冷えたことを覚えている。 かわいいこ、かわいい子かあ。しかも大胆。絶対無理だ。自分は決して大きくはないけど平均身長ぐらいあるし、別に童顔と言うわけでもなく、男なわけで。これで大胆に迫れるほど自信を持てない。 中学まで部活で走っていたから足がちょっと速いくらいで、でも結局それも「かわいい」にも「大胆」にも引っ掛かってこない。 ずっ、と鼻をすする。何だか悲しくなってきた。広げっぱなしの穴がスース―する。ローションが乾いてきた。階下のテレビが笑い声を炸裂させている。 いつの間にか蹴とばしてしまったらしい、足元のローションボトルに手を伸ばす。横着して右手を後ろに突っ込んだままだから、オウムガイみたいに体が曲がる。 本当はローションより潤滑ゼリーがいいらしい。最近調べた。今度買ってみようかな……なんか恥ずかしいけど、今更感もあるし……。 ボトルまであと爪一枚。さらに横着して、右足のつま先でボトルを蹴った。 瞬間、体がベッドからずり落ちる。あ、やば。急いで手を着こうとしたが、右手は体の下敷き、左手をぶん回したおかげで落下の勢いが加速する。膝下で纏めた下着達が体勢を整えることを許さない。 顔面に、ローテーブルの角が迫る。新しいテーブルを買った母さんが、古い方の置き場所に困って押し込んで来た一品。ゴッと鈍い音を立てて蟀谷付近を強かに打ち付けると、俺はフローリングの床に落ちた。後ろに回していた右手が体の下敷きになることで引っ張られ、嫌な角度を生む。 一番初めに耳を打った。首に体重が圧し掛かり、俺は、

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