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第9話 シャワーと王子

 浴室に入ったショウ様は、いつものように椅子に座ったけれど、落ち着かない様子で膝を擦り合わせている。 「あの、……大丈夫ですか?」  ショウ様は私の問いかけに、既に答えることができない様子だ。小さな口から熱い吐息が漏れ、目がとろんと虚ろになっている。時折身体が大きく震え、その度にショウ様は両腕を抱えて前かがみになり、息を詰めて耐えていらっしゃる。とても苦しそうだ。  これがいつもの夢の中なら、ショウ様のお身体に触れ、その衝動が早く鎮まるようにとお手伝いしてしまうところだが……どうしたものか。  ショウ様は魔力が上がるのではなく、効果を見る限り催淫効果のある薬を塗られたに違いない。あの変態ドM眼鏡野郎め。 「とりあえず、お湯を掛けて薬を流しましょう」  私はできるだけ刺激にならないよう、水流を弱めにシャワーを出し、ショウ様のお身体を流していく。 「──ッ、ア……ッ!」  お湯がお身体に当たった途端、ショウ様は声を上げた。どうやらイッてしまったようだ。足に白濁した体液が付いていて、何とも言えない気分になる。夢の中で散々あれこれしているにも関わらず、やはり現実でこうなると戸惑いの方が大きい。  私はその体液もシャワーで流すと、ショウ様は少しだけ落ち着いたようだ、私の顔を見て、ごめん、と謝ってきた。 「いえ。……まだ辛いですか?」  こくりと頷くショウ様。その表情からしても、それは嘘ではないようだ。あの変態ドM眼鏡野郎、ショウ様をこんな辛い目に遭わせて、一体何を考えているんだ。しかしアイツに責任を取れと言ったら、喜んでお尻を差し出してきそうで怖い。  そんな事を考えていたら、ショウ様が私の手を取った。そして泣きそうになりながらこう言う。 「ごめんリュート、変なお願いだけど……」  こっちを触って、とショウ様は私の手を後ろに持っていった。 「えっ、ショウ様それはさすがに……っ」 「お願い、自分じゃやりにくいから……っ」  ショウ様は俯いたまま、乱れた息の中そう叫んだ。ああもう、現実でもこういう流れになってしまうとは。私は内心頭を抱えた。しかしショウ様も不本意なのだろう、先程から視線を合わせないし、私の手を握る手が震えている。  というか、ショウ様は本当に後ろも使えるんですね、と変なことを考え、私は嘆息して意識を切り替えた。これはショウ様からのお願いだ。やましい気持ちは一切ないし、苦しんでいるショウ様の手助けになるのなら、とショウ様の髪を撫でる。 「バスタブに手を掛けて、四つん這いになれますか?」 「うん……」  ショウ様は素直に私の言う通りの体勢になると、私はショウ様の柔らかな双丘をそっと広げ、桜色に色付いた蕾を露にする。 「ん……っ、は……ぁ……」  ショウ様はそれだけでひくん、と身体を震わせ、甘い嬌声を零した。私はボディーソープを手にたっぷりと付け、そっとその綺麗な蕾を撫でる。その愛撫に期待しているように、その蕾はヒクヒクと動いた。 「……痛くないですか? 痛かったらすぐに言ってください」  私の言葉にショウ様はこくこくと頷いて、口元を手で押さえた。どうやら声を上げてしまいそうなのを抑えているらしい。ショウ様がまだ興奮状態にあるのは、先程達したのに萎えないショウ様の身体ですぐに分かる。  ああショウ様……こんなに震えて苦しそうに……あの変態ドM眼鏡野郎、オコト様のお付きじゃなかったら、告げ口でも何でもして、地方に飛ばしてやるのに。 「ショウ様、挿れますね?」  私はそっとその蕾の中心を、中指で押した。すると待ってましたと言わんばかりに、私の指はどんどんそこに飲み込まれていく。 「あっ、……ああっ」  ショウ様の腰が大きく震え始めた。中は複雑にうねり指を締め付け、奥へ、もっと奥へと(いざな)われていく。 「──ッ、ダメっ、イッちゃ……っ!!」  ショウ様は悲鳴のように高い声を上げたかと思うと、足の甲がびんっと伸びた。少しの間息を詰めて身体を硬直させていたので、どうやらイッてしまったらしい。けれどショウ様からは精液が出ていない。これがメスイキというものか、と私は妙に感心してしまった。 「ショウ様、どうです? 収まりそうですか?」  はぁはぁとバスタブの縁に顔を突っ伏し、息を整えているショウ様。その背中から肩にかけてうっすら桃色になっていて、私は気まずくなって視線を逸らした。すると指の位置がズレたのか、ショウ様の中の胡桃(くるみ)大のしこりに当たる。 「ひぁ……っ! ああっ!」  途端にショウ様の背中が反り上がり、ガクガクと腰を震わせ、ショウ様は先端から再び白濁した体液を吐き出した。ショウ様のあまりの反応に私は戸惑い、思わずすみません、と謝る。  そうか、ここが男もメスになるという性感帯なのか。実際に触るのは初めてだ……あ、いや、感心している場合じゃない。 「び、びっくり……した……っ」  ショウ様は今ので少し落ち着いたのか、余韻に肩を震わせながら呟いた。目元は赤く染まって瞳は潤んでいるけれど、先程の苦しそうな表情は消えていたのでホッとする。 「少しは落ち着きましたか?」  私はそう尋ねるとショウ様はうん、と頷くけれど目を合わせない。気まずいのだと分かったので、そっと指を抜いた。  その後いつも通りにシャワーを浴びるけれど、ショウ様はお疲れのようだったので、朝食のあとに二度寝を勧めた。ショウ様はそれまでやはりこちらを見てはくださらなくて、午後までゆっくり休むように告げると、どこかホッとしたようだった。 「リュート」  キングサイズのベッドに横になったショウ様は、こちらに背を向けたまま私を呼ぶ。視線が合わないのは少し寂しいと思っていたので、呼ばれたことが少し嬉しく、優しく返事をすると、ショウ様はボソボソとこう告げたのだ。 「ごめんなさい。あと、ありがとう……」  耳が赤くなっているのは照れからだろうか? 素直に感謝を述べられ、私はショウ様に見えないと分かっていても微笑む。 「……いえ。ではまた午後に、こちらに参りますね」  おやすみなさい、と私は言うけれど、ショウ様は寝てしまわれたのか返事はなかった。  私はショウ様のお部屋を出ると、はたと気付く。 「ショウ様が寝てしまったのに、夢の中に誘われなかったな……」  それがどういう意味を持つのか、この時の私は深く考えなかった。

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