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第18話 口淫と王子
本当に、ショウ様の成長には目をみはるものがあります。
あれから、一日に一度は勉強をする時間を取っているショウ様。相変わらず私が教えてくれるならと仰るものの、学びが楽しいと思い始めたのはいいことです。
「それにしてもショウ様、同じ年頃の者と学ぶ機会もあるでしょう? そちらには参加されないのですか?」
「……」
ショウ様は私の問いに、走らせていたペンを止めた。けれど何も言わずにまた文字を書き始めたので、スルーですか、と心の中で嘆息する。
そういえば、ショウ様は友人と呼べる存在があるのかすら知らない。そして、ショウ様のご兄弟のことも。皆さんご存命ならば、六十五人はいらっしゃるはずですが。
「リュートはそういう存在いるの?」
「ええ、一応は。最近はめっきり会えていませんが」
「……そう」
素っ気ない返事をされたショウ様は、またスラスラと問題を解き始める。
「……って、そうではなく、私はショウ様のことをお聞きしているのです。ご友人でなくとも、ご学友と過ごすのは、ショウ様の年頃なら重要……」
「うるさい」
静かな、けれどハッキリしたショウ様の声が、私を黙らせた。そして、そのあとにふわりと甘い香りが漂ってくる。
覚えがある。この香りは、夢の中でショウ様から発せられる香り……どうして?
しかしそれは直ぐに消えてなくなり、いつもの空間が戻ってくる。今のは一体?
「できたよ。褒めて」
私が原因を探ろうと、辺りの気配を気にしていると、ショウ様が紙をぺらりと差し出してきた。ショウ様の魔力を探ってみるけれど、やはりショウ様からは全く魔力を感じられません。
ショウ様から紙を受け取ると、答え合わせをする。……ああ、全問不正解ですね。
「……ショウ様……」
「褒めて。キスがいい」
「あのですねショウ様」
私はため息をついた。しかしショウ様は構わず「ん」と瞼を閉じて、唇を突き出している。勉強に対する姿勢は変わったものの、根本的なところはそんなにすぐに変わりませんよね。何事も初心者から、です。
「しませんよ、ショウ様」
ほらここから問題を一緒に解きましょう、と言うと、ショウ様は「じゃあお仕置きして」とどうしてもその方向へと導きたいようだ。
「ではお仕置きとして。今から学校に行きましょう」
「え」
案の定戸惑ったショウ様の顔を見て、私はニッコリと微笑む。
「お仕置きならピッタリですよね? ショウ様は学校に行きたくないんですから」
「……」
するとショウ様は何とも不服そうな顔をして、立ち上がった。そして、「寝る」といつものパターンで私を夢に誘うつもりでいらっしゃる。
「ショウ様。夢の中のまやかしの世界で、私を好きなようにするおつもりですか?」
少々厳しいようだが、私はそうショウ様に伝えた。するとショウ様はピタリと動きを止め、こちらにつかつかとやってくる。
そして、私の前に来ると、その場に膝をついた。
「ちょ、ショウ様? 王子である貴方が膝をつくなど……何を考えてるんです!?」
「黙ってて。僕だって、本気になればこれくらいできるんだから」
私はうぐ、と息を詰めた。どういうことでしょう? 最近、ショウ様のお声に反応し、反発することができないことがあります。これはもしかして、ショウ様が魔力を使って私を従えさせているのでしょうか?
私は微動だにできないでいると、ショウ様はそのまま私のズボンのベルトを外し始めた。
「ショウ様っ、ま、まさか……」
「……こういうのは好き? リュート」
私が危惧した通り、ショウ様は私の私を下着から取り出すと、その先端をちろ、と舐める。私は思わずショウ様の髪を掴み、離そうとするけれど、どういう訳かそれ以上手が動かなくなってしまった。
また甘い香りが鼻を掠める。やはりこれは、ショウ様が誘惑している時の──……。
そしてその香りを嗅ぐと、否が応でも私の私は反応してしまうのだ。そしてそれを手助けするように、ショウ様は先端に口付けをする。
「ショウ様……魔力が……」
私がそう言う間にも、ショウ様はそこに舌を這わせ、愛おしそうにキスをしていた。こんなの、見ていたらおかしくなりそうです。でも視線を逸らしたら、それはそれで敏感に刺激を拾ってしまいそうで、私はショウ様を眺めるしかありません。
「お止め、ください……」
「僕は黙れと言った。……気持ち良くしてあげるから」
「そ、ういう問題では……。……っ、ううっ」
ショウ様は私の硬くなった肉棒を、舌を絡ませるようにして口に含む。温かい粘膜に包まれて腰がゾクゾクし、熱のこもった吐息が口から出てしまった。
「僕の性欲処理も、世話係の役目にすればいいんだ」
「……っ、でしたら、私がこうされるのは違いますよねっ? 逆では……っ?」
ショウ様は私のすっかり勃ち上がってしまったそれを、吸い上げながら顔を前後に動かした。どうやっているのか、口内で複雑に動く舌は私の敏感な部分を掠め、思わずショウ様の髪の毛を力強く握って引っ張ってしまう。
「……」
ショウ様は私を口に含んだまま動きを止め、こちらを睨んできた。その強い視線に、私は畏怖 の念を抱き身震いする。
「ダメですショウ様、こんなこと……っ」
不敬と思いつつも更に掴んだ髪の毛を引っ張ると、ショウ様の香りが強くなった。頭がクラクラして一気に身に覚えのある感覚が襲ってくる。
「……っ! ショウ様!!」
私は理性と声を振り絞り、ショウ様のお顔を離すことに成功した。そのまま上がった息を吐きながらショウ様を見ると、ショウ様は視線を逸らす。
その、傷付いたようなお顔に、私はハッとした。ああいや、こちらが被害を被 っているのに、どうして私が罪悪感を持たなければいけないのでしょう?
「ショウ様、貴方は淫魔ですが、貴方が欲しいのは私の身体ですか?」
「……」
私はショウ様の手をそっと離すと、ショウ様は素直に従ってくださった。いきり立ってしまった私の私も、ショウ様の戦意喪失とともに萎れ、私は身だしなみを整える。
「私を振り向かせてみせると仰ったのは、嘘でしたか? 少なくとも今のショウ様より、そう仰った時のショウ様の方が私は好きです」
例えお気持ちに応えられないとしても、夫は私一人がいいと言っていたショウ様だ、無理やり誘惑して傅 かせては満足しないと見た私は、そうショウ様に言う。
するとショウ様は大きな目に涙を溜めて、ついにはその目から、キラキラと大粒の涙を零していた。幼く見えるお顔が、更に幼く見えて、私は思わず頭を撫でる。ああ、可愛いお顔が台無しですよ。
「だ……って、どうしたらいいのか分からない……っ」
ショウ様はそう言うと、溜まっていたものを吐き出すかのように、話してくださった。
現実では魔力が皆無で王子として扱われないこと、淫魔ゆえに強い性欲を持て余していること、私が好きだからそれも性欲として現れてしまうこと。かと言って、その辺の魔族を相手にしても、すぐに殺してしまうからつまらないこと。
……まあ、ショウ様はお若いので、やはり好きイコール性欲は分かります。私も覚えがありますし。
私は慰めるようにショウ様の頭を優しく撫でていると、ショウ様ははらはらと涙を落としながら続ける。
「だから、満足する自慰の仕方、教えて?」
私のショウ様の頭を撫でる手が、止まってしまった。
……本人は至って真剣なのでしょうけど、どうしてそうなる、と突っ込まずにはいられなかった。
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