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第20話 ショタと王子
「ショウ様、どうされたんです? そのお姿は……」
私は目の前にいる主人を見下ろし、呆然としていた。
遡ること五分前、私はいつものようにショウ様のお部屋へと出勤し、ショウ様を起こそうと寝室に入った。
先日『洗礼』を受けてから、ますます引きこもってしまったショウ様。私もある程度の『洗礼』参加者を『洗礼』しましたが、全て殺しきれたかというと……そうではありませんでした。ああ、私とした事が……力不足ですね。
でも、そんなヤツらの身を粉にして、お茶にして飲んだら大変美味でしたので、まあ良しとしましょう。
……話がズレましたが、私はショウ様の寝室に入ってショウ様を起こしたのです。そうしたら──。
「んー」
布団の中から聞こえるのは高い声。いつの間にショウ様のベッドに不審者が? と身構えたら、出てきたのは幼い顔の、ショウ様でした。
ええ、ショウ様はそもそも幼いお顔立ちですが、背も低くなり、手足も小さくなっていました。どうしてこんなことに、とショウ様にお尋ねすると、「トルンとあそんでた」と。……あの変態ドM眼鏡野郎め。
「とりあえず、お風呂に入りますか?」
「うん!」
元気よく返事をするショウ様。そのテンションでベッドから飛び降り、勢いよく走ろうとして派手に転ぶ。
「大丈夫ですか!? ショウ様!」
ああ、お召し物がブカブカで引っ掛けてしまったのですね。私はショウ様のそばで膝をつく。
「いたいーっ」
ショウ様はみるみるうちに大きな目に涙を溜め、涙腺を崩壊させていた。文字通り「わーん」と泣くショウ様は、本当に子供返り(物理)をしてしまったようだ。
「ああ、痛かったですね」
「だっこー!」
両手を広げて抱きつこうとしてくるショウ様。私はショウ様の要求を飲みつつ、風呂場へと移動した。
小さい、元のショウ様より少し丸みを帯びた身体は、温かくて柔らかくて気持ちいい。
「さ、着きましたよショウ様」
「リュートも、はいるの!」
「いえ、私がショウ様のお身体を洗って差し上げますので」
「やだ! はいるの!」
「んー!」と、私の服を引っ張るショウ様。抱っこしているので、暴れないで頂きたいのですが。
「分かりました、ショウ様。一緒に入りましょう」
「やったー!」
私に抱っこされながら、ショウ様は全身で喜びを露わにする。だから、暴れないで頂きたいです。
仕方なしに私はショウ様を下ろし、お召し物を脱がせた。「ぼくもてつだう!」と張り切ったショウ様が、私の服を力任せに引っ張る。
「シ、ショウ様っ、破れますからっ! ほら、これはこうして……っ」
何とか服を脱いだ私は、ショウ様と共に浴室に入った。早速椅子にちょこんと座るショウ様は、本当に幼子で可愛いですね。
私はいつものようにショウ様のお身体を洗って差し上げる。泡を洗い流すと、ショウ様は不器用に顔のお湯を手のひらで拭っていた。
「さあ、おしまいですよ。出ましょ……」
「つぎはリュートのばん!」
言うやいなやショウ様は椅子から立ち上がり、私の手を引っ張る。いいですから! と固辞するも、また目に涙を浮かべ始めたので、大人しく椅子に座った。
「あわ、いっぱいつけるね!」
「ああ、はい……お願いします……」
最早諦めの境地に入った私をよそに、ショウ様は楽しそうに背中に泡を付ける。そしてそれを塗り広げていくのですが……。
「……っ、ふふ……っ」
くすぐったい。ものすごくくすぐったい。
「ふふ、リュート、たのしい?」
私が笑っているので勘違いしたショウ様が、そんなことを聞いてくる。そして、ショウ様は前に回り、胸に、お腹にと泡を塗り付けていった。でもやはり、くすぐったくて……。
「ふは! ショウ様! もうダメです! 限界です!」
「あはは! それー!」
私が止めてくださいと訴えても、ショウ様はなぜか更に楽しそうに泡を付けてくる。埒が明かないので私は頭からお湯をかぶり、泡を洗い流した。
「ショウ様、もう出ましょう! 充分洗いましたよね!」
するとショウ様は何を思ったか、身体が濡れたまま、浴室を飛び出す。どうして!? と思いつつ私は腰にタオルを巻いて、ショウ様を追いかけた。
「ショウ様! お待ちください! ショウ様!」
「あはははは!」
しかも小さい癖にすばしっこいショウ様は、なかなか捕まりません。ああああ、床が水浸しですし、ショウ様は素っ裸ですし……世話係の本気を舐めてますね。
「ショウ様! この……っ! お待ちなさい!」
しまいには濡れたまま、寝室まで戻る始末。その上、風呂に入っている間に替えられたシーツを剥いでその中に潜り込み、私から逃げ回る。こうなれば仕方ありません、世話係の本気を見せてやります。
「捕まえた!」
「きゃー!」
私もショウ様に倣いシーツの中へと潜り込み、ショウ様を抱え込むように捕まえる。しかしショウ様は笑いながら全力で逃げようとし、私の体力を奪っていくのだ。
「さあ観念なさい、もう逃げられませんよ」
「リュートこわーい」
「こわーい、じゃありません。ほら、髪の毛も濡れたままじゃないですか」
出て頭を拭きますよ、と言うと、案の定ショウ様はやだ! と拒否する。
「やだじゃありません。風邪を引きますよ」
「やだ! ねるの!」
「寝るって……ここはシーツの中ですよ?」
「ねるの!!」
あ、またショウ様、目に涙を浮かべ始めました。
「じゃあせめて、頭は拭きましょう? このままでは気持ち悪いでしょう?」
「やだ!」
どうやらショウ様は、本当に見た目通りの幼子になってしまったらしい。どうしてあの変態ドM眼鏡野郎が、こんなことをしたのか謎ですが……いつかお茶にしてやる。
「……って、あれ? ショウ様?」
モゾモゾと、ショウ様が私の腕の中で身動ぎし、横になった体勢で膝を曲げた。待て、本当に寝るんじゃ……。
「……」
案の定、次の瞬間にはすやすやと規則正しい寝息を立てるショウ様に、私は全身の力が抜けてしまった。
そして、慣れないことをした私も、そのままストンと眠ってしまったのだ。
そして次に起きた時、ショウ様は元のお姿に戻っており、頬を染めながら「積極的なんだからぁ」と言われた。とんでもない。許すまじ、変態ドM眼鏡野郎。
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