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第21話 果実と世話係

 とある日、ショウ様はまた「ギャルソン」になって、屋敷の厨房を貸し切っていた。確か前回は「ハンバーグ」とやらを作って、白いシャツが真っ赤に染まっていましたが、今日はまた真っ白なシャツだ。新調したのでしょうか。  ショウ様はその細い腰に黒いエプロンを着けると、よし、と気合いを入れる。……今回は何を作ってくださるのでしょう?  作業台に乗っているのは、色とりどりの果実。見たことがないものまであります。 「ショウ様、その黄色いのは何ですか?」 「これ? さすがリュート、僕が好きになっただけあって、目の付け所が違うね」 「はあ……」  何と返したらいいのやら。私は曖昧な返事をすると、ショウ様はそれをとって私に渡した。  黄色い、棒状の果物? でしょうか。表面には黒色の斑点があり、見た目はそんなによろしくない。少し弓なりに反っていて、皮越しに力を入れてみると、中身は柔らかいことに気付いた。 「剥いてみて」  ショウ様がそう言うので、私は棒状の先端にある、芯のように硬い部分を引っ張った。てっきり、そこから種がズルズルと出てくるものかと思いましたが、どうやら違うようだ。なので、果肉らしき部分に爪を立て、皮を裂いてみる。すると、中からクリーム色の果肉が出てきた。果実らしい甘い香りがして、とても美味しそうですね。  しかし果肉そのものの触感は少しヌルッとしていて、おまけに力を入れたら潰してしまいそうで、扱いには注意が必要です。 「ショウ様、これでよろしいのですか?」 「うん、そのまま持ってて」  ショウ様はそう言うと、私の果肉を持った手を両手で包み、弓なりに反った棒状の先端を……舐めた。 「ショウ様、お味はいかがですか?」 「舐めただけだとそんなに味はしないかな」  そして今度はぱく、と先端を……齧らず口に含むと唇で果肉の表面を撫でる。しかもショウ様は顔を上下に動かし……ああ、ショウ様はまた私を誘惑しようとしているのですね。言われてみれば、その果肉の形は男性の勃起した陰茎に似ています。 「ショウ様、食べないのなら私が頂きますよ?」  そう言うなり、ショウ様は今度こそ果肉に歯を立て、それを食べた。 「ん……甘い」 「私も食べてみていいですか?」  ショウ様がいいよ、と仰ったので、果肉をひと口口に含む。食感は触感から想像した通り柔らかくクリーミーで、甘い香りが鼻から抜けてとても美味です。 「美味しいですね。魔界にこんな果実があったなんて」 「ううん、人間界からのお土産だよ、お母様の」 「オコト様……」  どうやらオコト様はたびたび人間界を訪れては、色んなお土産を持ってきてくださるらしい。こんなに美味しい物があるとは、人間界に少し興味が湧きました。 「……今度、一緒に人間界へ旅行する?」 「ええ、ショウ様がお望みなら私もお供しますよ」  頬を少し赤らめて、視線を泳がせたショウ様がそう言うけれど、私は敢えて世話係としての回答を出す。案の定途端に不機嫌になったショウ様は、「ギャルソン」の服を脱ぎ始めた。 「ショウ様、お料理はしないのですか?」 「しない。寝る」  ポイポイと脱ぎ捨てていくショウ様。私はそれをひとつひとつ拾い、後を追いかける。残った果肉を慌てて口に放り込み、ショウ様の下着を拾うと……って、下着? 「ショウ様、なぜ下着まで……!」 「うるさい」  ショウ様は大股でプリプリと怒りながら、尻をプリプリさせて歩いていく。屋敷なので身内と使用人しかいませんが、素っ裸で人の目に触れるのは、色々よくないような気がします。  しかし奇跡的に誰にも会わずにショウ様の私室へ戻ると、ショウ様は大きな目に涙を溜めてこちらを睨んできた。 「リュート、リュートは僕の世話係だよね?」 「ええ、仰る通りです」 「じゃあ、今からオナニーするから手伝って」 「……」  私は絶句する。何と答えるのが正解なのか分からず固まっていると、ほら、とショウ様は私の手を取り、まだ柔らかな部分に持っていった。 「ショウ様、自慰は自分でするから自慰なのであって、私が手伝うのは違いますよ」 「いいから」  ふにゃりとしたモノが更に押し付けられる。私はそれが次第に熱を持って硬くなっていくのを、意識しないように顔を逸らした。  ほらリュート、と私の手に擦り付けるように、ショウ様は腰を動かす。ああ、やはり聞く気はないのですね。  ではやはり、ここは仕事としてショウ様の望む通りにしましょう。  私は力を抜いていた手のひらを、緩く丸めて動かした。途端に肩を震わせたショウ様は、私の胸に縋り付くように抱きついてくる。  細い腰を支えながら、ショウ様のショウ様をゆるゆると扱くと、ショウ様の小さな桜色の唇から、甘い吐息が出てきた。ああやはり、ショウ様は敏感でいらっしゃる。 「……体勢、辛くはないですか? 寝室で、楽な姿勢でしましょうか」 「うん……」  私がショウ様の話に乗ったと分かると、ショウ様は大人しく寝室へと移動した。ベッドの上に座り、後ろから抱きしめてと仰るので言う通りにする。 「リュート」  ショウ様の細い身体を後ろから抱くように座ると、ショウ様は振り返らずに私を呼んだ。散々夢の中であれこれしておきながら、いざ現実でするとなると少し緊張されているようだ。……ズルいですね。  ショウ様の天然パーマの髪の毛が、首元に触れてくすぐったい。私は手を伸ばし、ショウ様の滑らかな太腿の内側を、指先だけでくすぐるように撫でた。

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