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第28話 マリッジブルーと王子
「うーん、どれがいいかな?」
「そんなの、コレ一択に決まってるじゃない」
とある日、ショウ様とオコト様と私は、数ヶ月後に控えた結婚式の、衣装選びをしていた。
通常ならばこちらが店に赴いて、採寸から始めるのですが、出不精のショウ様のことです、案の定出掛けたくないと仰り、仕方なく店ごと屋敷に呼ぶことにしました。
王族御用達の名店ばかりで私も恐縮でしたが、王族の一員になるのにその辺の店の衣装を着られちゃ、面目が立たないと魔王様が仰り、それもそうかと納得したところです。
「お母様、それはほぼ紐じゃないですか……」
「あら、きっと似合うわよ?」
今日も紐を着けていらっしゃるオコト様。ショウ様に同じような紐状の衣装? を薦めています。それ本当に結婚式で着るための衣装ですか?
「ショウ様、こちらはどうでしょう?」
私は話題を紐から逸らすべく、近くにあった衣装を取って掲げた。白のタキシードです。
「……却下」
ショウ様は口を尖らせた。あれ? どうして不機嫌になったのでしょう? その理由はすぐに分かった。
「リュート、僕は妻になるんだよ? 衣装は女性用に決まってるじゃない」
「え、そうなんですか?」
てっきりショウ様は、男性なので男性用衣装が着たいものかと……私の勝手な先入観で薦めてしまいましたが、これは反省です。
しかしショウ様は、もういい、と言って私を部屋から追い出してしまいました。背中越しにパタン、と扉が閉まる音がして、私はため息をつく。
ショウ様は、マリッジブルーというものでしょうか、結婚式の話になると、妙に神経質になる気がします。こういう時、男性の言動で将来を左右すると聞きますが、私にはさっぱり……あとでショウ様に伺ってみましょう。話し合いも夫婦として大事なことです。
そして数時間後。ショウ様がお一人で部屋から出てきた。いささかお疲れの様子でしたので、私室に戻ってお茶にしましょう、と言うとショウ様は「うん」とだけ言ってスタスタと歩いて行ってしまう。まだご機嫌は斜めなのですね。
「ショウ様、教えてください。私はショウ様の気に障ることをしてしまいましたか?」
するとショウ様は私を一瞥すると、歩く速度を早めた。私は追いかけて反応を待っていると、こちらを見もせずにショウ様は答える。
「今日の衣装選び、僕はすごく楽しみにしてた」
「ええ、存じております」
「なのにリュートは付いて回るだけ。僕たちの結婚式だよ?」
そう言われてハッとした。いつもの仕事の延長線で、私はショウ様やオコト様の邪魔にならないよう、控えていたのがよくなかったらしい。結婚式もショウ様が主役で私はついで。世話係の身ですし、目立つつもりはないと考えていたのが、ショウ様にはお見通しだったようだ。
「……すみません」
「やだ。今からお仕置き決定」
そんな、と見たショウ様のお顔は、イタズラを思い付いたような笑みを浮かべている。一体どんなお仕置きが待っているのでしょう? 考えるのも恐ろしいです。
部屋に着くなりショウ様は寝室に入って行った。そしてベッドの前で立ち止まり、私を振り向く。
こんな時なのに、ショウ様、少し背が伸びた? なんて思ってしまいました。
「リュート、僕を見てて。でもお触り禁止」
「はぁ……」
ショウ様は、仄かに熱を乗せた視線で私を見つめながら、シャツのボタンを外していく。漆黒の濡れたような黒髪が顔に掛かり、その隙間から覗く瞳やまつ毛が、妙に扇情的で……って、お触り禁止ですから、熱心に見つめては……これは心頭滅却しなければいけませんね。
「リュート」
しかしショウ様はこちらを見て、と言わんばかりに私の名を呼ぶ。細くて長い指が、ゆっくりとボタンを外していった。ボタンが一つ外れる度に見えてくる肌が、ミルクを垂らしたような、しっとりとした美しい色で、私の指がピクリと動く。……危ない、思わず触れてしまいそうでした。
「……触りたい?」
クスクスと笑うショウ様。その顔はいつもより大人びていて、本気で誘惑されたらひとたまりもないのだろうな、と思う。
「はい……」
「ダメだよ?」
するり、とショウ様の滑らかな肩からシャツが落ちた。やはり美しいショウ様の上半身は、細身ですが均整が取れていて、胸に付いた二つの桜色は既につん、と立っている。
あの桜色に触れた時の、ショウ様の反応を思い出してしまい、私は目を逸らす。触らずに見ていろなんて、本当にお仕置きですね。
目を逸らした私を、ショウ様は咎めず、ズボンの紐に手を掛けた。親指と人差し指で紐を摘み、焦れるほどゆっくり解いていく。
私は顔を逸らしつつも、チラリとショウ様を見た。するとショウ様と目が合い、私の状態を分かっていてやっている事に気付き、どうしようもなく興奮してしまう。
「ショウ様……」
「なぁに?」
触れたい。触れてめちゃくちゃにしたいと思いつつ、これはお仕置きなんだと堪えた。
ショウ様がズボンを下ろした。緩かったそれはストンと床に落ちて、私は見えたものから視線が外せなくなる。
ショウ様が着けていた下着が、先程オコト様に薦められていた紐状の物だったのだ。ショウ様の可愛らしい膨らみの部分だけが、辛うじて布ですが。
「ショウ様っ、それは……っ」
「ふふ、似合う?」
色は白。純白なのにこの壮絶な色香は何でしょう? 少しでもショウ様のショウ様が勃ち上がってしまったら、すぐにはみ出してしまいそうな程の面積です。小さな布から覗くショウ様……悪くないですむしろ良い。
「これだけじゃないよ? 後ろも見て?」
そう言って、ショウ様は足下にあったズボンを蹴って避けると、くるりと私に背中を見せた。
ほぼ紐だったので予想はしていましたが、ショウ様の尻が丸見えでした。ぷりんとした尻をショウ様はご自分で撫で上げ、足を広げて突き出してくる。
「えっちでしょ? ほら、欲しい?」
欲しいか欲しくないかと問われたら欲しいです今すぐにでも、という言葉が喉まで出かかって、私は拳を握った。
ショウ様はその果実のように柔らかく、甘そうな尻を掴んで広げ、その奥の秘めた場所を見せてくる。
「ここに、リュートの熱いのが入って……」
ショウ様は顔をこちらに向け、ご自分の指を口に含んだ。ああ、頭がクラクラしてきました。
「僕がきゅっ、てしてあげる」
「……っ! ショウ様ああああ!」
「あははは! リュートのえっちー!」
ショウ様は笑っていましたが、そのあとすぐに吐息混じりの嬌声に変わったことは、言うまでもない。
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