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第27話 変態ドM眼鏡野郎と世話係再び

「……」  私はいつものように自室で目が覚めた。けれど、目を開けた瞬間、いつもと違う景色に眉を顰める。 「ナニしてるんですか」  私は非常に不快な思いをしながら、目の前にいた男を睨みつけた。その男は「んふふふふ」と不気味な笑みを浮かべながら私の服の中に手を入れて、あろうことかまさぐってくる。途端に言葉で表現し難い嫌悪感が全身を巡り、私は思い切りその手に爪を立てた。 「あああん! 酷いじゃないか! せっかく吾輩が気持ちよくしてあげようとしていたのに!」  素早い動きで私から離れたトルン……いや、変態ドM眼鏡野郎は、赤くなった右手の甲をフーフーしながら言う。こいつ……私は本気で手を切り落とすつもりだったのに……やりますね。 「結構です。それに、もうお聞きになったでしょう? 私は身も心もショウ様のものになったので」  せっかく旅行のことについて、感謝を述べようとしていたのに、これでは言いたくなくなりますね。ええ、もう金輪際口にしません。 「残念だよ。一度リュートとは一戦交えたかったのに」  さすがに王子を敵に回したくないからね、HAHAHA! と変態ドM眼鏡野郎は肩を竦めた。一戦というのは……文字通り戦う方ではないですよね、よかった、戦わずに済んで。 「という訳で、取っておきのプレゼントを用意したんだ」  楽しみにしてくれたまえ、今日の仕事が何倍も楽しくなるよ、といつものように高笑いしながら去っていく。何の話でしょう? 嫌な予感しかしません。  とりあえず、もう支度して出ないと、ショウ様が起きる時間に間に合いません。全く、朝早いというのに、変態ドM眼鏡野郎はご苦労なことですね。ええ、もちろん嫌味ですとも。  私は急いで着替えて、準備をして自室を後にする。すれ違う使用人たちも心なしか、微笑ましい視線を私に向けていて、もう噂が広がっているのか、と少しうんざりする。  私とショウ様の婚約の噂が立つのと同時に、どうしてあんな王子が、とショウ様を悪く言う者が出てきたのだ。……ショウ様にも、少し強くなってもらわなければ。あの、気持ち悪いモンスターをいなした時のように。  そんなことを考えながら、ショウ様の私室に入る。いつものようにシャワーの準備をしてから、ショウ様を起こしに行った。 「ショウ様。おはようございます」 「……」  ──おかしいですね、いつもなら眠りの浅いショウ様は、声を掛けるだけで起き上がるのに。  頭まですっぽりと布団を被って、ショウ様は微動だにしない。まさか、具合でも悪いのでしょうか? 「ショウ様?」  そっと布団をめくると、そこにはショウ様が二人。  え? はい? ショウ様が増殖していらっしゃる? 「んー」  混乱する私をよそに、二人のショウ様はやっと身動ぎをしてむくりと起き上がった。見事なまでのシンクロぶりです。 「ショウ様、おはようございます。というか、まさかトルンの言ってたことって、これでしょうか……」 「「何言ってんの?」」 「いえ、トルンが……」  私が説明すると、ショウ様はやっとご自分が二人になっていることに気付いたようだ。 「僕ってこんなに可愛いんだね」  互いの両手を合わせて見つめ合うショウ様たち。いえ、可愛らしいのは間違いないですけど、問題はそこではないです。 「せっかくだし、トルンのお望み通りにしよっか」 「え、ですが今日はお勉強の時間を取ると仰ったじゃないですか」 「だって、こんなこと滅多にできないよ?」  やはりそちらの方面では、すごく積極性を発揮するショウ様。ベッドから降りてきて、私の両脇から顔を覗き込んでくる。そして案の定、甘い香りがしてくるのだ。私の欲情をきっかけに、ショウ様の誘惑が発動したようです。 「ほら、リュートは正直」 「しっかり僕に欲情してるのに。……ほんと、仕事一筋なんだから」  ねー、とショウ様たちはクスクス笑って、私の身体をさわさわと撫でてくる。四つの手が身体を這う感覚に、私は息が上がるのを自覚した。ショウ様の魔力を素直に受け入れることに、慣れてしまったのだろうか。私は世話係なのに、こんな……。 「し、ショウ様……せめてお勉強してからに……」  ショウ様を将来立派な魔王にするべく、私は導く立場ですのに。ああもう、ショウ様が二人いるからか、愛らしさも倍です! 幸せすぎます! 「あ、勃ってきた」 「ホントだー」  ショウ様の一人が、私の変化に気付いてしまったようだ。そのショウ様が私の隆起した股間をスボン越しに撫でる。するともう一人のショウ様が、「リュートはここ好き?」と私の後ろに回り、これもまた服の上から胸をまさぐられた。 「ショウ様……お願いですから……」  私は思わず切なげにため息をついてしまい、それにショウ様たちは気付かないはずもなく。 「お願いって? イかせて欲しいってこと?」 「リュートやらしーい」  いえ、やらしいのは貴方たちです、とは言えず、私はそっと、足の間を撫でる手を取った。 「ショウ様……まずはお勉強を。そのあとならいくらでもお付き合いしますから」 「……ふーん」  やはりご機嫌斜めになってしまったショウ様は、なぜかご自分のズボンを脱ぎ出した。いつも通り、全く人の話を聞いていませんね。 「リュート……」 「う……っ」  どうしてでしょうか、ショウ様と婚約してから、私はショウ様に逆らって自我を保つことが難しくなってきています。今だってショウ様のゆるく勃ち上がったショウ様と、私の私を一緒にショウ様に扱かれ──これが兜合わせというものか、と思う間もなく頭が真っ白になり、与えられる快感に悶えるしかありません。 「ふふっ、リュート、僕の誘惑がよく効くようになってきたね」  後ろにいたショウ様が、私の服の中に手を入れてきた。 「きっかけはリュートからもらうしかないけど、それさえくれればいつでもこういうことできるよ? だって婚約者だもんね」 「ん……っ」  後ろのショウ様が私の胸の突起に触れた。びく、と大袈裟に身体が震え、恥ずかしさでジワジワと顔が熱くなる。 「リュート、ここ好きでしょ?」  答えてよ、と鈴が転がるような声がする。こんな時でもショウ様のお声は美しくて愛らしい。 「ショウ、さま……っ、……す、すきです……」 「正直でいい子だね」  正面にいるショウ様が、ぺろ、と唇を舐めた。同時に私を扱くショウ様の手が早くなり、私は堪らず正面のショウ様の唇を貪るように口付ける。 「ショウ様……っ」  私は呻きながら、湧き上がる熱を吐き出した。同時にショウ様も達したらしく、その時に見たショウ様の、恍惚とした、でも瞳の奥に獰猛な光を宿したお顔を、私は忘れることはできないでしょう。  達したあと膝から崩れ落ちた私を、ショウ様が優しく抱き締めてくださった。いつの間にか、後ろにいたショウ様はいなくなっています。また都合のいい消え方ですね。 「リュート……好きだよ」 「ええ……」  かろうじてそれだけ返事した私は、少しだけ、この先こういうことが増えるのだろうか、と心配になった。

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