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第30話 パーティーと王子
私たちのパレードの様子は、瞬く間に噂になった。過去最高記録に匹敵するほどの襲撃に遭ったこともそうだけれど、パレードが終わった後、血が一滴も衣装に付いていなかったことが素晴らしいと讃えられた。ええ、もちろん狙っていましたよ?
そうすることで、頼りないショウ様に凄腕の婿が来たとなったので、しばらくはショウ様から民衆の視線を逸らせるはず。
「この度は、ご結婚おめでとうございます」
私たちは代わる代わる挨拶にくる招待客に、笑顔で応えていた。
ショウ様の今日の衣装は、スカートが胸下からストンと落ちた、オフホワイトのイブニングドレスでした。エンパイアラインというらしいですが、やはり控えめでありながらも、ショウ様の美しさが引き立てられていていいですね。髪飾りもグリーンや白の花が使われ、肩に垂らして、まるで長い髪のようにアレンジされています。大胆に胸元と背中が出ていますが、……ない胸にドキドキしてしまったことは内緒です。
「この度はご結婚おめでとうございます。淫魔様」
そんなことを思っていると、案の定、挨拶にやってきた輩の中に、失礼な物言いをする奴がいた。
「リュートは黙っててね」
パーティーが始まる前、何を言われても我慢しろと言われてその通りにしていましたが……ショウ様を侮辱するような言葉を言われては黙っていられません。
大抵は、私が睨みつけると去っていく連中でしたが、中にはそれすらも無視して突っ込んでくる奴もいまして。
「魔力もない、勉学もまともにできない王子が、魔力耐性だけが取り柄の一般人と結婚なんて……さぞかしベッドの上では魅力的なんでしょうなぁ」
ニヤニヤと、下卑た笑いを浮かべる男は私の鋭い視線を無視し、どうやって射止めたのか詳しく聞いてこようとする。我慢の限界で私が口を開こうとすると、ショウ様は私を呼んで微笑んだ。そこだけ花が咲いたのかと思う程の可憐さに、私は思わず口を噤む。
「ええ、僕は淫魔ですから。ベッドの上以外のことは、教えて頂けると嬉しいです」
ショウ様がそう言うと、その男は明らかに興奮したように鼻息を荒くした。しかし次第にその呼吸は激しくなり、ついには白目を剥いて倒れてしまう。
「お゙お゙っ! お゙あ゙あ゙あ゙!」
汚い声を上げながら、男はビクンビクンと陸に上がった魚のように身体を跳ねさせ、小刻みに全身を痙攣させたかと思うと、ピタリと動きが止まる。その顔は真っ赤になっていて白目を剥いたままだ。
「リュート」
ショウ様が静かに私を呼んだ。あっという間のできごとに呆然としていた私は、ショウ様から今まで感じたことのない強力な魔力を感じ、ショウ様を抱き締める。そして周りに呼びかけた。
「皆さん、この男のようになりたくなければ、今後ショウ様には失礼な発言をしませんよう。確かに普段は魔力が皆無ですが、それはショウ様の体質が特殊ゆえ」
「いいリュート……ちょっと、席を外したい……」
抱き締めたショウ様は、私にしがみついて小刻みに震えていた。私は返事もせずただちにショウ様を抱き上げ、パーティー会場を出ていく。
まずい、ショウ様の魔力がどんどん強くなっています。今のがきっかけで制御が利かなくなったのでしょうか。
「リュート、もう我慢できない……っ」
「え、せめてお部屋に……っ」
私は慌てて庭に出て、茂みに身を隠した。それと同時にショウ様に口を塞がれ、一気に身体が熱くなる。
「……っあ! ショウ様……っ!」
立っていられない程の目眩がして、私はショウ様を慎重に地面に寝かせた。目の前の伴侶に酷いことをしてしまいそうで、私はそれに抗うべく拳を思い切り握る。
「ショウ様……っ、だめですこんなところで……っ!」
「だ、って! 止められな……ンン……ッ!」
これほどまでに凄まじい誘惑は初めてだ。勝手に身体が動き、噛み付くような口付けをすると、ショウ様が涙目でこちらを見ていた。涎で濡れた唇が月明かりで淫靡に光り、私はふらーっと顔を近付けて、首筋に歯を立てる。
「──っ、ああっ!」
ショウ様の痛がる声が耳をくすぐった。まずい、止まらない。
私はショウ様のドレスを捲りあげる。するとそこに見えたのは、ニーハイソックスの可愛らしいレースと、先日見た紐の下着。
「……っ、ショウ様っ、何てもの穿いてるんですかっ!」
「だ、だって……!」
しかもショウ様のショウ様は既に下着からはみ出すほど硬くなっていた。柔らかな月明かりに照らされた、今にも爆発しそうな怒張は、私の理性を呆気なく飛ばす。
「り、リュー……ぅああっ!」
私はズボンの前を開けてショウ様の蕾に無理やり私を捩じ込み、馴染む前に腰を動かした。正直私もキツかったですが、ショウ様は私の比じゃないのでしょう。いつもの嬌声ではなく、グズグズと泣きながら声を上げるショウ様は、いつもより加虐心を煽り、いつもより性感を高め、いつもより……愛おしさが一層増した。
茂みの中とはいえここは外。誰かに聞かれたり、見られたりするかもしれないと思っていたのに、途中からはそんな考えなどどこかに行ってしまった。ただただ、ショウ様が欲しい、ショウ様を愛したい、それだけが身体を突き動かす。
「ショウ様……ああいう輩は、今後私が排除しますから……っ」
「ごめんリュート……! 中途半端な淫魔でごめんね……っ!」
泣きながら、ショウ様は身も心も……下半身も、私をギュッと抱き締めてくださる。その瞬間、私の熱が大きくなってうねり──爆発した。
「ん、んんっ……」
ショウ様が私の熱を感じて声を上げる。息が上がったまま、また貪るように口付けをすると、ショウ様の魔力が急速に消えていくのが感じられた。
「……落ち着きましたか?」
「うん……」
他の人を巻き込まなくてよかった、と私はショウ様の額に口付ける。
「リュート」
私はショウ様の柔らかい太腿を撫でていると、ショウ様は涙を溜めて微笑んでいた。
「……ありがとう、結婚してくれて。ありがとう……僕を受け入れてくれて」
そう言う間にショウ様の目尻から涙が零れる。キラキラと輝いていたそれは、宝石かと思う程美しく、私はその涙にそっと口付けをした。
「ええ。愛していますよ、ショウ様」
そしてまた、お互いの熱を求めてキスが始まる。
ああ、明日のパーティー、出席できるでしょうか……? せめてショウ様に、辛い思いをさせないようにしないと、ですね。
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