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第3話

体奥の違和感で目が覚める。 隣ではスワローが大の字の高鼾をかいている。一発ヌイてさっぱりした寝顔が羨ましい。 弟を起こさないようそっとベッドを抜け出す。 薄い壁一枚隔てた隣室は寝静まり、男女の交歓の声も途絶えている。 スワローと性行為に及んだ直後、おもいきり壁を殴られビクリとした。 なんだよ文句あっかお互い様だろなんなら4Pすっかと殴りこみかけた弟を羽交い絞めにして連れ戻し、倍して疲れた。 いくらゴムを着用しても奥深く穿たれた鈍い痛みはしばらく消えない。 ピジョンは忍び足でバスルームへ行き、一人ゆっくりシャワーを浴びる。 「ふう……」 喉を仰け反らせ、降り注ぐ湯に全身をさらす。 温かい湯を全身に浴び、生き返る心地がする。 ピジョンは表情を寛げて全身を浄める。 ピンクゴールドの髪、均整の取れた中背…… スワローほど引き絞られてはないが、彼もまた成長している。 もう声変わりはすっかり終えて、三年前は少年のあどけなさを残していた顔立ちも大人びた。 スワローと比べればどうしても見劣りするが、顔自体はけっして悪くない。地味な風貌ながら清潔感のある好青年といった雰囲気で、はにかみがちな笑みと謙虚な物腰に母性本能をくすぐられる女もそこそこいる。 しかし生来の弱腰が災いし、ぱっとしない印象が付き纏う。 「う……まだなんか変なかんじだ。乱暴なんだよアイツ……」 ぬくい湯が体伝いに流れる感触にぞくぞくし、内腿を神経質に擦って残滓を洗い落とす。 コックを締めてタイル張りの床を歩く。 洗面台の前で立ち止まり、首に巻いたタオルで髪を拭く。 壁に嵌めこまれた手垢だらけの鏡に視線が吸い寄せられる。 そこに映し出されたのは上等なシャンパンを思わせるピンクゴールドの髪から雫を滴らせ、思慮深げな赤錆の瞳に戸惑いを宿す青年。 どこへ行くにも肌身離さず身に付けている銀の十字架とドッグタグが裸の胸に揺れる。 ドッグタグには思い出が詰まっている。 十字架は恩師の贈り物だ。 どちらもピジョンにとってかけがえのない宝物だが、近頃では特に十字架を拠り所にしている。 就寝中も首にかけたままなのは、良心に見張っていてほしいからかもしれない。 「…………」 無意識に顔が歪む。 鏡を凝視する目に鬱屈がきざし、忸怩たる色が浮かぶ。 鏡に切り取られた裸の青年…… 首の根元、鎖骨の上、乳首、脇腹。 服に隠れるか否かぎりぎりの線を攻め、上半身と下半身の至る所に散りばめられた生々しいキスマークと歯型の数々。 日数が経過して色素が沈殿したものから昨日今日できた真新しいものまで、激しい情交の痕跡が白い肌を蝕んでいる。 それ以外にも新旧大小の傷痕がある。賞金稼ぎになる以前にできたもの、賞金稼ぎになって新しく増えたもの……割合は半々だ。 前線にでるスワローはもっと多い。 首筋にできた咬み跡をなぞり、眉間を曇らす。 「人前じゃ脱げないな……」 脱ぐ予定もないけど。自分で言っててちょっとだけ哀しくなる。 ピジョンは鏡の正面にただずみ、久しぶりに自分の体を検める。 じっくり見て面白い顔と体でもなし、鏡が暴きだす現実と向き合う億劫さに避けてきたが、一度ひっかかると目がそらせない。 普段からモッズコートを着込んでいるのは、スワローが付けたキスマークを隠す為でもある。 それはロザリオとドッグタグにもいえる。悔しいかな、スワローの指摘は図星だ。二重の鎖で首の痣をごまかしているのだ。 十字架でキスマークを隠すなんて、われながら罰当たりだと自嘲する。 スワローは噛み癖がある。セックスに夢中になるとピジョンの体中がぶがぶと噛み付く。おかげでピジョンはキズだらけだ。 それでも今日はまだいいほうだ。 ちゃんとゴムとローションを使ってくれた、最低限ほぐしてもくれた。機嫌が悪い時は生でヤるし中に出す、もっと悪い時は縛られたり目隠しされたり玩具や道具を使われる。スワローは子どもと一緒だ、新しいオモチャを手に入れるとすぐ使いたがる。 この三年というものピジョンは実の弟にいろんなものを使われ、いろんなことをされた。スワローの機嫌が最悪な時は…… 思い出したくもない。 『兄貴はこうされんのが好きなんだろ?』 「…………ッ」 シャワーを浴びた直後で火照った体に悪寒が走り、コツンと鏡に額を凭せる。 目を伏せた拍子に乳首を囲う歯型がとびこんできて、悔しげに歪めた眸が熱っぽく潤む。 俺は普通のセックスがしたいのに、普通のセックスじゃ満足できないカラダにされてしまった。 今じゃシャワーにすら感じてしまう始末だ。 「は……」 蒸れた吐息が鏡を曇らせ、鎖骨の窪みにたまった水滴がゆるやかに伝い落ちる。 精力絶倫の上にサドっけのあるスワローは正常位だけじゃ満足できず、好奇心と性欲の赴くまま兄にさまざまな体位を教え込んでは、夜のベッドや床や風呂場で実践させる。トイレで強要されてないのだけが救いだが、それも時間の問題だ。 アイツは俺の穴しか要らないのか? だからバックでガツガツやりたがるのか? バックじゃキスもできない、抱き合えないのに…… 「!いツっ」 できたばかりの歯型を突付き、すばやく指を引っ込める。 「なにやってんだかな……」 がっくりと肩を落とせば、鏡の中の冴えない顔色の男もまねる。 レイプまがいじゃない、SMもどきでもない、普通のセックスがしたいというのはわがままだろうか。 最初の頃は毎日のように求められ、このままじゃ腰が壊れる体がもたないと懸命に説得しなんとか週三程度に加減してもらった。 痛いのが好きいじめられるのが好きとずっと言われていると、自分でもだんだんそんな気がしてくるから洗脳は怖い。 俺の性癖はノーマルなのに、底なし沼に嵌まるように倒錯に染まっていく。 アナルセックスで中出しされると後始末が大変だ、大抵ピジョンが風呂場に行って一人苦労して掻きだす羽目になる、スワローはその間高鼾だ。最初の頃はよく腹をくだしては「生理痛?」とひやかされていた。 「……ほんとアイツ最低だな」 弟の言動にむかっ腹を立て、ぼやく。 「大体アイツはひとりよがりなんだよ、俺の言うことなんかてんで聞きゃしないで勝手に突っ走る、仕事も夜もなんでもそうだ。さっきだって前ほったらかしで苦しいの知ってるくせにわざとじらして……そりゃ最初こそちょっとさわったけど半端で寸止めは苦しいだけ、わかっててわざとやってるんだ、こっちだって最中にさわる余裕ないのに……突っ込まれただけでイケる?自分のモノに自信もちすぎだろ、俺が上手くイケないの知ってんのに……」 この三年間、さんざんスワローに振り回されてきた。 コンビを解消したいと願ったのは一度や二度じゃない、ほぼ毎日何回も思っている。昼間だってそうだ、事前の打ち合わせどおりに動かないからひやひやした。 ピジョンが迷惑をこうむるだけならまだいいが、最悪まきこまれて死者が出る。 死。 鏡の顔が弟にすりかわり、挑発的に口端をねじる。 『てめえも俺とおんなじだピジョン。だれかを撃ったあとは興奮して寝付けねー、めちゃくちゃに抱かれねーと火照りがおさまらねー』 「……………」 『同類だろ、俺達』 「うるさいよ、ばか」 スワローはすべて見透かしている。 ピジョンの欺瞞も悪あがきも、なんでも。 俺達には同じ血が流れている。 だから同じものに興奮する。 硝煙を嗅いだ日やスコープ越しに死線を見た日は神経が昂って仕方ない。指に食いこむ引き金の感触を何度も反芻し、鼻腔を突く硝煙の匂いを反芻し、網膜に投影された十字の視界を反芻し…… セックスでひと汗流さないと寝付けないのはピジョンも同じだ。 スコープ越しに捕捉したスワローは、実に生き生きと気持ちよくナイフをふるっていた。 心底血を見るのが楽しくてしょうがない笑顔。 ひとを殺すために生まれてきたといわんばかりの狂奔ぶり。 ピジョンはスワローの|安全弁《ストッパー》だ。 ピジョンがいなければスワローはとっくに人を殺していた、一人殺せば十人殺すも百人殺すも一緒、地獄まであっというまだ。スワローがスコープで見張っているあいだはスワローはぎりぎり人を殺さない。いなくなった途端、嬉々として地獄に堕ちていく。 けれども俺達には同じ血が流れているのだ。 アイツが興奮するものに俺が興奮しないと、何故言える? 俺もそのうち、笑いながら引き金を引くようになるのか? 渇仰に似て自制できない衝動を持て余し、精神を落ち着けようと慎み深く十字架に触れる。 十字架は自分への戒めにかけはじめた。それが今ではキスマークの隠蔽工作に使われている。 まだ神様を信じていた頃の純粋な自分が今の俺を見たらどう思うか…… 「……幻滅するだろうな」 鏡の青年をまじまじと見直し、そこに過去の面影をさがすが、ピジョンの中の少年は永遠に死んでしまった。 スワローに貞操を奪われた時、子供時代は終わったのだ。 「…………」 気怠く片腕をのばし、鏡の十字架にてのひらを突く。 KILLERSとLOVERS……今の自分たちはどちらに傾いているのか。 「なんてな。ツキが逃げてくぞ」 鏡で苦笑いする男の眉間を弾き、皺を晴らす。 風邪をひく前にボクサーパンツを穿き、さっさとジーンズに足を通し、強引に気分を切り替えて室内へ戻る。 スワローはよく寝ていた。 隣のベッドに移ったのは自分が汚したベッドで寝たくないからだ……どこまで自分勝手なんだコイツ。 ピジョンは渋面を作り、わざと弟のベッドに腰かける。 もし自分が気持ちよく酔える体質なら缶ビールの一杯もかっくらいたい気分だ。ピジョンは酒に弱い。酔っ払って意識をなくすこともよくある。 童貞を捨てたのは酔った勢いで共寝をした娘で、幸か不幸か最中の記憶はすっぽり抜けてる。 でもなんとなく腰がだるかったし極め付けは裸だったので、自分は童貞を卒業したのだと信じている。 そんなことがあって以降、飲酒は自粛している。 熟睡中の弟の枕元に寄り添い、豪快な鼾をたてる寝顔をのぞきこむ。 口を開けば暴君に豹変するが、閉じていれば眠り姫だ。 優雅に長い睫毛が寝息に震え、半開きの唇からよだれがたれる。子供の頃の面影とダブる寝顔に微笑ましさを誘われ、ふと悪戯心が騒ぐ。 唇の前に人さし指をかざして吐息を感じる。 「……いい加減にしないと、口輪を誂えるぞ」 噛み癖の悪いコイツには拘束具が必要だ。 ヒラヒラのタンクトップから無防備な腋が丸見えだ。 ピジョンはそっと手を上げ、弟の頭をなでる。あれだけ酷いことをされたのに、どこからかやってくる愛情が厄介だ。DV被害者に特有の共依存だろうか……それならそれでいい。 モップのような手ざわりに昔死んだ犬を思い出す。自由奔放・大胆不敵な猫科の気質を有する弟だが、指に通す髪の感触だけは犬の毛並みに似ている。 この頃スワローは頭をなでさせてくれなくなった。そのぶんを取り戻すように、寝ているあいだになでまくる。 気のせいかピジョンが触れると表情が安らぎ、もういいかと手を離せば眉間に不快げな皺が寄る。夢の中でもわがままだ。 やめるタイミングが掴めず、スワローの頭に手を添えたまま呟く。 「……倦怠期かな」 体の相性は抜群だ。 その行為がタブーであるのに目を瞑れば、弟とのセックスは断然気持ちいい。 しかし行為を終えたあとは虚しさが拭えない、カラダは満たされても心が満たされず渇きが募る。 スッと指を移動させ、形良い唇の端を少しめくる。 スコープ越しに見たスワローは笑っていた。この上なく楽しげに笑いながらナイフを薙ぎ払い、大の男を一掃していた。 対するピジョンは……引き金に指をかけた時にどんな顔をしてるかなんて、絶対に知りたくない。 もしコイツと同じように意図せず笑っていたとしたら、俺は…… 「……引き金を引く時、舌の根に錆びた血の味を感じるんだ。遠く離れてるのに硝煙の匂いが纏わり付いて、余計に長くシャワーを浴びないと落ち着かない」 抑えの利いた声音でひとりごち、唇のカーブをくりかえし指で刷く。 電気の消えた部屋は薄暗く、カーテンの隙間から射す月明かりだけが仄かに照らす。 「お前もそうなのか」 弟の唇が切れているのに気付く……噛み癖があるのだ。 ピジョンは微苦笑する。スワローの機嫌が悪い時は、口の端が切れるまでフェラさせられた。今ではえずかず喉の奥まで咥えこめる……調教のたまものだ。 ピジョンは静かに目を閉じ、噛み締めるように呟く。 「……俺は普通がいい。普通になりたい」 変わってしまったもの、失ってしまったものが随分ある。それらを取り返すのは無理でも、新しく築き上げることはできる。そう信じなければ生きる甲斐がない。 賞金稼ぎで生計を立てながら普通に憧れるなんて身の程知らずな自覚はある。それでも安定を求めたい。 シーツに放り出されたスワローの手……昼間ナイフを握っていたその手に手を重ね、ゆっくりと組み合わせる。片膝をのりだしてベッドに上がり、徐徐に指に力を込めていく。 「向かい合わないと、こうできない」 最初の時みたいに。 イく時も手を握っててほしいというのは、贅沢だろうか。 スワローは俺の顔なんかどうでもいいか。だからバックで突っ込みたがるのか。俺は……こうしたい。無理矢理犯されてるんじゃなく自分の意志でお前に抱かれてるんだと、合意の上で愛し合ってるんだと信じたい。 わかっていたけど、弟が寝ているときだけ本音を言えるとしたら重症だ。 「ぅん……」 スワローが寝言をもらし、ピジョンはビクリとする。そのまま口をむにゃむにゃ曲げ伸ばし、しあわせそうにふやけきった笑みを浮かべる。 「もう腹いっぱい、食えねェよ……」 「月並みだな」 ごろりと寝返りを打ち、ピジョンに背中を向ける。 「腹ん中キツキツ……もう入らねえって。二本挿しは裂ける、上の口使えよ……」 「~~~夢の中まで破廉恥だな!」 ちょっとでもカワイイとほだされかけた俺がバカだった。 夢の中までセックスかよ。それしか考えてないのか。スワローの頭の中には酒と女と殺ししか詰まってない。しかもコイツ、受け身か。 寝返りを打ったスワローの後ろ髪がばらけ、淫靡な痣が暴かれる。 瞬間、頭に血が上ぼる。 バックで一方的に攻めたてられたピジョンには付けようがないキスマーク…… 「……だれと遊んだんだよ」 不公平だ。 ピジョンは攻められる一方、痛い思いをする一方で、スワローは好き勝手に気持ちよくなる。よそでは女遊びをし、気分次第で男にも抱かせてやってる。 さっき付けられた歯型と痣が疼き、仕返しの誘惑にそそのかされる。 ピジョンの背中に好きなだけキスマークを付けておいて、自分には一回たりともさわらせず、なのによその男だか女だかには首を吸わせている。 その事実に想像以上にうちのめされ、瞼の裏に像を結んだ光景に嫉妬が燃えて、夢の中で引き続き乱交している弟の顎を親指でクイと上げる。 俺ならもっと優しくできる。 気持ちよくできる自信はないけど……お前をいちばん可愛がってやれる。 「…………」 おかしい。変だ。間違ってる。スワローが俺に欲情するのはいい。よくないけど、それはいい。でもこれは……俺がこんな気分になるのは間違ってる、絶対正しくないことだ。 いまなら引き返せる。ベッドに戻ってなにもなかったふりをするんだ。そう急き立てる理性に本能が反発、何故俺だけ我慢しなければいけないと心の奥底で叫ぶ。寝てる俺にコイツがナニをしたか思い出せ。どうして泣き寝入りしなきゃいけない、不公平じゃないかそんなの…… 尖った喉仏が動いて生唾を嚥下。ヨレたタンクトップから覗く腋、伸びきった胸ぐりから見える乳首がこれでもかと劣情を煽り立てる。 さあ、|ヴィクテム《ツケ》を払わせろ。 「……っ……」 だれかが背中を押す。それは過去に出会った賞金首の亡霊かもしれないし、もう一人の自分かもしれない。 「ん……」 ピンクゴールドの前髪に結んだ雫がポタリとたれて、スワローがむずがる。 ピジョンは衣擦れの音を極力たてぬよう注意し、ごく用心深く弟のうなじに唇を這わせる。 「お前が悪いんだぞ」 唇ではむように皮膚を吸い立て、チュッと離す。 スワローに教え込まれたやり方でキスマークを上書き、一層濃くなった痕に留飲をさげる。 規則正しく起伏する胸板に手を移し、もう片方の手をタンクトップの腋からもぐりこませようとして…… ちゃらり。 十字架の鎖が鳴る音で、正気に戻る。 「…………なにしてるんだよ」 弟に跨って。 タンクトップに手を入れて。 凄まじい自己嫌悪の念に苛まれ、発狂したような絶叫の衝動に駆られる。ピジョンは跳ね起き、洗面所に駆け込み、蛇口を捻って勢いよく迸った水の下に頭を突っ込む。 バシャバシャと飛沫がはね、排水溝へ渦を巻き、上半身を伝った雫がジーンズにまで染みていく。 「う……」 無理矢理頭を冷やし、せっかちに蛇口を締め直し、濡れ髪を拭きもせず再び鏡によりかかる。 「最低だ」 どこの世界に弟を犯そうとする兄さんがいるんだ。 それだけはやっちゃいけないだろピジョン、ずっと昔に母さんと約束したろ。 俺が抱かれるのはいい。犯されるのも我慢できる。でもこれは……俺がスワローに手を出すのは…… 悪さを働いた手を罰するように十字架ごとキツく握り締め、力なくずりおちる。 自責の念に息が詰まるも裏にちらつく映像はとまらず、スワローが他の男の上でどう乱れるのかどんなに淫らによがるのか、下半身に直結する妄想が暴走する。 俺の知らないアイツがどんな顔で抱かれるか知りたい。 俺の知らないアイツがどんな声で喘ぐか知りたい。 アイツのすべてを暴いてひとりじめしたい。 『犯しちゃえばいいじゃない』 『そうするのが君の望みだろ。欲するがままに求めればいい』 『求めよ、されば与えられんね』 『与えられなければ奪えばいい、自分をもてあそんだ相手に思う存分復讐するのさ』 「うるさい」 『あの子を穴にするのよ』 『この穴は深い。底なんて見えやしない。光なんてくれてやらない』 『いい穴になるわよきっと。兄弟だものね、ぴったりハマるはずよ。たとえ半分でもおなじ血と肉を捏ねて作ったお人形さんよ』 『同じ淫売の濃い血を受け継いでるんだ、素質はあるよ』 「黙れよ」 『僕に処女を切られて妬いてるんだろ?穴扱いに腹を立ててるんだろ?』 『どん底まで落ちるのよ、お兄さん』 「黙れよ!!」 ビーが。 レイヴンが。 過去にされた仕打ちを執念深く根に持ち続け、仕返しすることでしかアイデンティティを確立できなくなった哀れな犠牲者たちが、偽善を剥がれておなじ煉獄に堕ちてきたピジョンを追い詰める。 俺は、兄さん失格だ。

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