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ニコイチになりたい✦side秋人 2

 撮影本番。  教室の窓辺の席で肩を組まれながら、二人でスマホの映画情報を眺めているところからのシーン。  蓮に肩を組まれた状態でスタンバイ。    蓮はここでスッと役に入り込む。顔つきが変わる。ワンコの蓮が消えて、みるみる男らしい姿に変身した。  俺もスッとはいかないが、ふんわりとした物静かな役になりきる。役が入り込むというのを経験してみたいが、こればっかりは持って生まれた才能が無ければ無理だ。  監督のスタートの声が響いた。   「あ、これはどう? アクション好きでしょ?」  スマホで映画情報を見ながら、今肩を組んできている親友に問いかけた。  俺の手の中のスマホをのぞき込んでくる。   「んー、でもお前、SFの方が好きだろ? だからこっちだな」 「前回もそう言って俺の観たい映画にしたでしょ。だから明日はこっちね」 「駄目だ。SFな」 「でも俺ばっかり……」 「いいっつってんだろうが。お前が楽しい方がいいんだよ、俺は」  俺たちが言い合っていると、クラスメイトが通りすがりにちょっかいをかけてくる。 「相変わらずイチャついてんなぁ、お二人さん」 「イチャつくってなんだよ。邪魔すんな」  親友はシッシッと追い払うように手をふった。   「へーへー。邪魔者は行きますよ。てかお前ら、本当ニコイチだよな」 「ニコイチ? ニコイチって何?」  首をかしげて問うと、 「ニコイチっつーのは、親友とか、んー。二人で一つとかって意味だよ」  ニッと笑ってクラスメイトが教えてくれる。 「へぇ、そっかぁ。うん。じゃあ俺たち、ニコイチだね」  ニコイチの響きに嬉しくなって親友に笑いかけると、穏やかに微笑んで俺の頭を撫でた。 「ん、そうだな」  なんだか気持ちがふわふわと嬉しくて、二人でニコニコ笑い合った。 「うへ。邪魔者は消えまーす」  肩をすぼめてクラスメイトが行ってしまうと、思い出したようにまた映画をどうするかで言い合いを始める。 「明日はアクションね」 「いいってSFで」 「アクションじゃなきゃ俺行かない」 「はぁ? お前が楽しくなきゃ意味ねーんだって」 「俺ばっかり楽しくても嫌だもん。だから順番こにしよ?」 「う……。お前、その言い方は反則だろ」  親友はうなだれて折れた。 「ふふ。俺の勝ちだね」    俺は嬉しくなって親友の肩にもたれるように頭を乗せ、頬をすり寄せた。    監督のカットの声で頭を切り替える。    ふぅ、と息を吐いた。  終わったとたん蓮の腕がスッと肩から離れていく。スタート前からずっとそこにあった腕の重みが無くなって、急に寂しくなった。  分かっているが気に入らない。 「おいこら。そんなに俺とくっついてんのが嫌なのかよ」 「えっ、イヤとかじゃなくて、だって終わったし」 「終わったとたん離れることないだろ。なんかムカつく」 「えっ。秋さん……怒ってる?」  蓮が動揺したように俺の顔を見る。  あ、今の俺なんか変だった。とふと我に返った。なんでだろう、子供みたいにすねてしまった。  こいつ何言ってんだ、と怒ってもいいのに。  オロオロと俺の顔色をうかがう蓮を見て、安心したのと可愛いのとで思わず笑ってしまった。    それに気づいた蓮が、ムッとした顔で怒ってくる。 「もしかして、からかってたの?」  すねてたなんて言えねぇしな。そういうことにしておこう。   「うん、そう。だって蓮、かわ――」 「可愛いとか面白いとか禁止!」  言葉をさえぎってでも『可愛い』を聞きたくなかったらしい。 「蓮、かわ――」 「わーっ!」  蓮の手が伸びてきて口を塞がれた。だからもう、そういうところが可愛いんだとなぜ分からないんだろうか。  

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