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ニコイチになりたい✦side秋人 1

 教室での撮影前、スタートまでの待機中に蓮と言い合いになった。   「だから、ちょっといったん離れようって」 「えーいいじゃんこのままで」 「よくないってば」 「毎度まいどこのやり取りよく飽きねぇな?」 「いや、それこっちのセリフだよ?」    次のシーンが蓮と肩を組んでのスタートだった。だからその体制のままスタンバイしていたら、この調子。  俺は蓮の腕が離れていかないように、腕をガッチリとつかんで阻止をしている。 「ちょっと、もう秋さんってば」 「そう照れんなって」 「てっ、照れてないよっ」    頬を染めてそっぽを向く蓮は誰が見ても照れていて、何言ってんだ、とおかしくなった。  離れようと必死でもがく蓮が面白くて、俺は意地でも離してやらない。  蓮にひたすらくっついてかまい倒す事が、近ごろの俺の一番の楽しみだ。  蓮の反応が面白くて可愛くて、ずっと見ていたくなる。  もう可愛くてどうしようかと思うくらい。  ドラマでは、蓮が攻めで俺が受け。  蓮は、爽やかで男らしくて格好良い役どころ。  撮影になるとドキッとするほど格好良い。  でも普段の蓮は男らしさより優しさと雰囲気の柔らかさが強い。俺が見上げるほど大きいのに、とにかくひたすら可愛い。  そして俺は、綺麗でふんわり物静かな役どころ。  普段は口も悪いし男らしいつもりだ。    つまり俺たちは、撮影が終わると真逆な立ち位置になる。  これがまた楽しくて仕方がない。  今回の作品がBLを題材としているからか、異性ではないからと問題視もされていないのか、俺たちがじゃれていても誰からも(とが)められない。  それどころか監督に「仲良いね、どんどんじゃれて!」と言われてしまっては、もうやめてあげるわけにはいかない。  まだ離れようと頑張る蓮と、ひたすらイチャコラするのみだ。 「あ、そうだ秋さん、ニコイチの意味ってもともと知ってた?」  離れるのを諦めたのか、話したいことを思い出してどうでもよくなったのか、蓮の抵抗が無くなった。  俺は小さく笑って力を抜き、肩を組まれたままもたれかかる。これだけでなぜか嬉しくて癒やされる。 「ニコイチの意味? まあなんとなく、親友かなぁくらいかな」 「え、知ってたんだ。俺、全然知らなかった」  このあと撮影するシーンで『お前ら、本当ニコイチだよな』というクラスメイトのセリフがある。  親友だったり、二人で一つという意味の言葉。 「俺はニコイチどころか、親友っていないかも」  蓮がボソッとつぶやいた。   「え、いねぇの? 意外……」 「秋さんは?」 「……お前かな?」 「え?」 「だから、お前」 「……いやそうじゃなくて。役の話じゃなくてさ」    俺は返事の代わりに、頭を肩先に押し付けるようにさらに寄りかかった。 「あ、秋さん?」    こんなに一緒にいて嬉しかったり楽しかったり癒やされたり、蓮以上のやつを俺は知らない。まだ出会ってそれほど経っていないのに、本当に不思議だ。  だからニコイチはお前がいい、と心の中で答えた。でも図々しくて言えない。  今までで一番撮影が楽しい。  オンエアもまだなのに、話数伸びたりしないかなぁと今から思ったりするほど、蓮とずっと会っていたい。どうしてだろう。本当に不思議だ。    

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