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SNS投稿動画✦side蓮✦1

 今日のロケは路上で行われ、朝の早い時間から撮影を始めていた。  見物人が少しづつ集まり、周りがにぎやかになりつつある。  街なかでロケをすると、秋さんはやっぱりオーラのすごい人だな、とあらためて実感する。  人が多ければ多いほど、秋さんだけが輝いて見えた。 「放送まで、あと3日! みんな観てねー」  ロケの合間にSNS用のカウントダウン動画を撮る。  カメラに手をふる俺に、秋さんが後ろからコアラのようにガバっと抱きついてきた。  秋さんは「観てねー!」と手をふって、抱きついたまま離れてくれない。足までがっちりクロスしていた。  ここで動画は終了のはずなのにカメラが回ったままだ。  秋さんが何かやるだろうと、みんなが期待して待っているのがわかる。 「あ、秋さん?」 「何?」 「いや、何じゃなくて……重いよ? 降りて?」 「やだ」 「ええ? ちょっと秋さん?」  後ろの秋さんをふり返ると、また何かいたずらを思いついたような悪い目つきをしていた。いやな予感がする。  秋さんはコアラ抱きのまま、ゴソゴソとポケットから何かを取り出した。手のひらに乗るくらいの小さな袋をちぎり、出した中身を俺の口にポンと入れた。 「っん」 「うまい?」 「……うん、うまい。チョコだ」 「じゃあ俺も」  もう一つ袋を俺の手のひらに乗せて「あーん」と口を開けて待っている。  秋さんが可愛い。可愛すぎて動揺したが、カメラは回ったままだ。俺はなんとか表情をたもち、チョコを取り出して秋さんの口に入れた。 「うん、うまい」 「う、うん」 「ははっ。蓮、耳赤い」 「え!?」 「うっそー」 「……っ、秋さんっ」  俺の背中で楽しそうに秋さんが笑う。  振り落とそうとしても、飛び跳ねてみても、走ってみても、何をしても秋さんはそのまま抱きついていた。  秋さんもスタッフもみんな笑っていた。    やっとカメラのレンズが下ろされた。 「ちょっともう、秋さんっ」 「ははっ。楽しい」 「もう、いいかげん降りて……」 「やだ、もうちょっと」 「ええ? もう、なんで……」  SNS動画は常にこんな感じだ。秋さんが毎回なにか突拍子もないことをやってくる。  ようやく降りてくれた秋さんが、俺の頭をグリグリ撫でた。 「あっまた、もう……」 「あー楽しかった!」  組んだ両手をぐっと前に伸ばし満面の笑みを見せる秋さんに、子供みたいだなと笑ってしまった。 「あれ、もう一個撮るんでしたっけ?」  秋さんが思い出したようにスタッフに確認を入れる。 「はい。また撮影の合間に放送前スペシャル第五弾、撮ります」 「はーい。じゃあ先に撮影だな。蓮、行くぞ」 「あ、うん」  スタッフと秋さんと、みんなで次の撮影シーンの確認をしながら場所をうつした。    ロケが始まってから結構な時間がたち、気がづくと周りがすごい人だかりだ。  集まった女の子たちが「あきれんー!」「秋人ー!」と叫んで手をふっている。  その中に「蓮ー!」という声も混じっていることに気づき、初めてのことで驚いた。  手をふり返すと「キャー!」と喜んでくれる。そこまで熱狂的なファンは今までいなかったから、嬉しい反面ちょっとたじろぐ。 「蓮、顔がこわばってんぞ?」 「こういうの慣れてなくて……」 「にっこり笑って手をふってあげればいいんだって」 「やってるよ?」 「あ、やってるつもりだったのか」  ふはっと笑いながら、秋さんがすり寄ってくる。 「立ってるとさ、蓮の肩にちょうど頭が乗せやすい身長差なんだよな」 「え?」     唐突に何を言うのかと思ったら、秋さんが俺の肩に頭を乗せてもたれかかってきた。  え、と思った瞬間、人だかりが「ギャー!」と大騒ぎになる。  そのまま腕もからませてきた。あまりに不意打ちすぎて心臓が暴れる。  秋さんはニコニコと微笑んで女の子たちに手を振った。  秋さんに脇腹をつつかれて、ハッとした俺も慌ててみんなに手を振ると、ギャラリーが興奮したように大変なことになった。 「秋さん、やりすぎ……っ」 「ん? こんなの普通だって。ファンサービスじゃん?」  苦情を言ったが、まるで聞き入れてくれなかった。  不意打ちは俺の心臓もやられるから本当にやめてほしい。  

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