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嫌われてる?✦side秋人✦1
蓮にしてはめずらしく、NGを連発している。
他の出演者並みになったというくらいのものだったが、普段がほぼ一発なので蓮には相当堪えているようだ。
「……ごめん、秋さん。俺……」
「大丈夫だって。いつも俺のほうがNG出してるじゃん? ほら、リラックスな」
蓮がつまずいているのは、初めて恋愛として好きだと気づくシーンだ。
いつものように肩を組んで、至近距離で見つめ合う。雑誌撮影でもよくやっているが、ドラマの撮影とはかなり違う。
好きだと気づいてしまったが、友情を壊したくない。気持ちを押し殺して胸を痛める。そして、泣きそうになるが悟られないようにふるまう。というシーンで、それができない。
「少し休憩いれようか」
監督の雰囲気は穏やかだ。めずらしいこともあるなぁ、と笑っている。かと言って、蓮はそれに甘えるようなやつでは、きっとない。
甘えたほうが気持ちも楽なのに、自分を追い込んでいないか心配になる。
気になりつつ、少しみんなと雑談をした。でもやっぱり気がかりで、一度楽屋に戻った蓮の様子を見に行こうとスタジオを出た。
楽屋を訪ねたが誰もいない。ならば休憩所かなとそちらに向かう。
休憩所をのぞくと、蓮はマネージャーと一緒だった。
蓮は、うなだれるように体を倒してソファに座っている。
「ダメなんです俺……秋さんだと」
近寄ろうとしていた足が、動きを止めた。動けなくなった。
「どういうこと?」
「近づくと、演技ができなくなって。もう役が……入ってこないんです……」
「うーん? 常にベタベタくっついてるけど本番は一発OKだよね?」
盗み聞きはよくないと思うのに動けない。
いや、動きたくない。
どういうことなのか、俺も聞きたい。
「…………近い距離で秋さんと目を合わせたら、役が抜けちゃうんです……。本当、役者失格です……」
そう言って、ひざに肘を乗せ両手で顔を覆って深い息をはく。
「ふむ。こんなに深刻な蓮くんは初めてだね。それで、理由は分かってるのかな?」
「……分かりません。経験不足だからかなって……」
「あー……。恋愛ドラマの?」
「…………はい。俺初めてなんで。だからかなって」
「うーん。でも、女性相手よりやりやすくない? 変に構えなくていいし。まあキスシーンは別としてね」
「え……逆じゃないですか? 女性の方がやりやすそう」
「ふぅん? まぁ、どっちにしても、困ったね。どうにか乗り越えてもらわないと……。ここでつまずいてたら、キスシーンなんて無理でしょう」
「………………っ。俺、できる気がしないんですよ……。たぶん、女とか男とかじゃなくて……秋さんだからダメなんだと思う……」
気がついたら、その場から逃げ出していた。
走りながら少し冷静になる。なぜ逃げたんだ。なぜ走ってるんだ。分からない。少しずつ足をゆるめて、楽屋までの残りを歩いた。
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